緒方恵美の歌い方・発声|低音とファルセットを選び、ビブラートを控える歌

歌の解釈とフレージングを語る2018年6月の取材に掲載された緒方恵美の別カット(撮影:林直幸) シンガー
歌の解釈とフレージングを語る2018年6月の取材に掲載された緒方恵美の別カット(撮影:林直幸)

緒方恵美の歌には、低い声から始まる曲も、ファルセットから始まる曲もあります。
2017年のアルバム『real/dummy』では、制作プロデューサーの佐藤純之介が、「プライド」と「アルター・エゴ」の違いを、その歌い出しから説明していました。
一人の歌手が持つ低音と高音を、曲の中でどう生かすかを考えた録音です。

さらに「惑星照」では、緒方本人が、ビブラートを控えた声を選んだと話しています。
低いか高いかに加えて、音をどう伸ばすか、どんな人物を思わせる声にするかも、歌い分けの手がかりになります。
本人と制作に関わった人の説明から、その選択を見ていきます。

「プライド」は、低い声でも言葉が明瞭に届く

「プライド」について佐藤がまず挙げたのは、Aメロの歌い出しの低さでした。
低い音域でも、言葉がはっきり伝わることを、この歌の魅力として評価しています。
声の低さと、歌詞が明瞭に届くことが、一緒に語られていました。

低音を聴くとき、声の重さや響きの印象へ耳が向きやすくなります。
しかし、この曲について制作側が注目したのは、その音域で言葉を届けられることでもありました。
低い音を出せる範囲だけでなく、そこでどんな歌を成立させるかを考えた録音です。

佐藤は、緒方の声の低い成分を生かすために、いくつものマイクを試したとも説明しています。
最終的に選んだのは、ビンテージの真空管マイクでした。
歌い手が出す声と、その声をどう録るかの両方を考えています。

佐藤の説明からは、緒方が歌った低音の質感を、録音でも捉えようとした意図がわかります。
本人も、マイクによって録った音は違うと話していました。
完成した低音の印象には、発声と録音の選択が一緒に関わっています。

この曲では、まずAメロの歌い出しを聴いてみてください。
低い声で歌う言葉が、伴奏の中でどんなふうに届くか。
佐藤が評価した明瞭さを手がかりにすると、音の高さだけとは違う低音の魅力を考えられます。

2017年3月の『real/dummy』トークイベント(左が緒方恵美、右が音楽プロデューサーの佐藤純之介)
2017年3月の『real/dummy』トークイベント(左が緒方恵美、右が音楽プロデューサーの佐藤純之介)。
画像出典:写真掲載元

「アルター・エゴ」は、ファルセットから曲を始める

同じ『real/dummy』の「アルター・エゴ」では、高い声を曲の入口に置いています。
緒方は、アカペラを思わせるハイトーンから始まり、自分ならではの曲になるものを、藤戸じゅにあへ頼んだと説明しています。
低音から始まる「プライド」とは、最初に聴き手へ差し出す声が違います。

佐藤は、その歌い出しをファルセットと呼んでいました。
裏声を使った高い声から始めることで、二つの曲は対照的なものになったと説明しています。
緒方の歌の幅は、同じ声でどこまで音程を上げるかという話だけでなく、どんな声を選んで曲を始めるかにも表れています。

声の高さは、伴奏の組み方にも関わりました。
佐藤によれば、この曲では緒方の声の上の方を使ったため、低い音の領域へさまざまな楽器を入れられたそうです。
声が歌う場所と、楽器が鳴る場所を組み合わせて、曲の音を作っています。

「アルター・エゴ」では、声を高いところへ置き、その下に楽器の音を重ねるという制作側の考えがあります。
歌の高さが、バンドの音の中でどう生きるかまで選ばれていたのです。

「プライド」の低い歌い出しと、「アルター・エゴ」の高い歌い出し。
二つを続けて聴くときは、最初にどの声が現れ、その周りでどんな音が鳴っているかに注目してみてください。
緒方の声を、曲ごとに違う形で生かしたことがわかりやすくなります。

