EMAの歌声の変遷|「CULT」を聴き直し、歌えなかった「SCAPEGOAT」へ戻るまで

EMAの公式プロフィール写真 EMA

DUSTCELLの「SCAPEGOAT」は、2025年に突然生まれた曲ではありません。
Misumiが原型を作ったのは、1stアルバム『SUMMIT』を制作していた頃。
EMAは、当時は難しすぎて歌えなかったと話しています。
それから四、五年後、曲を思い出した本人が、今なら歌えるかもしれないと提案し、日本武道館公演を前に完成させました。

一方、以前の歌を聴き返したEMAが見つけたのは、未熟さだけではありませんでした。
技術がついた今の自分より、昔のほうが自由だったと感じることもあったのです。
歌えなかった曲に挑めるようになることと、初期の声に励まされること。
その両方が、DUSTCELLで歌ってきたEMAの変化を物語っています。

「CULT」公式MV(2019年公開)。

「CULT」を聴き直すと、幼さと素直さが一緒に残っていた

EMAとMisumiは、2019年10月に「CULT」を発表してDUSTCELLを始動しました。
その最初の曲を振り返る機会になったのが、2023年のミニアルバム『ROUND TRIP』です。
次のフルアルバムを急いで作るのではなく、今できる実験として、自分たちの過去の曲を手掛かりに新作を作ることにしました。
タイトルには、過去へ行き、何かを持ち帰って先へ進むという考えが込められています。

「TULPA」は、「CULT」の世界とつながる曲として作られました。
サビのリズムや、後ろで鳴るメロディ、歌詞の世界に共通点があります。
EMAは録音の際に「CULT」を聴き返し、今の自分から見ると発声が幼かったと感じたそうです。
同時に、直感で素直に歌った、当時の自分なりの最善でもあったと受け止めました。

だからといって、「TULPA」で昔の声に戻そうとしたわけではありません。
EMAは別の取材でも、「CULT」に寄せるより、録音する瞬間の最善を目指したと説明しています。
「TULPA」では悲しさを強く出すよりも、聴く人が前を向けるよう力強く歌うことを意識しました。
暗いところを通っても最後には生きてみようと思える、その曲の行き先を声に託したのです。

新旧の曲をつなぐ案も、EMAから出ています。
「TULPA」の最後のサビには「CULT」のメロディや言葉を重ね、セリフのような掛け合いも取り入れました。
過去の歌声をそっくり再現するのではなく、今の歌の中へ以前の曲を呼び込む。
成長を感じる声で歌いながら、初期の作品にも居場所を作る方法でした。

「LAZY」の自由さが、行き詰まった今の自分を励ます

『ROUND TRIP』制作中、EMAは、自分が書くはずだった「Kick It Down」の歌詞を書けなくなっていました。
もっと勉強しなければ、もっとよい言葉を見つけなければという思いが強く、何を書いても納得できなかったといいます。
その曲では大まかな筋書きをMisumiへ渡し、作詞を任せました。
できることが増えても、自分に求める水準が上がることで、身動きが取れなくなる時期があったのです。

そこで少し前向きになれたのが、「SAVEPOINT」を書いた経験でした。
対になる初期曲「LAZY」を何度も聴き返し、過去の自分へ返事をするように言葉を考えています。
発表直後には青さが気になり、聴き返しづらかった曲なのに、時間を置くと、当時にしかない魅力も見えてきました。

「LAZY」公式MV(2020年公開)。

気付いたのは、歌詞のよさだけではありません。
活動を重ね、以前より声が出せるようになったと感じる一方、「LAZY」では今より自由に表現していたと、EMAは話しています。
初期の声から、そこまで気負わず音楽に向き合ってよいのではないかと励まされたそうです。
昔の自分を未完成だからと切り捨てていたら、受け取れなかった励ましでしょう。

「SAVEPOINT」公式音源(2023年、KAMITSUBAKI RECORD提供)。

この曲には、ステージで生まれたつながりも入りました。
2022年の「PREPARATION」で初めてバンド編成のライブを行い、そこで共演したギターとキーボードの奏者が「SAVEPOINT」のアレンジに参加しています。
Misumiによると、もとの伴奏はもっと簡素で、ギターとピアノが加わることで大きく変わったといいます。
過去を振り返る歌が、ライブの共演者を迎えて育ったのです。

2023年の「ROUND TRIP」ツアー最終日には、「LAZY」と「SAVEPOINT」を続けて演奏しました。
録音で過去の自分と向き合った組み合わせを、今度は観客の前へ持ち込んだことになります。
昔と今の二曲は、片方を否定して置き換える関係ではなく、一つのステージで続いていく曲になりました。

2023年にステージで歌うEMA
2023年のEMA(撮影:Takashi Konuma)。
画像出典:音楽ナタリーの公演写真

録音とライブで、同じ曲の表情が変わる

DUSTCELLの最初のライブは、無観客の配信公演でした。
EMAは、ライブで歌えるようボイストレーニングを始め、生活習慣も改めたと話しています。
観客の声が戻った2023年のツアーでは、生の歌に加え、コール&レスポンスを通じて交流できることを楽しみにしていました。
歌声を支える準備と、歌った先から返ってくる反応の両方が変わっていきます。

