大川栄策は、歌を声で演じるものとして学んできました。
人物の気持ちをどこで語り、どこで大きく歌い上げるのか。
その選択がよく表れるのが、2005年の「駅」と、翌年の「再会」です。
師匠から受け取った表現観と、後年の自作曲もたどると、二曲の違いが大川の歩みの中に見えてきます。
「駅」|本人公式公開映像(2023年公開/2005年発売曲)
古賀政男のもとで学んだ、声で物語を見せるということ
大川が古賀政男に初めて歌を聴いてもらったのは、高校一年の夏でした。
高校卒業後に上京し、音楽学校でのレッスンを経て、古賀の内弟子になります。
1969年には「目ン無い千鳥」でレコードデビューしました。
2025年に師との日々を振り返った大川は、最初に教わったこととして、歌を「声のお芝居」と捉える考えを挙げています。
歌詞の物語を、聴く人の目に浮かぶように表す。
声を出すことだけで歌が完成するわけではない、と気づかされた経験でした。
この教えから大川の歌を考えると、声の強弱にも役割が見えてきます。
大きく響かせる場面と、言葉を置くように語る場面は、人物の心や視点を動かすためにある。
後年に本人が残した歌唱解説でも、音の高低とともに、誰の目でその場を見ているのかが細かく説明されています。

画像出典:ステラnet
「さざんかの宿」で広がった、艶のある歌と自分の声
1982年の「さざんかの宿」は、大川の名を広く知らしめた代表曲です。
本人は後年、この曲を男女の会話を含む艶のある歌と捉え、そうした愛憎の物語が自分の声に合うと説明しています。
柔らかな声で表すことに、自身の持ち味を見ていたのです。
ここには、歌の人物が男性か女性かという分け方だけでは捉えられない、声と物語の関係があります。
力強い声を使えることと、いつも強く言い切ることは別でした。
相手を思う気持ちや、割り切れない感情を声に含ませることが、のちの男歌を読むうえでも手掛かりになります。
2005年の「駅」、冒頭からもっとも高い音へ
「駅」は2005年8月に発売された曲です。
大川の歌唱解説では、歌い出しがいきなり曲のクライマックスとなり、もっとも高い音から始まると説明されています。
やり場のない悲しみを遠くへ叫ぶような気持ちで歌い出す。
そのときも、粗野にならない明るい声を求めています。
続く、男を見送る女の姿には、男の側から相手を包むような柔らかい声を置きます。
最初に自分の感情を放ったあとで、目の前の相手へ意識が移るのです。
三、四行目では語りになり、情景を描きます。
感情を大きく出し続けるのではなく、見送る人や風景を見せる場所を設けた構成でした。
終盤には汽車の動きに沿うリズムを置き、最後の情景を朗々と歌い上げます。
途中で二度繰り返す、汽車が来ることを告げる言葉も、最初は男、次はそれに答える女として歌い分ける。
一人の歌手が二人の声を担い、別れの場面を動かしていく解説です。
2006年の「再会」、語りから過去の感情を歌い上げる
翌2006年8月の「再会」は、別れた男女が再び出会う曲です。
大川は「駅」の続編として捉えてもよいとしながら、独立した物語として想像してもよいと説明しています。
前作より落ち着いたテンポの中で、今度は最初の二行を語りにしました。
「駅」と、語る場所と歌い上げる場所が逆になるのです。
その語りの中でも、二行目の入りはいったん感情を抑え、続く、相手に出会ったことを歌う部分を際立たせます。
再会の喜びに、別れていた間の苦悩や寂しさを重ねる。
落ち着いた入り方の中にも、人物の気持ちが震える場所を作っています。
三行目からは時間を過去へ戻し、若い男の冒険心や野心を荒々しく歌い放つ。
次の行では女性へ光を当て、自分を包んでくれた相手への悔恨をにじませます。
歌い上げる中でも、男の身勝手さを出す声と、相手を思う声は同じではありません。
終盤は、二人が並んで座る現在へ戻ります。
感情を抑えながら、声はたっぷりと出す。
汽車とともに進んだ「駅」に対し、大川が示すのは時間が止まるような感覚でした。
別れと再会を、筋書きだけでなく、歌の時間の流れとしても描き分けていたのです。

画像出典:写真掲載元
「再会」|本人公式ステージ映像(2025年公開/2006年発売曲)
2019年、人物の感情から曲そのものを作る
2019年の「未練なんだぜ」では、大川は筑紫竜平の名義で作曲も手掛けています。
前半を静かなスローワルツにし、そこから男の思いが一気にあふれる流れを考えました。
歌詞を先に受け取り、その短い言葉からリズムや曲のイメージを広げる方法です。
「駅」と「再会」で、与えられた曲の中に人物の感情を配置していた大川が、ここでは曲を作る側からその流れを組み立てています。
語る部分と歌い上げる部分への関心は、歌唱解釈だけでなく、旋律やリズムを選ぶ段階にも及んでいました。
同年には、何度歌った曲にも慣れてはいけないという、古賀の教えも語っています。
代表曲を歌い続けても、描かれた人間を丁寧に表す姿勢を失わない。
新曲を作ることと、長年の曲をそのつど歌い直すことが、並行していたのです。
「未練なんだぜ」―2019年公開の短縮映像
2025年の「大河のしずく」、歌う世界に合わせて旋律も広げる
2025年の「大河のしずく」は、恋の物語とは違う、人生をテーマにした作品でした。
石原信一の歌詞に、大川が筑紫竜平名義で曲を付けています。
本人への電話取材を伝えた番組記事によると、勇壮な雰囲気に合わせ、曲の音域を広く取って作ったといいます。
また大川は、作詞家にあらかじめ細かな希望を出すよりも、相手が自分に抱くイメージを生かしたほうがうまくいくと考えていました。
自分の声の持ち味を知りながら、外から寄せられる歌の世界にも応じていく。
曲作りを担うようになっても、表現を自分一人の発想だけで閉じてはいませんでした。
「大河のしずく」―2025年公開の短縮映像
古賀から学んだ物語の見せ方は、「駅」と「再会」の語りや視点の切り替えを経て、自作曲の構成にもつながっています。
曲ごとに誰の感情を歌い、どこで解き放つかを選ぶ。
その歩みをたどると、受け継いだ教えを保ちながら、表現する世界を広げてきたことが分かります。
太い声や裏声に近い声を曲の中でどう使い分けるのかは、大川栄策の歌い方で扱っています。







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