古川慎の歌い方・発声|出だしの強さ、息、低い声を曲ごとに選ぶ

『我、薔薇に淫す』での歌い方を語る2022年2月の取材に掲載された古川慎 シンガー
『我、薔薇に淫す』での歌い方を語る2022年2月の取材に掲載された古川慎

古川慎の歌い方を考えるとき、声の大きさとともに注目したいのが、強く出す場所と、抑える場所の選び方です。
「我、薔薇に淫す」では、AメロとBメロの出だしを抑え、サビでは声を張る歌い方を本人が説明しています。

一方、「星に願いを」では、優しく歌おうとした結果、息が足りなくなった経験を語っています。
「rainy day」の低いキーや、「本日モ誠ニ晴天也」の語尾にも、それぞれ曲に合う声を探す工夫がありました。
本人が制作時に意識したことから、古川慎が声をどう選んでいるのかをたどります。

Aメロの出だしを抑え、サビで声を張る

「我、薔薇に淫す」は、アニメ『薔薇王の葬列』の第1クールオープニング主題歌です。
古川は2022年の『声優MEN』の取材で、録音当日にサウンドプロデューサーの桑原聖と話し合い、主人公リチャードの心情を掘り下げて歌う方向を決めたと説明しています。
そこから、中性的な歌い方を求める指示が生まれました。

準備の段階では、弦楽器を使った荘厳な仮音源を聴き、原作も読み進めています。
宝野アリカの詞から感じたのは、主人公が抱える執念や、光の当たらない心の部分でした。
大きな編曲に声量を合わせるだけでなく、その内面を歌うと決めたことが、出だしを抑える選択につながったのです。

具体的に変えたのは、1番のAメロとBメロです。
普段より少しアタックを控え、サビではしっかり声を張り上げるようにしたと話しました。
アタックは、ここでは声の出だしの強さを指す言葉として読めます。

出だしを抑える箇所と、声を前へ出す箇所を分けることで、人物の心情に近づこうとしています。
曲全体の壮大さと、歌が始まる瞬間の強さを、それぞれ選んでいたのです。

この声を見つけるため、同じ箇所を15、16回ほど録り直したそうです。
声優の仕事でもあまり経験しない表現だったため、細かな調整が必要でした。
本人が新しい試みと話したのは、こうした声の質感と、曲内での強弱の選択でした。

優しく歌った「星に願いを」では、息が課題になった

2019年の『Disney 声の王子様 Voice Stars Dream Selection Ⅱ』では、ソロ曲として「星に願いを」を歌っています。
アニメイトタイムズの取材で古川は、きれいな雰囲気に合わせ、声を張らずに優しく歌ったと話しました。

ところが、その歌い方では呼気の量が多くなり、短い曲でも息が足りなくなったそうです。
声を強く張る歌とは、別の難しさが現れました。
本人の経験には、柔らかい歌にしたいという表現の目的と、息をどう使うかという課題が一緒にあります。

曲の短さと、息の使いやすさは同じではなかったのです。
声を抑えて優しさを出したときに、どれだけの息を使っていたか。
本人の振り返りは、音量とともに呼気の配分へ目を向ける手がかりになります。
強い声が知られている歌手でも、控えた声を使う曲では、別の調整が求められるのです。

同じ取材で、全員歌唱の「みんなスター!」についても、細かな音の上下が難しかったと語っています。
楽しい雰囲気を伝えるため、本番でも何度か歌い、動きを覚えていったそうです。
一見シンプルな曲の中にも、歌い手が整える細かな要素がありました。

『星に願いを』の歌唱を語る2019年の取材に掲載された古川慎
『星に願いを』の歌唱を語る2019年の取材に掲載された古川慎。
画像出典:写真掲載元

低いキーは、「rainy day」の懐かしさのために

「rainy day」は、2023年の5周年記念シングルに収録された曲です。
古川はリスアニ!の取材で、このメロディならキーが低いほうが懐かしさを出せそうだと考え、キーを下げてもらったと説明しました。

ここでは、曲が持つ雰囲気に合わせて、声を置く高さを選んでいます。
昔の友人を振り返るという題材を、どんな声で届けるか。
その目的に、低いキーが結びついていました。

本人が詞に乗せようとしたのは、昔が楽しかったという思い出だけではありません。
一緒に遊んだ友人たちを振り返り、大人になって変わったことや、自分の中にある後悔も、きれいな旋律の中へどこまで出せるかを考えたそうです。
低い声が担う懐かしさには、楽しかった景色と、そこから離れた今の気持ちが重なっています。

本人は、キーの高さによって曲の雰囲気が変わることを、この制作で話しています。
メロディをどの高さで歌うかは、聴き手にどんな時間や気持ちを思い浮かべてもらうかにも関わる選択なのでしょう。
「rainy day」の低い声を考えるときには、古川が求めた懐かしさまで含めて捉えると、キーを選んだ理由が見えてきます。

言葉の区切りと、語尾の下げ方を整える

2020年の「本日モ誠ニ晴天也」では、声の勢いに加えて、言葉をどう続け、どう終えるかにも工夫をしています。
ライブドアニュースの取材で古川は、基本は仮歌を参考にしながら、細かなニュアンスを変えて録音したと説明しました。

例として挙げたのは、歌詞を区切る場所を動かすことと、語尾をなだらかに下げることです。
同じメロディや言葉でも、どこまでを一つの流れとして歌うかは選べます。
言葉の終わりに向けて、声をどう収めるかにも選択肢があります。

古川は、歌詞にある言葉が、もっと切なく歌いたい、ここには熱を込めたいという気持ちを引き出したとも話しています。
その意図を、区切りや語尾の小さな変化に結びつけていました。
感情を歌の中で形にするとき、声を出す強さだけでなく、声の終え方も使っているのです。

録音では、ディレクターの指示も受けながら調整しました。
最初の曲のイメージを軸にして、細部を変え、一つの歌へまとめていく。
本人が説明したのは、そうした積み重ねでした。

2020年の取材に掲載された古川慎の歌唱写真(公演年は不明)
2020年の取材に掲載された古川慎の歌唱写真(公演年は不明)。
画像出典:写真掲載元

ファルセットも、息継ぎも、具体的な曲の中で選ぶ

声の選択肢には、ファルセットもあります。
『DIG-ROCK』の「Never end」について、古川はPASH! PLUSに掲載されたインタビューで、このシリーズでは初めてかもしれないと語りました。
「Never end」は、日暮茜として歌う曲です。

本人が難しかったと話したのは、メッセージの途中に息継ぎがあることでした。
ブレスの位置を確認し、それぞれの場所に違うニュアンスを込めることを意識したそうです。
息を吸う場所を把握したうえで、言葉の表情も整えていました。

2024年の『アカペラ侍』の歌収録では、さらに具体的な声の選び方が記録されています。
めざましmediaの密着記事によると、「えーじゃないか音頭」を歌う古川に、ゴスペラーズの村上てつやが、声を伸ばす長さの調整と、ファルセットでの別テイクを求めました。
村上は声の伸ばし方を実演したうえで、歌っていたフレーズの「か」をもう少し長くするように求めました。
古川は、その指示に応えて録音しています。
一つの音をどこまで残すかという時間の調整と、裏声で歌ったときの音色の違いを、同じ現場で試した例です。

出だしを抑えること、声を張ること、優しく歌うこと、低いキーやファルセットを選ぶこと。
古川慎の歌には、曲の目的に応じて声を調整する、いくつもの具体的な選択があります。
自分名義の歌を始めてから、その選択肢をどう広げてきたかは、古川慎の歌唱変遷でたどっています。

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