「惑星照」は、ビブラートを控え、直球の声を選ぶ

「惑星照」では、声にどんな年齢の印象を持たせるかが、歌い方に関わっています。
緒方は、自分が演じた小学生の役が中学生になったイメージで、言葉を書き、歌ったと話しています。
歌う人物の気持ちを考えることが、その声の表情につながりました。

そこで意識したのが、大人っぽい声にせず、ビブラートをあまり使わずに、直球の感じで声を出すことでした。
ビブラートは、伸ばした音に揺れを加える歌唱表現です。
緒方はこの曲で、その揺れを目立たせるより、若い人物を思わせる率直さを選んでいます。

ビブラートをかけられることと、どの曲でも同じようにかけることは、別の選択です。
この曲では、人物のイメージに合わせて、声へ乗せる表情を調整していました。
技巧を足すことだけでなく、控えることでも、歌の中の人を描いているのです。

録音を仕上げる佐藤も、緒方の生の声を聴いてきた記憶や印象を、なるべく忠実に再現しようとしたと説明しています。
あくまで佐藤が受け取った声の印象を、音源へ近づけようとする試みでした。
歌い手が選んだ率直な声と、制作側が残そうとした声の質感が、この曲では結びついています。

「惑星照」を聴くときは、音を伸ばす部分へ耳を向けてみてください。
その伸ばし方を、緒方が語った若い人物のイメージと一緒に考えると、ビブラートを控える選択の意味を捉えやすくなります。
高い音や低い音を出す能力だけでは語れない、歌の表情の作り方です。

自分の歌への向き合い方を語る2018年6月の取材に掲載された緒方恵美(撮影:林直幸)
自分の歌への向き合い方を語る2018年6月の取材に掲載された緒方恵美(撮影:林直幸)。
画像出典:写真掲載元

「プラチナ」は、曲のキーを下げて声の表情を選ぶ

2017年のカバーアルバム『アニメグ。25th』に収録された「プラチナ」では、曲の音域そのものを変えています。
坂本真綾の原曲をカバーするにあたり、緒方は全体のキーを大きく下げたと説明しています。
自分が演じた『カードキャプターさくら』の月(ユエ)に、歌詞が合っていると感じたためでした。

編曲の鈴木マサキには、ボーイズロックを思わせる音にしてほしいと頼んでいます。
歌う人物のイメージに合わせて、声を出す音域と、伴奏の雰囲気を一緒に選んだのです。
原曲をそのままの高さで歌うこととは、別の表現を目指していました。

曲をどんな人物の声で届けたいかという考えが、キーを決める理由になっています。
低い声を使うことが、カバー曲の世界を、別の人物の視点から見せる手段になりました。

『real/dummy』での低音とファルセットの違いも、この「プラチナ」のキー変更も、曲に合う声を選ぶという点でつながっています。
緒方が持つ声の幅を、一曲の中で何を伝えるために使うかを考える。
その歌い分けが、低音の印象に収まりきらない緒方恵美の表現を支えています。

出せる声の中から、その曲に必要な声を選ぶ

「プライド」では、低い声でも言葉が明瞭に届くところに、制作側が注目しました。
「アルター・エゴ」では、ファルセットを曲の始まりへ置き、楽器との組み合わせを変えています。
「惑星照」では、若い人物の声を思わせるために、ビブラートを控えていました。

そして「プラチナ」では、原曲のキーを下げ、歌う人物に合う声の表情を選んでいます。
緒方の歌い方を知る手がかりは、音域の広さに加えて、その中から声を選ぶ理由にもあります。
同じ歌手の声が、曲ごとにどんな役割を持つかを聴くと、その使い分けが見えてくるはずです。

昔の曲を歌い直し、フレージングや言葉の受け止め方が変わった経験は、緒方恵美の歌唱変遷でたどっています。

シンガー人気投票。投票ページはこちら

こちらの記事もおすすめ

コメント

タイトルとURLをコピーしました