デュア・リパの歌い方|低い声が、ダンスのリズムを作る

デュア・リパの低い声には、ダンスのリズムによく合う軽快さがあります。
短い言葉を次々に運び、ときには話しかけるように歌う。ディスコの弾む伴奏に声が加わると、歌そのものも、体を動かしたくなるリズムの一部になります。

「Don’t Start Now」や「Levitating」で面白いのは、低音の響きを聴かせながら、言葉を軽快に進ませるところです。
その歌は、声を大きく出すだけでは作れません。どこを短く言うか、どこで歌から話し声へ近づくか。デュアは声の使い方でも、踊れる曲を作っています。

「Levitating」で、わざと話すように歌う

2020年の『Future Nostalgia』に収められた「Levitating」では、曲の途中で、旋律を伸びやかに歌う声から、言葉をたたみかけるような声へ変わります。
ここには、本人のはっきりした狙いがありました。歌だけを聴くと、イギリス出身だと分からない人がいるので、自分のアクセントをもっと出したかったのです。

デュアは、そのために旋律を減らし、話すように歌う部分を作ったと説明しています。
普段の話し方に近づけば、言葉の区切りやアクセントが前に出る。デュアの場合は、そこが曲の途中で歌の勢いを変える場面にもなっています。

低い声の魅力は、重厚に響かせることだけではありません。
デュアのように短い言葉へ分けて運ぶと、落ち着いた声のままでも、曲の足取りを軽くできるのです。

2022年のFuture Nostalgia Tourで歌うデュア・リパ
2022年のFuture Nostalgia Tourで歌うデュア・リパ。写真:erintheredmc / CC BY 2.0

主旋律の後ろでは、別の人物になってみる

「Levitating」のコーラスでは、本人たちは声色を変え、別の人物になったつもりでも歌っています。
主旋律の周りに違う表情の声が増え、歌のにぎやかさを作っているのです。

こうした遊びができた背景には、長く一緒に作ってきた仲間との関係もありました。
デュアは2作目の制作を振り返り、初めて会う人たちに毎回実力を示そうとしていたころより、よい案が出ない日も受け入れられるようになったと話しています。

このアルバムで思い出していたのは、幼いころ、両親の好きな曲を家で一緒に歌った楽しさでした。
歌詞を知らない部分は、自分で作ってでも参加していたといいます。昔の曲の音色を借りるだけでなく、思わず歌いたくなる気分まで、新しい曲へ持ち込みたかったのでした。

声色を変えて遊べる制作の場は、その音楽によく合っています。
きれいに整った一人の歌を聴くだけでなく、自分も一緒に口ずさみたくなる。「Levitating」の軽やかさには、そんな親しみやすさもあります。

「Don’t Start Now」は、低い声を伴奏となじませる

「Don’t Start Now」の制作を担当したイアン・カークパトリックは、デュアの声には、中低音の響きがとても豊かにあると説明しています。
魅力的な特徴ですが、その響きが強すぎると、録音の中ではほかの音を覆ってしまうこともありました。

そこで彼は、声の低い成分を少し整理し、ドラムの音に合わせて歌の音量を細かく動かしています。
声と伴奏を別々に目立たせるのではなく、互いに動きがかみ合うようにするためでした。声と伴奏が一緒に弾む背景には、歌唱とともに、こうした音作りもあります。

一方、歌を録る段階で彼が求めるのは、まず、その人が本当に思っているように聞こえる表現です。
正しい音程だけを気にして歌詞を読み上げるのではなく、誰かに何かを伝えている歌であってほしい。音程を整える作業と、歌の気持ちを引き出す作業を分けて考えています。

「Don’t Start Now」は、別れから立ち直ったところへ戻ってきた相手に、もう振り回されないと伝える曲です。
だから、踊れる伴奏の上でも、声が頼りなく聞こえてほしい場面ではありません。低い声の落ち着きと、歯切れよく進む言葉が、歌の強気な態度によく合っています。

低い声のまま、曲を前へ進ませる

「Levitating」では、話すような歌や遊びのあるコーラスで、声にリズムを作る。「Don’t Start Now」では、中低音の豊かさを生かしながら、伴奏と一緒に軽快に進める。
デュアの歌は、特徴的な低音を聴かせることと、踊れる曲にすることを、言葉の運び方で結びつけています。

その一方で、後の作品では、声を高く伸ばす場面にも挑んできました。
低い声を自分の持ち味として見つけたころから、使う音域を広げていく過程は、デュア・リパの歌声の変遷でたどっています。

まず耳を向けたいのは、一番高い音だけでなく、短い一言の終わり方です。
軽く言い切った声が、次の言葉やドラムへつながる。デュアの歌で体を動かしたくなる理由は、その小さな動きの中にもあります。

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