岡田有希子の歌唱変遷|初々しい恋の歌から、難しい曲を自分の表情にするまで

岡田有希子/写真・冨永馨、Smart FLASH掲載(撮影年未確認) シンガー
岡田有希子/写真・冨永馨、Smart FLASH掲載(撮影年未確認)

岡田有希子の歌は、デビュー時の初々しさだけでは語りきれません。
伸びやかな声で恋の戸惑いを歌った人が、翌年には、艶のある歌や不思議な構造の曲にも向き合っています。
短い活動期間の中で、何を変え、どこまで表現を広げようとしていたのでしょうか。

その道筋を知る手がかりは、制作を担当した國吉美織の証言です。
歌の意味をつかむ速さへの信頼が、新しい曲に挑む機会を生みました。
作品ごとの歌唱評と重ねると、作家が増えたという経歴の先に、歌い手として求められた変化が見えてきます。

1984年、初々しさの中にあった歌の確かさ

1984年4月のデビュー曲『ファースト・デイト』は、竹内まりやが詞と曲を手がけました。
ただ明るく押し切る恋の歌ではなく、嬉しさの中にためらいもある作品です。
音楽評論家の宗像明将は、岡田の歌を初々しく、それでいてしっかりしたものとして評価しています。
少女らしさと、歌を一曲として成立させる確かさが、出発点にありました。

録音では、竹内まりや自身の仮歌を手がかりにしていました。
國吉は2019年の取材で、岡田は基本の音程がよく、曲の感覚をつかむのが速かったと話しています。
一曲を最初から最後まで歌う録り方の中で、制作チームが選ぼうとしていたのは、音程の正しさだけでなく、音楽としてよいと思える歌でした。
初期から、一つの曲をどう運ぶかまでが評価されていたのです。

続く『リトルプリンセス』について、宗像が挙げたのは繊細さと声の伸びです。
デビューしたばかりの同じ年でも、恋の喜びを伝える方法は一つではありません。
初々しさに加えて、細やかな表情と声の伸びも、初期の魅力として評価されていました。

1983年11月18日、東京大学駒場祭でアシスタントを務めた岡田有希子/写真・冨永馨、Smart FLASH掲載
1983年11月18日、東京大学駒場祭でアシスタントを務めた岡田有希子/写真・冨永馨、Smart FLASH掲載。
画像出典:写真掲載元

『FAIRY』で、上品な声を新しい曲へ広げる

最初のアルバム『シンデレラ』を録り終えた頃、制作側の見方も変わります。
國吉によれば、当初は彼女に合う曲を見極めていましたが、やがて様々な曲を岡田自身の色で表現できると考えるようになりました。
その信頼を受けて、次の『FAIRY』では、歌声の上品さをさらに生かす方向を選びます。
新しい作家や演奏家への依頼は、録音を通じて確かめた歌の力を前提にしていたのです。

國吉が、その声に合うと考えたのが松任谷正隆のサウンドでした。
声の上品さをもっと出せる作品にしたいという思いから、次のアルバムを託したといいます。
國吉は、豊かな演奏やコーラスが入っても、それに負けない歌があったことを評価しています。
次の作品で声をどう聴かせるか、編曲を担う相手の選択も含めて考えていたのです。

その中の具体例が、かしぶち哲郎による『森のフェアリー』です。
國吉は、かしぶちのしっとりした世界が岡田に合うと考える一方、難しすぎる曲にならないかという心配もしていました。
届いた曲には、アイドルが歌う親しみやすさと、作家独自の世界の両方があったといいます。
岡田がその意図をすぐにつかんで歌ったことで、新しい作家との相性は、実際の歌入れを通じて確かめられました。

1985年『FAIRY』収録のスタジオ音源。

1985年、恋の歌に加わった大人びた表情

二年目の変化を、制作側の狙いと歌唱の両方から示すのが『哀しい予感』と、そのB面『恋人たちのカレンダー』です。
『哀しい予感』について國吉は、大人びた曲を歌えることを見せたかったと説明しています。
明るい少女像だけに留まらず、恋の不安にも表現の場所を作る選択でした。

國吉は、後年この曲について、岡田の作品全体を通して聴くと必要な世界だったと振り返っています。
いつも同じ明るさで聴かせることより、歌える心情の幅を見せることを大切にしていたのでしょう。
二年目の変化は、歌がうまくなったという一言より、どんな気持ちを一曲として届けられるか、という問いに表れています。

一方、『恋人たちのカレンダー』の歌唱を、宗像は甘さと艶のあるものとして評価しています。
初期の『リトルプリンセス』に挙げた繊細で伸びやかな声とは、評価の焦点が違います。
新しい恋を夢見る初々しさから、恋人との時間を振り返る親密さへ。
題材の変化とともに、歌声にも大人びた表情が認められている点が、この時期の大切な違いです。

