辰巳ゆうとの歌声はどう変わった?「純情」の青年がロックへ進むまで

辰巳ゆうとの歌声の変遷をたどる記事のアイキャッチ シンガー

辰巳ゆうとさんの歌声は、2018年のデビューから現在までに、若さと低音を生かす王道演歌の声から、曲ごとにこぶし、語り、熱量、高音の強さを選び直せる声へ変わりました。

変化の中心は、演歌を離れたことではありません。
祖父から受け取った演歌を核にしたまま、「若い演歌歌手はこう歌うもの」という枠を一作ずつ広げてきたことです。

こぶしを封じたラブソングの翌年に、声が出なくなるほど情熱的な歌へ進み、その翌年には明るい昭和ポップス、さらに2026年にはロックへ向かう。
振れ幅が大きいのに辰巳さんらしさが残る理由を、転機ごとにたどります。

祖父の演歌とストリートライブが声の原点を作った

1998年に大阪で生まれた辰巳さんは、祖父の影響で幼い頃から演歌を聴いて育ちました。
中学1年生でカラオケ大会に優勝し、高校時代から本格的なレッスンを始めます。

2016年、大学進学で上京すると、デビューを目指しながら赤羽や十条などでストリートライブを続けました。
ラジカセとマイクを使い、足を止めるか分からない人の前で往年の演歌を歌う日々です。

この時期に鍛えられたのは、きれいに歌う技術だけではありません。
知らない人へ最初の一節で興味を持ってもらい、目の前の反応を受けて歌を届ける舞台度胸でした。

後に歌唱のジャンルが広がっても、辰巳さんが客席とのやり取りを重視し続けるのは、この出発点と無関係ではないでしょう。
音源を再現するより、同じ場所にいる人と一曲を成立させる感覚が、デビュー前から育っていました。

2018年、「下町純情」は若さと低音を隠さなかった

2018年1月、「下町純情」でCDデビューしました。
当時21歳だった本人は、若さを無理に消さず、低い音を自分の魅力として聞かせたいと話しています。

主人公も、老練な男ではなく、下町でまっすぐ生きる若者です。
年齢以上の渋さを作り込むのではなく、明るさと元気を前へ出したことが初期の個性になりました。

同年には日本レコード大賞最優秀新人賞を受賞します。
翌2019年の「おとこの純情」では、同じ“純情”を残しながら、より男らしい人物へ役を進めました。

二作の段階では、若く爽やかな演歌歌手という輪郭が強くあります。
後の変化は、この素直な声を否定するのではなく、演じられる人物を増やす形で起こります。

星くずセレナーデを歌う辰巳ゆうと

2020〜2021年、会えない時期が「届ける歌」を問い直した

デビュー3年目以降も作品は続きましたが、コロナ禍によって客席へ直接歌う機会は大きく制限されました。
ストリートライブから育った辰巳さんにとって、目の前の笑顔や反応を受け取れない状況は、歌の土台そのものが変わる出来事でした。

一方で、配信や映像を通じて届ける機会が増え、声だけでなく画面の向こうへ人物や感情を伝える必要も強まります。
後の作品でビジュアル、芝居、ダンスまで一曲の表現として考える姿勢は、この時期を経てより明確になっていきました。

変化を単に声量や音域の成長だけで測ると、この期間は見落とされます。
客席がない場所でも、歌の相手を具体的に想像する力が必要になった時期です。

2022年、「雪月花」と歌謡浪曲で若さを重さへ変えた

デビュー5周年の「雪月花」は、それまで以上にスケールの大きい王道演歌でした。
本人は一回の歌唱に使う体力が非常に大きく、23歳の今だから力が入る部分も、10年後や20年後には違う深みになるだろうと語っています。

ここで若さは、消すべき未熟さではなく、作品へ勢いを与える材料として扱われました。
同時収録の長編歌謡浪曲「沖田総司」では、歌だけでなく長い台詞と物語を背負い、主人公の人生を声で運ぶ役割へ進みます。

同じ年にミュージカルの発声と感情表現も学びました。
喜怒哀楽を短い時間で切り替えることに苦戦しながら、演歌とは違う人物の作り方を経験しています。

重い演歌とミュージカルは正反対に見えます。
しかし、どちらも自分の声を見せるより、役の感情を届ける点でつながっていました。

2023年、こぶしの演歌と語るラブソングを同じ年に出した

2023年は、辰巳さんの歌唱が一方向に進化したわけではないことを、最も分かりやすく示した年です。
1月の「心機一転」は、こぶしを豊かに使う明るい王道演歌でした。

9月の「星くずセレナーデ」では、そのこぶしをあえて封じます。
歌い上げるより、今聞いている一人へ話すように声を置き、等身大の恋へ近づきました。

本人は、それまで演歌歌手として技術や歌唱力を追求してきたからこそ、この方向転換に自分でも驚いたと振り返っています。
技術を増やすことだけが成長ではなく、持っている技術を使わない判断もまた成長でした。

