理芽の歌声はどう変わった?「食虫植物」から『NEW ROMANCER2』へ、抑えて歌うまでの変遷

理芽の公式アーティストビジュアル シンガー

「食虫植物」の声が、そのまま理芽の普段の歌い方だと思っていたら、本人の説明は少し意外かもしれません。
あの曲では、いつもの自分とは違うかわいらしさを選んだと話しています。
一方、2023年の「えろいむ」では、切なく歌いたくなる言葉を、あえて淡々と届けました。

どちらも曲に合わせた選択ですが、その間には、歌詞の一語をどう立てるか、作曲家のイメージをどう自分の声にするかという試行錯誤があります。
初期には別々に録音を進めていた理芽と笹川真生が、同じ場所にいなくても歌の方向を共有できるようになるまで。
その変化を、二人が振り返った曲からたどります。

「食虫植物」公式MV(2020年)。

2019~2020年、クールな声の中から別の表情が見つかる

理芽は2019年、KAMITSUBAKI STUDIOのバーチャルシンガーとして活動を始めました。
デビューにあたって考えたのは、同じ事務所の花譜と声が似ていると言われる中で、自分の違いをどう出すかでした。
スタッフと話し合い、多言語の曲を歌えることと、クールな歌い方ができることを強みとして捉えます。
笹川にも、攻めた格好いいサウンドを作ってもらうようになりました。

最初のオリジナル曲は、2019年の「ユーエンミー」です。
笹川は、大人びた印象と少女らしさが同居する声を感じ、曲の雰囲気を考えました。
ただ、二人はまだ会っておらず、笹川が仮歌を送り、理芽の録音が完成してから聴く形だったといいます。
理芽は歌詞の「ユー」が誰なのかを想像し、自分で解釈して歌いました。

2020年の「食虫植物」は、そのクールな像とは違う声が広く届いた曲でした。
実は笹川が理芽と会う前、自分用に作りかけていた曲です。
自分で歌うには違うと感じて寝かせていたものを、理芽との制作が始まってから思い出し、仕上げました。
本人が普段とは違うかわいらしさを意識して歌ったことで、笹川もこの形でよかったと感じたと話しています。

反響が大きくなっても、理芽はすぐには自分のこととして実感できませんでした。
コメントを通じて、自分でも知らなかった強みを知ったといいます。
最初に決めた歌手像だけでは、自分の声の行き先を決められない。
人から届く反応も、次の表現を考える材料になっていきました。

2021年、滑らかさに言葉の区切りを加える

1stアルバム『NEW ROMANCER』に向けて曲を重ねるうち、制作の距離も変わりました。
初期の曲では別々に作業していた笹川が、後半の録音には立ち会うようになります。
理芽も、ただ必死に歌うところから、曲ごとに明確なイメージを持ち、歌詞や雰囲気に合わせて声を試すようになったと話しています。

理芽の1stアルバム NEW ROMANCER 公式ジャケット
理芽『NEW ROMANCER』の公式ジャケット。
画像出典:1stアルバム公式作品ページ

この頃の変化を、笹川は、声の癖が丸くなり、表情が増して、言葉が届きやすくなったと評しました。
理芽自身にも心当たりがありました。
以前は滑らかさや自然さを意識しすぎて、歌に区切りがなくなり、一つひとつの言葉の重みを出し切れていなかったのです。
曲を重ねる中で、単語をはっきり置くこともできるようになったと振り返ります。

だから、いつもきれいに歌うことが正解ではありませんでした。
「NEUROMANCE」では、笹川からヤンキーを思わせる人物像を伝えられます。
整った声にしたくないという狙いを、声量や音程の指示だけでなく、歌う人物の態度として共有したのです。
理芽にとっても、イメージをつかみやすい助言でした。

「NEUROMANCE」公式MV(2021年のアルバム収録曲、2022年公開)。

笹川は、できている部分を認めたうえで、もう少し変えてみる提案をする人だったと理芽は話します。
受け入れてもらえる安心感があるから、自分も違う歌い方を試せる。
声の種類が増えた背景には、録音で間違いを恐れず、提案を試せる関係がありました。

「やさしくしないで」と「十九月」で、違う難しさを越える

「やさしくしないで」は、本人の話を聞いて笹川が詞を作った曲です。
好きな色や食べ物、住む街、学生時代の話まで聞き、人に優しくされるのが苦手だという気持ちも題名につながりました。
外から想像した人物を演じるだけでなく、自分の中にある明るさも影も歌う曲になったのです。

ところが、サビは理芽にとって声を出しにくいキーでした。
下げることも相談しましたが、曲の雰囲気が変わってしまうと考え、そのまま挑みます。
最終的に歌えたことで、笹川も理芽のきれいな声の一面を発見しました。
自分のことを歌った曲が、自分でもまだ確かめていなかった声を引き出しました。

「十九月」の難しさは、声の高さとは別のところにありました。
語りに近い歌い方になると方言や訛りが出て、発音やニュアンスを何度も録り直したといいます。
最初は笹川が作った通りに歌おうとして苦戦しましたが、慣れてからは、自分に歌いやすい形を探すようになりました。
仮歌をなぞることと、作品として言葉を成立させることを、少しずつ分けて考えられるようになったのです。

