hitomiの歌い方|声を張れるキーを選び、力強さと温かさを歌い分ける

2026年のインタビューに掲載されたhitomi(撮影:森好弘) hitomi
2026年のインタビューに掲載されたhitomi(撮影:森好弘)

hitomiの歌には、「LOVE 2000」や「SAMURAI DRIVE」のような、勢いのある曲の印象があります。
けれど、近年のライブ評を読むと、しっとりした曲や、温かな歌声にも具体的な評価が向けられています。
その声を届けるために、本人が見直しているのがキーです。
声を張りやすい高さを選ぶことと、曲ごとの声の表情を歌い方の軸としてたどります。

「there is… (LOVE)」公式音源(2026年配信)

声を張りやすい高さを、歌うための条件にする

2026年9月の対談で、hitomiは「there is… (LOVE)」のキーを下げたことに触れています。
その判断のきっかけになったのが、伴都美子からの、最もよい形で声を張れる高さを選ぼうという助言でした。
伴はその場で自分がキーを下げて歌い、印象が変わるかをhitomiに確かめてもらっています。
hitomiは、思っていたほど違いを感じないことに驚きました。

伴が重視したのは、原曲と同じ高さへ無理に声を合わせるより、聴き手が曲の世界へ自然に入れることです。
高いキーを重視していた時代の感覚があったhitomiにとって、実際に別の歌手の声で確かめたことが、曲の印象を守りながら高さを選び直す手がかりになりました。

このエピソードで見直されたのは、高い音が出るかどうかだけを歌の基準にする考え方です。
キーを下げても曲の印象が大きく損なわれないなら、声を十分に張って言葉を届けられる高さを選べる。
伴の実演を聴いたことで、数字としての高さと、耳に残る力強さを分けて考えられるようになったわけです。

お手本どおりにならない声も、歌の個性になる

声の個性を知る手がかりは、初期の録音にもあります。
フジテレビ「TK MUSIC CLAMP」の対談で、小室哲哉は「TOKYOのど真んなかBUSの中で」の歌入れを振り返り、ジャミロクワイを意識したフェイクを試したと話しています。
旋律を細かく動かす歌い回しを求めたところ、hitomiが歌うと、制作側の想定とは違う響きになったというのです。

本人は一生懸命歌っていたと振り返り、小室も、意図とは違ったものが好評を得ていると受け止めています。
歌い手が手本をなぞろうとしても、同じ声や節回しにはならない。
このやり取りでは、その違いを消し切るよりも、hitomiが歌うことで生まれる意外な表情を面白がっていました。
張った声の勢いだけでなく、歌い回したときに残る独特の輪郭も、彼女の歌を考える手がかりです。

リズムに乗せて、力強い声を響かせる

2026年3月28日のワンマンライブで、西廣智一は「SAMURAI DRIVE」の歌声をパワフルと評しています。
リズムに合わせて歌う姿と、会場の高揚が結びついた場面でした。
一方、同じ公演の「CANDY GIRL」について記されているのは、ビートに身を委ねながら届けた伸びやかな歌声です。
どちらも客席が一緒に歌う曲ですが、歌声への評価には、力強さと伸びやかさという違いがあります。

「SAMURAI DRIVE」MV(2002年発表曲)

2026年3月28日のワンマンライブで歌うhitomi(撮影:Yuma Totsuka)
2026年3月28日のワンマンライブで歌うhitomi(撮影:Yuma Totsuka)。
画像出典:写真掲載元

静かな曲では、温かさや切実さを伝える

静かな歌声から表情を変える例として、2026年3月18日の対バンで歌った「by myself」があります。
榑林史章の公演評では、序盤はピアノとアコースティックギターを中心とした伴奏に乗せて、しっとり歌ったと記されています。

「キミにKISS」MV(2000年発表曲)