その違いを本人が具体的に語っているのが「オルターエゴ」です。
MisumiがDUSTCELL結成前に発表した曲を、二人は先にライブで歌い、2023年に音源として発表しました。
EMAによれば、ライブでは目の前のファンに高揚して荒々しくなる一方、録音ではクールな方向に仕上がったそうです。
同じ曲でも、観客と同じ場所にいるときの歌と、作品として残す歌に違う表情が生まれていました。

「オルターエゴ」DUSTCELL版公式MV(2023年公開)。

録音では呼吸音や笑い声を加え、ハモりなどの重ね方もEMA自身が考えています。
Misumiは、こうした遊びが久しぶりに出てきたと話す一方、彼女の歌には最初から信頼を置いてきたとも説明しました。
数年たって急に自由を許されたのではなく、もともと任せ合える関係の中で、その時期のEMAらしい遊び方が戻ってきたのです。
「LAZY」から受け取った自由さを考えるうえでも、同時期のこの録音は興味深い例です。

2024年|歌えた実績があっても、舞台では壁にぶつかった

ライブを重ねれば、毎回同じ手応えで歌えるわけではありません。
2024年の「光」ツアーの名古屋公演では、EMAは集中しきれず、自分のパフォーマンスを認められなかったといいます。
最終日には武道館公演を発表する予定があり、このままではいけないと悩みました。

その夜、ホテルで相談した相手が、キーボードの及川創介とヘアメイクのスタッフです。
及川は、壁のないアーティストなどいないこと、最後には自分で越えるしかないことを伝えました。
EMAは二人に支えられ、次の大阪公演ではよいパフォーマンスができたと振り返っています。
サポート奏者は音を支える人であると同時に、舞台の難しさを相談できる先輩にもなっていたのです。

2024年の光ツアーで歌うEMA
2024年のEMA(撮影:日吉“JP”純平)。
画像出典:音楽ナタリーの公演写真

ツアー最終日のZepp Hanedaでは、体力の少なさを補うため努力してきたことや、公演中にも壁にぶつかったことを観客に話しました。
そのうえで、その日は自分でもいちばんまっすぐ声が出たと感じた、と語っています。
名古屋での行き詰まりを知ると、この言葉は単なる好調の報告ではなく、一つのツアーの中で立て直した手応えとして伝わります。

2025年|歌えなかった「SCAPEGOAT」に、自分から戻る

「SCAPEGOAT」が生まれたのは、『SUMMIT』制作時でした。
曲を受け取ったEMAには難しすぎて歌えず、そのまま四、五年が過ぎています。
武道館公演を前に、あの曲はかっこよかったと思い出して聴き直し、今の自分なら歌えるかもしれないと、Misumiへ完成を提案しました。

ここには、技術への自信だけでなく、ライブに来る人への意識もありました。
武道館には初期のDUSTCELLを味わいたい人もいるだろうし、今の二人がこの曲調をやれば面白いのではないか。
EMAはそう考えたと話しています。
Misumiによれば、歌詞も昔からほとんど変えていません。
当時の言葉を残した曲へ、現在の歌い手が追い付くような再会でした。

「SCAPEGOAT」公式MV(2025年公開)。

完成した「SCAPEGOAT」は、2025年3月の武道館でも披露されました。
EMAは、実際に歌うとライブで大きく化ける曲だと感じたそうです。
録音できるようになったところで終わらず、観客の前へ持っていくことで、長く眠っていた曲にもう一つの手応えが生まれました。

「SCAPEGOAT」公式ライブ映像(2025年3月「ONE」日本武道館、同年6月公開)。

同じ公演で歌った「心臓」には、DUSTCELLとして初めて作った合唱パートがあります。
Misumiは「ONE」という公演名に合わせ、会場の人も含めて一つになることを考えて曲を作りました。
EMAは、目の届く範囲から観客の声が返ってきて感極まり、武道館だけで終わらせたくない曲になったと話しています。
初ライブが無観客だった二人が、今度は観客と一緒に歌う曲を持ったのです。

武道館では31曲を歌い、終盤は体力的にも厳しかったとEMAは振り返りました。
それでも、もっと大きな舞台で多くの人と楽しみたいという次の目標が生まれています。
同年11月の「月の裏」についても、東京と大阪の両公演で、それまでで最もよく歌えた実感があったと語りました。
大きな公演を一度歌い切ることと、次の公演でさらによい歌を目指すことが続いています。

上達した今も、難しい曲を好きになれる

2025年初めに公開され、同年の『碧い海』にも収録された「畢竟」。
EMAは年末の取材で、この曲も高く、速く、難しかったと話しています。
それでも、デモを受け取った時点で大好きになり、歌えてよかったという喜びもあったそうです。
「SCAPEGOAT」の再挑戦を知ったあとでは、この言葉も、難しい曲に向き合う楽しさを手にした人の言葉として響きます。

「CULT」を聴き返して、当時の発声と素直さを受け止める。
「LAZY」から、気負いすぎない自由を思い出す。
そして「SCAPEGOAT」では、以前は歌えなかった曲を、今の声で観客の前へ届ける。
EMAは過去を聴き直すたびに、直すべき点だけでなく、次の歌に持っていくものも見つけてきました。

曲ごとに声の表情や重ね方をどう選ぶかは、EMAの歌い方で詳しく掘り下げています。

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