花譜を迎えた「魔的」でも、似ていると言われてきた声だからこそ、それぞれの個性を意識しました。
一方で、理芽が大切にしたのは、いつも二人で歌うときの楽しさを忘れないことでした。
違いを出すことと、相手と同じ曲を楽しむことを、どちらも歌の中へ持ち込んでいます。

理芽 × 花譜「魔的」公式MV(2021年のアルバム収録曲、2024年公開)。

2022年、クールなお姉さんから外へ出た「現象」

本人が後に大きな転機として挙げたのは、2022年4月のV.W.P初ワンマン「現象」でした。
クールなお姉さんのように見られていた理芽が、活発な、素に近い面を見せられた公演です。
意外だという反応もありましたが、その後は曲の雰囲気も明るくなっていったと振り返っています。

ヰ世界情緒 × 理芽「泡沫」公式ライブ映像(V.W.P初ワンマン「現象」より、2023年公開)。

デビュー時には、花譜との違いを出すためにクールな表現を選びました。
今度は仲間と立つ舞台で、その像に収まらない自分を見せられた。
V.W.Pではほかのメンバーが歌う姿を間近で見て、よいところを取り入れ、自分に足りないところを考えたとも話しています。
自分らしさを守ることが、一つのキャラクターを守ることと同じではなくなっていきました。

2023年の取材では、録音にも慣れ、1stアルバムの曲を歌うときも歌い方が変わってきたと本人は語っています。
最初の作品を完成形として固定せず、その後の経験を持って歌い直す。
舞台や共演で見つけた自分が、すでにある曲にも戻ってくるようになりました。

2023年、「えろいむ」で切なさを足さない選択をする

映画『禁じられた遊び』の主題歌「えろいむ」では、最初は歌でも怖さを出す必要があると考えていました。
そこで笹川が提案したのは、不気味な声より幼さを出すことでした。
映画の子どもは不思議な力を持ちながらも、母を純粋に思っている。
理芽はその気持ちに寄り添う方向で、笹川と意見を合わせました。

死を思わせる歌詞の一節も、いつもなら切なく歌うところを、まっすぐ淡々と歌いました。
さらりと歌うことで、かえって怖く感じられるのではないか。
理芽が考え、笹川も賛成した判断です。
言葉の感情を強くなぞる以外の方法を、自分から提案するようになっています。

同じ年の『NEW ROMANCER2』に収められた「おしえてかみさま」も、もとはその映画の主題歌候補でした。
映画から離れて向き合うと、悲しいのか優しいのか、理芽にも一つに決められない空気がありました。
歌い出しのニュアンスに悩み、録音では緊張したといいます。

笹川が好むのは、激しい言葉でも一定の調子で届け、言葉そのものを入りやすくする歌です。
理芽は、自分のオリジナルを笹川との共作と捉え、迷えば方向を相談しました。
自分が思う理芽らしさだけで押し切らず、曲を書いた人の狙いも歌へ混ぜる。
本人が、1stアルバムの頃なら歌えなかったかもしれないと振り返るのは、そうした判断を求める曲でした。

「百年」では、隣に作曲家がいなくても選べた

笹川と二人で歌った「ルフラン」にも、その関係が表れています。
共演を楽しみにしていた理芽は、笹川が小さめの声で後ろを支えるように歌うことを、最初は不思議に思いました。
完成版を聴いて、目立って歌うだけではない全体の形を理解したと話しています。
曲の中で、自分以外の声がどこを受け持つかも見えるようになっていきました。

『NEW ROMANCER2』で最後に録音した「百年」では、笹川が体調を崩し、立ち会えませんでした。
理芽は前半と後半で空気が変わる曲を受け取り、静かな前半を優しく、さらりと歌うことを選びます。
胸の前で手を合わせ、教会で落ち着いて歌うような姿を思い浮かべたというのです。

完成した歌を聴いた笹川は、二年前ならこうは歌わなかっただろうと感じました。
自分がいつも考えていることを、理芽が汲み取ってくれたと受け止めたのです。
初期も別々の場所で録音していましたが、今度は、重ねてきた相談や試行錯誤を共有したうえでの別録音でした。
隣でその都度指示を受けなくても、曲に必要な抑え方を選べるようになっていたのです。

理芽の2ndアルバム NEW ROMANCER2 公式ジャケット
理芽『NEW ROMANCER2』の公式ジャケット。
画像出典:2ndアルバム公式作品ページ

理芽の変化には、声の表情を増やすことと、感情を出し切らずに残すことの両方があります。
「食虫植物」でかわいらしさを選び、「十九月」で自分の言葉の形を探し、「えろいむ」で切なさを抑える。
その判断を自分で引き受けられるようになったことが、初期から『NEW ROMANCER2』へ続く変化です。

曲ごとにその選択がどう働くかは、理芽の歌い方で詳しく扱っています。

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