石川ひとみの歌い方・発声|伸びやかな声と、曲に合わせて選ぶ強さ

公式プロフィールに掲載された石川ひとみ(撮影年は未確認) シンガー
公式プロフィールに掲載された石川ひとみ(撮影年は未確認)

石川ひとみの歌声は、透明感や伸びやかさとともに語られることが多い。
2023年に取材した西山寧は、力の抜けたなめらかな響きと、言葉の伝わりやすさを挙げている。
ただ、本人が好きだったのは、大きな声を出し、声を張って歌うことでもあった。

その声は、いつも同じ強さで使われるわけではない。
『まちぶせ』の自然にかすれたテイク、一曲を通して歌うときの気持ち、新曲で選ぶ普段より強い歌唱。
本人の説明をたどると、声を出す感覚と、曲に合わせた選択の両方が見えてくる。

『まちぶせ』のかすれは、意図して作った声ではない

『まちぶせ』の録音について、石川は、大きく声を張るのが好きだった自分にとっても、不思議な感覚だったと振り返っている。
ヘッドホンをして、自分の感覚のまま歌う中で、あの歌い方になったという。
言葉を切って歌う箇所も、あとから人に指摘されて初めて気づいたそうだ。

声のかすれについても、通して歌ったテイクの中で自然に起きたものだと説明している。
あらかじめ場所を決め、かすれさせるように歌ったのではなかった。
この曲の声を理解するときは、声の細部すべてを意識的な技法と考えず、そのときの歌唱が録音に残ったことを押さえておきたい。

2021年の取材時の石川ひとみ、別のポーズ(撮影:荒川祐史)
2021年の取材時の石川ひとみ、別のポーズ(撮影:荒川祐史)。
画像出典:写真掲載元

『まちぶせ』の主人公について、彼女は自分のことのように思って歌っていたと語る。
声を張ることが好きな彼女にも、自分の思いを重ねて歌ったこの録音には、ほかの曲とは違う感覚があった。

一曲を通して歌い、気持ちの流れを聴き直す

初期の録音では、まず曲を通して何度か歌い、自分でも聴いたうえで、修正するフレーズへ取り組むことが多かったという。
その進め方について、石川は、短く切って歌うと気持ちも途切れてしまうと説明している。
全体を歌ってから、どの部分がよかったかをスタッフと確認し、自分なりに直していった。

一音ごとの正確さだけでなく、前の言葉から次の言葉へ気持ちが続くことが、彼女にとって大切だったのである。
『まちぶせ』のかすれも、このように曲を通して歌う中で生まれた。
一曲の流れを保つことが、録音の中で声の細部を選ぶ土台になっていた。

全体の気持ちを保つ一方で、細かな言葉への注文にも応えていた。
2025年のRe:minderの取材では、『あざやかな微笑』で「止まれ」という言葉の「ま」を強めるよう求められ、苦労した経験を挙げている。
一つの単語の中の、どの音を目立たせるかまでが録音の課題になっていた。

声をよく伸ばせることと、狙った一音に強さを置けることは、それぞれ別の表現だ。
全体を同じように強く歌えば、指定された音の特徴はかえって見えにくくなる。
この経験を知ると、石川の歌の滑らかな流れの中にも、短い言葉のアクセントを探ってきた仕事があると分かる。

『アシタノ風』の強さと、『こんなにも愛してる』の中音

2023年の『笑顔の花』では、曲に合わせて声の強さを変えたことが、本人から具体的に語られている。
『アシタノ風』と『zankyouhanabi』では、お腹に力を入れ、普段より強めに歌ったという。
彼女がその二曲を、これまでのレパートリーになかったような曲調と感じたことが、声の選び方にも表れている。

『zankyouhanabi』は、前奏を置かず、いきなりサビで始まる曲でもある。
本人はメロディーに強く惹かれ、歌うことが決まってから作曲者の梅口敦史と歌詞を作ったと説明している。
曲の中心になる声を、最初の一声から届ける構成だ。

歌い出しへの意識は、持ち歌の『ひとりじめ』についての話にも表れている。
歌ネットの取材で、石川は、前奏なしで歌が始まるところに少し緊張感があり、それも含めて自分に合うと感じる曲だと語った。
歌い始める前の伴奏に気持ちを乗せる時間が短い分、聴き手は声から曲の表情を受け取る。
この二曲では、長く伸ばす音に加え、一声目がどんな気持ちを連れてくるかにも注目したい。

一方、『こんなにも愛してる』は、覚えて歌ってみると心地よく、中音の感じがする曲だった。
西山寧は、この曲の中低域の響きを新鮮だと評している。
この曲で本人が感じた心地よさと、取材者が評価した中低域の響きは、彼女の声を知るための別の手がかりになる。
石川はそのアルバムで、声のいろいろな面を自分でも出し、聴くことができたと話している。

2026年の取材記事に掲載された石川ひとみ、別のポーズ(撮影:有坂政晴)
2026年の取材記事に掲載された石川ひとみ、別のポーズ(撮影:有坂政晴)。
画像出典:写真掲載元

カバーでは、譜割りと発音の形を確かめる

『道化師のソネット』をカバーするときは、さだまさしの歌唱を繰り返し聴き、譜割りや発音を確かめてから歌ったという。
自分らしさを前へ出そうとするより、原曲を崩さず、素直に歌うことを心がけている。
声の印象だけでなく、言葉がどこに置かれ、どんな形で歌われているのかを確認するのである。

譜割りを確かめるとは、旋律のどの位置に、どの言葉が入るかを確認することでもある。
音の数が同じでも、言葉をつなげる場所や、一区切りにする場所によって、聴き手が受け取る文の流れは変わる。
『道化師のソネット』で原曲を繰り返し聴いたという話は、歌の形を言葉の細部から受け取る準備としても興味深い。

子供の頃から、音楽の授業と、好きな歌謡曲やフォークソングでは歌い方を分けていた。
学校の歌は音符どおりに歌い、ビブラートもあまりつけなかったと、2019年のラジオで振り返っている。
好きな声の出し方があっても、それをすべての歌へ同じように当てはめるわけではなかった。

初めて聴く人へ、言葉が届くように

自分で歌詞を作るときにも、声にしたときの伝わり方を考えている。
『笑顔の花』について語った歌ネットの取材では、書いた言葉を旋律に当て、歌としてしっくりくるかを確かめながら直すと説明した。
コンサートで初めて曲を聴く人にも届く、分かりやすい言葉を選びたいという考えだ。

共作の相手とやり取りする際も、自分が実際に歌うからこそ、歌の気持ちに納得できる言葉を探す。
『まちぶせ』で主人公を自分のことのように思った姿勢は、新しく歌う言葉への向き合い方にも通じている。
明瞭に発音することに加えて、その言葉を自分の思いとして引き受けることが、石川の歌を支えているのである。

石川ひとみの歌には、曲を通して気持ちをつなぐ姿勢と、曲ごとに声や言葉の形を選ぶ姿勢がある。
自然に生まれた『まちぶせ』の歌唱を大切にしながら、新曲では声の強さや、心地よく歌える高さも確かめる。
透明感という一言の奥には、そうした一曲ごとの選択がある。

時期による歌唱の変化は、石川ひとみの歌唱変遷でたどっている。

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