ファンの記録には、生歌の正確さだけでなく、イントロ前に表情が変わり、指先まで曲の情景を作る姿が残されています。
声の変化が、立ち姿や視線を含む人物表現へ広がった時期です。

2024年、「迷宮のマリア」で抑えた声を再び全開にした

「星くずセレナーデ」が引き算なら、翌年の「迷宮のマリア」は大胆な足し算でした。
情熱的な主人公に合わせ、本人は「俺様」という新しい像を掲げ、外見も歌も大きく変えています。

録音では、力を抜こうとしても曲につられて全力になり、最後は声が出なくなるほどだったといいます。
静かなラブソングで得た語りの近さを捨てたのではなく、その反対側にある熱を解放しました。

同作では日本レコード大賞編曲賞も受賞しています。
若い爽やかさで始まった声が、大きな編曲と情熱的な人物を押し返さずに受け止められるようになった節目です。

ただし、強い歌唱だけを新しい標準にしたわけではありません。
次の作品では再び力の抜け方が重要になります。

迷宮のマリアを歌う辰巳ゆうと

2025年、「運命の夏」は力を抜いた高音と明るさを選んだ

「運命の夏」は、それまでで最もおしゃれなラブソングとして作られました。
演歌の情念ではなく、年上の女性へ憧れる大学生のような青春を、明るいポップスへ乗せています。

録音時の辰巳さんは、前日の企画で全身が筋肉痛でした。
余計な力を入れられなかった結果、高いキーが滑らかに出たと本人が語っています。

前年の「迷宮のマリア」では、感情が身体を全力へ連れていきました。
今作では身体の力が抜けたことが、明るい高音を助けています。
強く歌えるようになった後に、強くしなくても届く声を確かめた出来事です。

コンサートも、演歌だけに閉じず、バンド編成や幅広いジャンルを取り込む形へ広がりました。
若い演歌歌手という看板を守る段階から、自分の歌で演歌と別の音楽を行き来する段階へ移っています。

2026年、「ロンリー・ジェネレーション」で自ら限界を半音上げた

10枚目のシングルは、ドライブ感のあるロック曲「ロンリー・ジェネレーション」でした。
デビュー時の本人は、10枚目がロックになるとは想像していなかったと話しています。

制作では、当初の予定より半音高いキーを自ら提案しました。
最も高いサビは本人にも苦しいものの、その高さでなければ曲の爽快感と攻める印象が十分に出ないと判断したためです。

これは、若い頃のように力だけで押した結果ではありません。
低音を大切にした初期、物語を背負った歌謡浪曲、こぶしを封じたラブソング、力を抜いた高音を経て、「この曲では高く攻める」と選べるようになった姿です。

ツアーの題名も「Transformation」とされ、演歌だけの公演と、郷ひろみさんの曲から歌謡浪曲まで扱う公演を並行して行いました。
本人が嫌うのは演歌ではなく、「これしか歌えない」と決められることです。

変わらず残ったのは、客席の前で歌が完成する感覚

作品の色は大きく変わりましたが、ストリートライブで身につけた客席との距離は残っています。
「運命の夏」では観客と振り付けを共有し、2026年の公演では演歌だけの濃い時間と、立って盛り上がるライブの時間を使い分けています。

初期の「楽しく元気に歌う」という姿勢も消えていません。
表現できる悲しさや色気が増えても、歌を難しい技術の展示にせず、目の前の人が参加できる形へ戻します。

編集者や観客の記録では、声量、音程、迫力に加え、親しみやすい会話から歌へ入った時の変化が繰り返し印象として残されています。
演歌、ポップス、ロックをつなぐものは同じ発声用語ではなく、人前で人物へ切り替わる力です。

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辰巳ゆうとの変遷は、演歌を薄めた歴史ではない

辰巳ゆうとさんは、祖父から受け取った演歌と、街頭で人へ届けた経験を持ってデビューしました。
「下町純情」では若さと低音を生かし、「雪月花」では若さを大きな物語の熱へ変えました。

「星くずセレナーデ」でこぶしを封じ、「迷宮のマリア」で全力を解放し、「運命の夏」で力を抜いた高音を知り、「ロンリー・ジェネレーション」では自ら限界を半音上げています。
技術が一本の直線で増えたのではなく、必要なものを選び直せる幅が増えました。

ロックへ進んでも、演歌を卒業したわけではありません。
演歌しか歌えないと思われたくないからこそ、演歌だけの公演も同時に成立させる。
その一見矛盾した欲深さが、辰巳さんの現在です。

今の低音、こぶし、高音、人物表現を詳しく知りたい方は、辰巳ゆうとさんの歌い方・発声分析もご覧ください。
「純情」の青年がロックへ進んだ9年は、演歌を捨てた道ではなく、演歌を持って歩ける場所を増やした道でした。

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