同年のアルバム『十月の人魚』には、『ロンサム・シーズン』も収められました。
國吉は、初期の『憧れ』とこの曲の間にある表現の幅を、二年目の歌手として高く評価しています。
竹内まりやの作品を歌う関係は続いていても、求められる感情は、憧れだけでなく過ぎ去った恋へと広がっていました。

『憧れ』(1984年『シンデレラ』収録)。

『ロンサム・シーズン』(1985年『十月の人魚』収録)。

細かい音符を歌うことと、曲の世界を出すこと

『十月の人魚』では、小室哲哉が書いた『Sweet Planet』と『水色プリンセス―水の精―』にも挑んでいます。
きっかけは、作詞家の三浦徳子から國吉へ届いたデモでした。
新鮮な音に惹かれた制作側は二曲を受け取り、アルバムの最初と最後に置いています。
作品の入り口と結末に新しい歌を置く、制作側の積極的な選択だったのです。

國吉が説明した難しさは、細かい音符が多く、短く切って歌うと幼い印象になりやすいことでした。
音を落とさず歌うだけでなく、そのつながり方まで伝える必要があります。
制作側は、國吉自身が仮歌を歌い、欲しいニュアンスを岡田に渡しました。

仮歌を渡す方法も、制作の途中から変わっていました。
國吉の2019年の説明では、別の歌い手へ希望を伝えるより、自分で歌って渡した方がよいと、プロデューサーの渡辺有三から提案されたのがきっかけです。
岡田はそのニュアンスを受け取りながら、そっくりに写すのではなく、自分の歌として返してきたといいます。
作り手との距離が近くなっても、歌い手自身の表情は失われていなかったのです。

2023年のインタビューで國吉は、その歌入れをこなした岡田の理解の速さを振り返っています。
ただし、2015年に『水色プリンセス―水の精―』を個別に語った際には、思い描いた世界を十分には出せなかったとも述べていました。
曲を歌いこなしたという回想と、世界観を出し切れなかったという評価には、隔たりがあります。
両方を残して読むと、難しい譜割りへの対応と、表現の仕上がりは別の課題として考えられます。

音程やリズムへの対応力を買われて新しい曲に進み、その先で、表現の仕上がりにはなお厳しい判断を受ける。
この二つの証言は、歌える範囲を広げていた時期の成果と、制作担当者が求めていた到達点の高さを伝えています。

1985年の岡田有希子/撮影・佐藤靖彦、fumufumu news掲載
1985年の岡田有希子/撮影・佐藤靖彦、fumufumu news掲載。
画像出典:写真掲載元

『Love Fair』で、声の違う見せ方を選ぶ

1985年10月のシングル『Love Fair』は、かしぶち哲郎が詞と曲を手がけた作品です。
國吉は、様々な歌を歌える力に手応えを得たことで、かしぶちへの依頼を決めたと説明しています。
歌手として長く活動するためにも、アイドル時代に表現の幅を持たせたいという考えでした。

國吉がかしぶちの曲に感じていたのは、一見シンプルでも、実際に歌うと難しいという性格です。
細かい音符の多さだけで難易度が決まるわけではありません。
『森のフェアリー』でつかんだ相性を、その後の作品でも深めながら、限られた音の中にどんな表情を置くかが、新しい課題になっていました。

この曲では、冒頭のファルセットも話題になっています。
國吉は、曲を受け取った段階からその始まり方だったと答え、岡田の少し鼻にかかった声にも魅力を感じたと語りました。
初期の恋の歌で評価された伸びやかさに加えて、声の軽さや響きの癖が、別の作品世界を支える材料になっています。

当初はアルバム曲として考えられていた『Love Fair』を、事務所側がシングルに選びました。
歌える幅を広げるために試した曲が、広く届ける一曲になったのです。
岡田の変遷は、上達に応じて難しい曲が増えたという話だけではありません。
曲によって声の魅力を違う角度から見せられるという信頼が、作品の選び方まで動かしていました。

活動終盤にも残った、憂いを含む表情

1986年5月に発売予定だった『花のイマージュ』は、発売が中止され、1999年の『メモリアルBOX』で世に出ました。
宗像は、この作品に可憐さだけでなく、憂いや翳りを感じています。
これは1999年に生まれた新しい歌唱ではなく、活動の終盤に残された表現です。

2019年の『Mariya’s Songbook』も、以前の歌をまとめて届け直した作品です。
再発の年を歌声が変わった時期と取り違えずに並べると、初期の伸びやかな恋の歌、大人びた表情、新しい曲で試した声の使い方が、近い時期に共存していたことが分かります。

岡田有希子の歌唱の変遷を支えたのは、曲の意味を理解し、自分の表情にする力への信頼でした。
その信頼から新しい課題が生まれ、うまく応えた曲も、制作側がもっと先を望んだ曲も残った。
短い年月の中に、歌い手として試した道の多さが詰まっています。

岡田有希子の歌い方

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