カレン・カーペンター(Carpenters)の歌い方|低い声で、言葉を近くに届ける

1973年のカレン・カーペンターの宣伝写真 カレン・カーペンター(Carpenters)
A&M Records / Public domain

カレン・カーペンターの歌には、大声で呼びかけられるより、すぐそばで話しかけられるような親しさがあります。
その印象を、柔らかい声質だけで説明してしまうと、歌の作り方の面白さを見落としてしまいます。
兄のリチャードは、カレンの低音が生きる曲を選び、伸ばす言葉の響きまで考えていました。

声の魅力を知る二人が、どこでその声を聴かせるかを決めていた。
その分かりやすい例が、1970年の「(They Long to Be) Close to You」です。
歌い出しから、カレンの低い声が主役になります。

「Close to You」は、低い音から始まる

歌の見せ場というと、サビで声が高くなる瞬間を思い浮かべるかもしれません。
ところが「Close to You」は、旋律の中でいちばん低い音から始まります。
リチャードがこの曲を例に挙げたのも、その出だしでした。
ピアノの音が残る中で、カレンの声をはっきり聴かせる配置になっています。

低い音は、ただ出せれば印象的になるわけではありません。
声が弱くなり、言葉が聞き取りにくくなることもあります。
カレンの場合は、その音域にこそ、二人が聴かせたい声の魅力がありました。
リチャードもカレンもそれを分かっていて、選曲や作曲に生かしていたのです。

曲の出だしに注目すると、この歌の聴きどころも変わります。
高い音へ上がるのを待つ前に、最初の一言でどんな声の人なのかが伝わってくる。
「Close to You」は、カレンに似合う旋律と、その声を目立たせる伴奏を一緒に考えた曲として楽しめます。

「Superstar」は、伸ばす言葉まで似合っていた

リチャードが気にしていたのは、音の高さだけではありません。
カレンに合う曲を選ぶ際には、歌詞の母音も大切にしていました。
長く伸ばす部分に、どんな響きの言葉が来るか。
その相性がよい例として挙げていたのが、1971年の「Superstar」です。

母音とは、「あ」「い」「う」のように、声を伸ばしたときに残る音です。
歌詞の一語を長く歌えば、その意味と一緒に、母音の響きも聴き手へ届き続けます。
リチャードが例に挙げたのは、「ago」や「show」といった、丸みのある母音を伸ばす言葉でした。
旋律が美しいことに加えて、その旋律をどんな言葉で歌うかも、選曲の理由になっていたのです。

「Superstar」には、録音の興味深い話も残っています。
カレンはまず、演奏者が曲の旋律をつかめるように歌っていました。
いわゆる仮歌です。ベースやドラムの奏者は、その声をヘッドホンで聴きながら演奏しました。
そして二人は、その段階のカレンの歌を気に入り、完成したレコードにも採用しました。

伴奏を作るための歌が、聴き手に届ける歌にもなった。
二人がその歌を気に入ったという話からは、完成品かどうかを、録音の順番では決めていなかったことが分かります。
似合う曲を選び、その曲でカレンがよく歌えた声を残す。選曲と録音の判断が、ここでつながっています。

長い息が、言葉の流れを途切れさせない

曲と言葉がカレンに似合っていても、歌う途中で何度も苦しそうに息を継げば、落ち着いた印象は変わります。
そこで効いてくるのが、リチャードが特に驚いていた呼吸の扱いです。

彼は、1972年の「Goodbye to Love」の冒頭を例に挙げています。
カレンは長いフレーズを、一息で歌い進めることができました。
歌手仲間から、肺が四つあるのかと冗談を言われたこともあったそうです。

この話を、息の長さの記録として読むだけではもったいないと思います。
歌詞を途中で細かく分断せずに歌えると、一つの考えや気持ちを、まとまった言葉として伝えやすくなるからです。
聴き手は息継ぎの大変さよりも、歌われている内容に意識を向けられます。
カレンの落ち着いた歌には、それを支える歌唱上の余裕もあったのです。

ドラムセットに座るカレン・カーペンター(1973年の宣伝写真)
ドラムセットに座るカレン・カーペンター(1973年の宣伝写真)。写真:Billboard Publications Inc. / Public domain

ただし、声が近く感じられる理由を、録音機材だけで説明することには、リチャードは異なる見方をしていました。
マイクへ近づけば声の存在感は増しますが、カレンの親密な歌の印象は、声そのものと曲の解釈に備わっていたと話しています。
低い声をよく拾うだけで、誰もが同じ歌になるわけではない、ということです。

あの声が生きる曲を、二人は知っていた

「Close to You」の低い歌い出し、「Superstar」の伸ばす言葉、「Goodbye to Love」の長いフレーズ。
カレンの声が親しく感じられる背景には、その声に似合う曲を選ぶ判断と、言葉を滑らかに歌い進める力がありました。
柔らかい声を持っているだけで完成する歌ではなく、声のよさが伝わるように曲と歌唱が組み合わされています。

一方で、カレン自身は初期の歌声にずっと満足していたわけではありません。
同じ曲を、後年の声でもう一度歌いたいと望んだこともありました。
その歌い直しについては、カレン・カーペンターの歌声の変遷でたどっています。

まず「Close to You」に戻るなら、サビへ進む前の最初の一言に耳を向けてみてください。
低い音から歌を始めることが、カレンにとってどれほど大きな見せ場だったのか。
リチャードが誇らしげに語った理由を、曲の中で確かめたくなります。

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