クラウス・マイネ(Scorpions)の歌い方|好きなツェッペリンを、カバーに選ばなかった理由

2023年、Monsters of Rockでのクラウス・マイネ クラウス・マイネ(Klaus Meine)
Sepguilherme / CC BY-SA 4.0

クラウス・マイネはレッド・ツェッペリンが大好きなのに、Scorpionsのカバー集には、その曲を入れませんでした。
憧れの曲を歌える機会でも、好きだという気持ちだけでは選べなかったのです。

一方、ビートルズの「Across the Universe」は、自分の声によく合うと感じた曲でした。
高い声でロックを歌えることと、どんな名曲でも自分たちの歌にできることは、同じではない。
この選曲には、マイネが自分の声をどう生かそうとしているかが表れています。

「Across the Universe」を収めた2011年の『Comeblack』は、声と曲の相性を考えながら聴きたい作品です。

好きなバンドの曲でも、声に合うとは限らなかった

2011年の『Comeblack』では、自分たちの代表曲を録り直すとともに、影響を受けた先輩たちの曲をカバーしています。

マイネは、選ぶ曲に自分たちらしさを加えられるかどうかも大切にしていました。
「Across the Universe」には周囲も賛成し、ローリング・ストーンズからは「Ruby Tuesday」を選んでいます。

一方、大好きなレッド・ツェッペリンの曲は決まりませんでした。
「Good Times Bad Times」の名前も挙がったものの、うまくいかなかったそうです。
彼らの曲を十分によい形にできないと考え、収録を見送っています。

ここでの基準は、単に音符どおりに歌えるかどうかではありません。
原曲を大切にしながら、自分たちが演奏する意味のある仕上がりになるかどうかでした。
強い高音を持つマイネにも、声が曲となじむと感じられる組み合わせと、そう簡単にはいかない組み合わせがあったのです。

「Across the Universe」が合うという本人の感覚を知ると、Scorpionsの激しい曲だけで声の個性を決めつけにくくなります。
あの声を、どれだけ強く出せるかに加え、どんなメロディーを歌うと本人がしっくりくるのか。その視点でも聴いてみたくなります。

2007年、リスボン公演のクラウス・マイネ
2007年、リスボン公演のクラウス・マイネ。写真:José Goulão from Lisbon, Portugal / CC BY-SA 2.0

自分たちの曲では、ギターソロも歌を大切にする

Scorpionsでギターを弾くマティアス・ヤプスは、ギターを弾く人にも楽しめる難しさを持たせつつ、歌から遠く離れすぎないようにすると話しています。
「No One Like You」では、歌のメロディーとハーモニーを出発点にして、ギターの独奏を組み立てる。
「Rock You Like a Hurricane」でも、歌の旋律がギターのパートへ変わるように考えているそうです。

マイネが歌う時間と、ギターが目立つ時間が、別々の見せ場として切れているわけではありません。
歌が作った印象を、ギターの時間にも残そうとしています。
だからマイネの声は、伴奏に負けない大きさを出す役だけを担っているのではなく、ギターが演奏するときにも参照する旋律を歌っているのです。

声に合うカバーを選ぶ一方で、自分たちの曲では、その歌が生きる演奏を作る。
マイネの歌を大切にしているのは、本人だけではありません。ギター側にも、歌のメロディーを演奏の中に残す考えがあるのです。

1982年の『Blackout』に入った「No One Like You」は、そのようにソロを組み立てた曲です。

バラードで歌いたいのは、ただ美しいメロディーだけではない

マイネが気持ちを込めやすい歌を考えるなら、「Still Loving You」も欠かせません。
1984年の『Love at First Sting』に収められた、彼らの代表的なバラードです。

ルドルフ・シェンカーはこの曲を、終わりかけた恋を、それでももう一度やり直そうとする話だと説明しています。
関係がうまくいっている二人が、ただ愛を確かめ合う歌ではありません。
まだ好きだという気持ちと、それだけでは簡単に戻れない状況が、一つの歌の中にあります。

マイネは、自分はロマンチックな人間で、ある種の曲を歌うと大きな感情が自然に出てくると話しています。
その話を踏まえると、バラードは、激しい曲の合間に声をきれいに聴かせるためだけの出番ではなかったと分かります。
思いを相手に伝えたい歌も、彼にとって心から歌える音楽だったのです。

「Still Loving You」を、恋を取り戻そうとする人の歌として聴けば、高い音が続く部分にも、もう一度こちらを向いてほしいという切実さを重ねられます。
声の高さが、歌の内容から切り離された見せ場にならない。その言葉を歌いたい気持ちと結びつけて考えると、バラードでの彼の持ち味が見えてきます。

ギターと歌だけでも、その曲を伝えられるか

大きな音から離れたところでも、マイネは歌を試しています。
2013年、アテネでの『MTV Unplugged』では、「Follow Your Heart」を、ほかのメンバーを加えず、アコースティックギターを弾きながら歌いました。

本人は、よいメロディーを持つ曲なら、ギターと声だけでも人に届くと考えていて、この曲を一人で演奏した理由にも、その考えを挙げています。
「Holiday」や「Send Me an Angel」も、アコースティックな演奏がよく働く曲として話しています。

ここでは、ギターソロが歌を引き継ぐ「No One Like You」とは、歌を支える音の数が大きく違います。
それでも、歌のメロディーで人に伝えたいという考えは変わりません。
バンドの大きな音があるときにも、ギター一本で歌うときにも、曲として届くものを歌の中に持っておきたいのです。

2014年のアンプラグド公演で歌うクラウス・マイネ
2014年のアンプラグド公演で歌うクラウス・マイネ。写真:Tobias Cohrs / CC BY-SA 3.0

マイネは、『MTV Unplugged』のような公演には、経験も、それに合う曲の蓄積も必要だったと話しています。
単にアンプの音量を下げれば、同じようにうまくいくわけではない。
カバーで声に合う曲を探したときと同じように、ここでも、いまの歌を生かせる曲と演奏を選んでいました。

あの声のために、曲と演奏を選んでいる

ツェッペリンの曲を見送った判断にも、自分たちの音楽として納得できる形にしたいという思いがありました。
歌の旋律をギターソロにも残すバンドの考え方、声になじむカバーを選ぶ判断、ギター一本でも歌える曲への信頼が、その声を生かしています。

「No One Like You」のようなロックと、「Across the Universe」のカバー、一人で歌う「Follow Your Heart」。
編成や曲の出自が違っても、本人とバンドは、その声で歌うメロディーがよい形で伝わるかを考えています。
声に合わせて曲を選ぶことも、歌を生かす伴奏を考えることも、マイネの声を楽しむ曲を増やすための工夫になっていました。

この歌声が続いてきた背景には、声を失いかけた時期と、経験を重ねてからも新しく学んだ練習があります。
その経緯は、クラウス・マイネの歌声の変遷でたどっています。

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