一十三十一の歌い方|甘くスモーキーな響きと、言葉の輪郭

一十三十一(2007年公開のインタビュー掲載写真、撮影時期不明) シンガー
一十三十一(2007年公開のインタビュー掲載写真、撮影時期不明)

一十三十一の声には、甘さのあるスモーキーな音色があります。
共に作品を作ってきたクニモンド瀧口も、何を歌っても本人の歌になると話しています。
ただ、その個性は、生まれ持った声を曲に乗せれば完成するものでもありません。
言葉を発音する明瞭さ、歌いやすい音域の選択、録音した声の扱いまでが重なり、あの柔らかな歌になっています。

「DIVE」(『CITY DIVE』収録曲、2012年/公式配信音源)

甘さのある、スモーキーな声

クニモンドは、2021年のTOKIONの取材で、一十三十一の歌い方を、スモーキーで少し甘いものだと説明しています。
聴けばすぐに誰の声かわかり、何を歌っても本人の歌になるとも話しました。
音色そのものが、歌の印象を作る大きな要素なのです。

この評が捉えているのは、声の大きさや高音の高さより、声を耳にした瞬間の質感です。
柔らかい、甘いという言葉だけではほかの歌手にも当てはまりますが、そこに少し煙るような響きが重なることで、本人の顔が見える。
歌い方を考える際にも、強い音を出す場面だけを探すより、この質感がどんな曲の中に置かれているかを見ると特徴をつかみやすくなります。

吐息を含んでも、言葉は一つずつ届く

2007年の『bounce』の記事は、一語ずつはっきり発音する歌唱と、溜め息が混じるような甘い声、高く抜けていく響きに注目しています。
さらに、軽快な曲でも、音を絞ったスローな曲でも、声の張りつめた度合いが大きく変わらないと評しました。
演奏の勢いに合わせて声まで強く押し出すのではなく、本人らしい温度を保ちながら、言葉を届ける声として捉えられています。

ここでは、吐息を感じさせる音色と、言葉の輪郭が両立している点が大切です。
柔らかな声であっても、何を歌っているのかは一語ずつ追える。
発音の明瞭さがあるため、声が伴奏へ溶け込んでも、歌詞まで背景に退いてしまわないのです。

また、この批評にある「高く抜ける」という響きの印象を、そのまま声域の広さに読み替えることはできません。
ここで注目されているのは、甘い声の中に軽やかさもあることです。
声の質感と発音を分けて捉えると、柔らかな歌なのに存在感が薄れない理由が見えてきます。

「百年」で用意された、声が生きる音域

その声を気持ちよく聴かせるために、曲を作る側も工夫しています。
PARKGOLFは、2017年の『REO』に収録した「百年」で、一十三十一を歌手に迎えました。
Spincoasterの取材では、以前から彼女の作品を聴いていたため、得意とするキーをある程度つかんでいたと説明しています。
実際に歌を入れた際、一十三十一からも歌いやすいという反応があったそうです。

この曲では、PARKGOLFが歌詞と旋律も書いています。
一十三十一が自分で言葉を選ぶ作品とは条件が違いますが、提供された曲の段階で、声の魅力を出しやすい場所が用意されていました。
本人らしい声は、歌手の表現だけでなく、旋律をどの高さに置くかによっても支えられています。

さらにPARKGOLFは、「百年」などの歌ものでは音数を減らし、強いアタックの決めフレーズを控えたと話しています。
歌を強く押し出して伴奏に対抗させるより、声のための場所を作るという制作です。
柔らかな声がよく通る背景には、こうした編曲との組み合わせもあります。

一十三十一(2017年8月31日、ビルボードライブ東京)
一十三十一(2017年8月31日、ビルボードライブ東京)。
画像出典:写真掲載元

歌いながら、言葉と音の距離を確かめる

一語ずつ届く歌でも、言葉の意味だけを前に出したいわけではありません。
2018年の取材で一十三十一は、伝えたいメッセージが強く出すぎると、旋律や伴奏との距離ができてしまうと説明しています。
そのため、歌詞は歌いながら作る。
旅先などで書いた言葉も、最後は自宅の小さなスタジオでまとめていました。

文字としてよい言葉でも、歌ったときに音楽から離れてしまえば、そのままでは使わない。
発音の明瞭さと、旋律の中で言葉が気持ちよく流れることを、実際に声へ出して確かめている制作です。
書く作業と歌う作業が、ここではつながっています。

『Ecstasy』の「Serpent Coaster」については、気持ちが弱っていたときの日記を手がかりにしながら、そこから強さへ転じる感覚を語っています。
歌の世界には混乱もあるのに、聴き手と共有したいのは前向きな部分だったそうです。
柔らかな声で歌う内容が、いつも穏やかな感情だけとは限らない。
言葉の背景を知ると、甘い歌の中にある複雑な気持ちにも目が向きます。

ミックスが変われば、声の聴かせ方も考え直す

録音した歌を作品に仕上げる段階にも、本人の細かな選択があります。
Dorianと制作した『Ecstasy』について、2017年のMasteredの取材では、ミックスに多くの時間をかけたことを二人で話しています。
ミックスとは、録音した歌や楽器の音を調整し、一つの曲として聴ける形にまとめる工程です。

Dorianからエンジニアの今本修へ要望が伝えられ、ミックスが変わると、一十三十一も声の扱いを変えたくなる。
そのやり取りが続き、一曲で何十通りものミックスができたこともあったといいます。
歌のテイクを選んだ後も、完成した伴奏の中で、その声がどう届くかを繰り返し考えていたわけです。

これは、何十種類もの発声を録り直したという説明ではありません。
録音作品の浮遊感や近さは、声そのものの響きに、仕上げの音作りが加わって生まれます。
一十三十一の歌を参考にするときも、息を多く混ぜれば同じ質感になると考えるより、声と周囲の音の関係まで含めて聴くほうが、制作の意図に近づけます。

一人で歌う声と、相手へ返す声

共演曲では、歌の中に誰がいるのかも重要になります。
JINTANA & EMERALDSの「Love Again feat. Los Retros」は、恋人同士の会話を思わせる構成から作られました。
2026年の対談でロス・レトロスは、男女それぞれの視点に分けて旋律と歌詞を書いたと説明しています。
一十三十一の声を単独で味わうだけでなく、相手の歌にどんな立場で応じるのかが、曲の表情を作る例です。

一方、ライブでは、その声が生の演奏と出会います。
2017年8月31日のビルボードライブ東京公演を伝えた記事は、冒頭の「DIVE」で、ギターのアルペジオに重なるメロウな歌声を描いています。
同じ公演ではDorianと「Discotheque Sputnik」をデュエットし、バンドの音色やリズムとともに曲の雰囲気を変えていました。

声を柔らかく保ちながら、言葉の形は届ける。
曲に合う音域や伴奏を選び、録音では声の聴こえ方まで調整し、共演では相手との関係を歌にする。
一十三十一の甘い声には、こうした音楽全体への細かな配慮が息づいています。

歌の中で声をどう生かしてきたのかについては、一十三十一の歌唱変遷で扱っています。

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