「FREE FREE」で中田ヤスタカと組んだ鈴木亜美は、エフェクトをかけながら歌う録音を経験しました。
自分の声が変化して聞こえる中で歌い、録り終えた声にも希望を出す。
本人の話からたどると、電子的な音楽の中で、歌の感情をどう残すか考えていたことが分かります。
「FREE FREE」MV(2007年発表曲)
自分では好きになれない声が、聴き手には届く
声を変えてみることへの関心には、本人なりの背景があります。
2023年のQJWebの取材で、鈴木は自分の歌声を好きになれず、作り手にも、その声をどうにかしてほしいという気持ちで頼んでいると明かしました。
声を音の一つとして扱う中田やTeddyLoidの作り方が、自分に合っているという話にも同意しています。
一方で、歌う支えになったのは、初めて声を聴いた小室哲哉が、その歯切れのよさを褒めてくれたことでした。
本人が不満を感じる声にも、作り手やファンは魅力を見つけている。
だから、そのままの声を好きになれるまで待つのではなく、聴いてくれる人と、その声を生かす曲に出会いながら歌ってきたのです。
自分の声がはっきり聞こえない中でも歌う
『DOLCE』へつながる共同制作では、歌う前の準備から、ほかの作り手とは違っていました。
他の人から届くデモはかなり完成していて、仮歌を参考に声のイメージをつかめたのに、中田との制作では、スタジオに入るまで詞が決まらないこともあったそうです。
変更するかもしれないので、完璧には覚えないでほしいと言われたこともありました。
歌い方を固めきらずに臨み、録音では、歌いながら聞く声にもエフェクトがかかる。
鈴木は、自分の声がはっきり聞こえず、安定せず歌いづらかったと話しています。
それでも、この方法に新しい面白さを感じていました。
鈴木は実際に録音へ入ってみて、緊張して構えすぎないほうがよい方法だと感じたといいます。
「join」の企画では、相手の音楽の中へ入り、その人の感情をつかむことも意識していました。
鈴木はこの歌い方を、役柄を受け取る芝居に近いものとして説明しています。
自分の感情を毎回そのまま押し出すのではなく、用意された曲がどんな気持ちで歌われているかを受け取る。
デモの歌い方を参考にしたのも、そのための具体的な方法でした。
一方、同じアルバムに収録した「if」では、自分がドラマで演じたミキという人物の気持ちを思い描いて作詞しています。
作り手の歌からつかむ場合も、役の心情から考える場合も、まず言葉を誰の気持ちとして届けるかがある。
声の加工に入る前に、歌の中で引き受ける感情を探していたことが分かります。

画像出典:写真掲載元
少ないテイクで声を録り、音として仕上げる
2008年の「ONE」では、スタジオで曲を聞き、その場で声を録っていく方法が取られました。
鈴木によれば、歌うのは一、二回ほどで、ミックスに時間をかけていたそうです。
共同制作を重ねる中で、この進め方も馴染みのあるものになっていました。
歌を録る時間の短さと、仕上がりへの関心の強さは両立しています。
鈴木は、完成した音を聞きたいから、ミックスの間も一緒にいたと話しました。
歌入れで出した声が、どのような音として曲の中に収まるのか。
歌った後まで見届けることも、この時の制作に関わる姿勢でした。
「ONE」公式音源(2008年発表曲)
感情を前に出したい曲では、加工を控える
『Supreme Show』制作時には、歌の感情を優先したい曲で、エフェクトを少なくするよう希望していました。
すでにかけたものを戻してもらうこともあったそうです。
中田の音作りを受け入れながら、自分が歌に込めたものをどう聞かせるかも相談していました。
中田から別の音作りを提案されると、それをいったん受け入れ、さらに自分の希望を伝えることもあったそうです。
どちらかの意見を一度通して終えるのではなく、曲としてよくなる形を探すやり取りでした。
声を加工する面白さを知ったからこそ、加工を減らしたい場面も具体的に伝えられる。
どの曲にも一律の処理を求めず、歌の感情と音の格好よさの配分を相談しています。

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仕上がる音が見える場所で、気負わず歌う
TeddyLoidと制作した2023年の「I just feel good」でも、歌う場所と音を作る場所の距離が近かったといいます。
QJWebの取材によると、独立した録音ブースではなく、作業場に置かれたマイクで歌い、その場でミックスが進んでいく環境でした。
鈴木は、全体像が見えたまま曲が出来上がっていく感覚を心地よく受け止めています。
中田との録音についても、以前の改まったスタジオとは違い、親しい相手と作るような雰囲気で歌えたと振り返っています。
機材の種類だけでなく、作り手との距離や、その場で変化を確かめられることが、歌うときの気持ちに関わっていました。
完成前の音を一緒に聴ける環境が、新しい声の扱い方を試す足場になっています。
歌い慣れた曲は、細かな区切りから一曲の流れへ
加工とは別の面で、歌唱の手応えを語ったのが、2011年の『Ami Selection』の再録です。
「BE TOGETHER」など初期曲を歌い直した際、本人は、以前は一小節ずつ録っていた歌を、ライブのような感覚で歌えるようになったと話しています。
当時よりすんなり歌えたという実感がありました。
さらに、録音中には過去のライブの光景や、ファンの顔が思い浮かんだといいます。
曲を何度も歌い、人の前で届けてきた経験が、スタジオで歌う際にも戻ってくる。
この再録で大切なのは、音を一つずつ形にする意識に加えて、一曲を誰かへ届ける感覚を持てたことです。
初期の歌については、当時の年齢では歌詞の内容を十分につかめない部分もあり、無理に大人らしくするより、自分らしい声で歌おうとしていたとも振り返りました。
同じ旋律を歌っても、歌詞を受け止める経験や、曲に結びつく記憶は変わる。
再録は、発音や音程だけでは説明しきれない、歌の意味との距離の変化も示しています。
客席の声とともに、曲の勢いをつなぐ
2023年の25周年ライブについて、鈴木は「BE TOGETHER」で観客と一緒に歌う楽しさを語っています。
久しぶりに客席から声を出せる公演だったため、昔の曲とダンスミュージックを組み合わせ、勢いを途切れさせない構成を考えたそうです。
一曲の歌い方に加え、前後の曲が作る高揚感にも目を向けていました。
単独公演が空いた間も、フェスやイベントでは歌い続けていました。
その積み重ねの中で自然と鍛えられている、というのが本人の感覚です。
録音で声を作る経験と、目の前の反応を受けながら歌う経験が、鈴木亜美の歌唱の両側にあります。
加工された声で歌う方法を試すことと、感情を残すために加工を控えること。
鈴木はその両方を、曲に合わせて選んできました。
その歌い方には、出した声をどんな表現として届けるかまで関わる、歌い手としての意思があります。
初期の録音から、昔の曲を再び歌った時の手応えまで知りたい方は、鈴木亜美の歌唱変遷もあわせて読んでみてください。







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