転じるのは、ドラムが加わって演奏の動きが増してからです。
そこでhitomiは、体全体で感情を表すように歌い、観客もステージへ見入っていたと報告されています。
初めから最後まで同じ勢いを保つのでなく、伴奏が広がる場所で歌の表情も大きくなる。
力強い声は、静かな始まりがあったからこそ、一曲の中の展開として伝わります。

「by myself」MV(1996年発表曲)

2026年のインタビューに掲載されたhitomi(撮影:森好弘)
2026年のインタビューに掲載されたhitomi(撮影:森好弘)。
画像出典:写真掲載元

同じ月の28日の公演では、別の種類の静けさも報告されています。
「there is… (LOVE)」では繊細なピアノの伴奏に合わせて切々と歌い、「キミにKISS」では聴き手を包むような温かさが評価されました。
同じように穏やかな曲を並べても、思いを切実に伝える歌と、優しく差し出す歌とでは、声に求められる表情が違います。

この公演で歌った「体温(蹲)」と「there is… (LOVE)」は、持田香織と伴都美子が歌詞を書き直した曲です。
hitomiは、自分だけの視点では生まれない言葉を受け取り、歌いながら泣きそうになったとも話しています。
長く歌ってきた旋律にも、別の書き手の言葉を入れることで、新たな感情の入り口が生まれる。
キーを選ぶ作業と、歌詞に気持ちを動かされることの両方が、今の歌唱を支えています。

違う音楽に出会ったとき、歌える接点を探す

新しい曲を歌う際にも、得意な雰囲気に近いかどうかだけで判断してはいません。
2026年の「Tokey-Dokey」は、バンドのNikoんが楽曲を提供した作品です。
Billboard JAPANのインタビューでhitomiは、最初は相手との音楽的な距離を感じていたものの、デモを聴くとポップさを感じ、歌ってみたいと思ったと話しています。

その感覚を説明するために、本人が挙げたのが「SAMURAI DRIVE」でした。
自分で歌詞を書くことへのこだわりから、当初は他人の詞を歌うことにためらいがあったものの、cuneの曲を繰り返し聴くうちに、自分の歌にできそうだと感じたといいます。
未知の曲を自分のものとして歌えると感じるまで、聴いて接点を探す。
「Tokey-Dokey」にも、それに近い面白さがあったそうです。

一方、「Choice!」については、BARKSの取材で、歌詞を書くときも歌うときも自然に合う感覚があったと説明しています。
こちらの作曲は、「Special☆」も手がけたFZです。
異なる作り手から刺激を受ける曲と、慣れ親しんだ音楽の方向で声を乗せられる曲。
どちらも歌うことで、hitomiらしさの中に違う表情が加わっていきます。

客席と一緒に歌う曲にも、届ける相手がいる

「LOVE 2000」のような定番曲では、観客が声を合わせることも公演の大きな要素です。
2026年3月28日の公演評には、客席の大合唱に応えながら、hitomiが会場の隅々へ視線を送る姿が記されています。
声の熱と、目の前の人へ向けた優しさが同時に伝わる締めくくりでした。

本人も、昔の曲に励まされたという人に出会うと、あらためてその人の胸に響くよう歌いたくなると話しています。
よく知られた曲だからこそ、聴く人が持っている記憶にも向き合う。
曲を強く歌い切ることに加えて、どの相手へその言葉を届けるかが、現在の歌う意識になっています。

声を出し続けながら、曲ごとの表情を選ぶ

hitomiは、歌わない期間が空くと録音時に声が出にくいと話し、予定がなくてもスタジオで声を出しています。

そのうえで、声を張りやすいキーを選び、曲ごとに違う表情を届ける。
声を張る場面へ向けて、キーと、一曲の中で力を出す場所を選んでいます。
「by myself」のように、静かな入り口から伴奏とともに広がる歌唱にも、その選択を見て取れます。
持ち歌の言葉やキーを見直してきた歩みは、hitomiの歌唱変遷でたどっています。

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