デュア・リパの歌声の変遷|低音を武器にした出発点から、高く伸びる歌へ

デュア・リパは、高音について聞かれたとき、自分の声は低く、高い音には苦労してきたと答えています。
2020年の発言です。その時点で、すでに大きなヒットを持つ歌手でしたが、本人はボーカルコーチと練習し、使える音域を広げているところだと話していました。

低い声で成功したから、ずっと同じ範囲で歌う。それで満足していたわけではないのです。
2016年の「Hotter Than Hell」、2020年の「Cool」、2024年の「Falling Forever」をたどると、自分らしい声を見つけたあとに、その声でできることを増やしていく過程が見えてきます。

2016年、「Hotter Than Hell」で自分の声に合う音楽が見えた

デビュー前のデュアは、どんな歌手になりたいのかを、共作者たちと探していました。
本人が伝えていたイメージは、ラッパーのJ・コールと、ポップ歌手のネリー・ファータドを混ぜたような音楽。聞かされた人が戸惑うこともあったそうです。

そんな中でできたのが、2016年にシングルとして発表される「Hotter Than Hell」でした。

本人によると、制作途中の伴奏は、ピアノとキックドラムだけという簡素なものでした。
その上に、低めの音域で歌う、ラップのような言葉の流れと、ポップなサビが乗る。暗さのある曲調も含めて、デュアはそこに、自分が欲しかった音楽を見つけます。この曲がレコード契約につながりました。

本人は、低い声でラップのように言葉を運ぶところを、この曲の好きな点として挙げています。
低音の響きが、影のある曲の雰囲気に合っていた。自分の声を生かす形が見えたことが、歌手としての出発につながったのでした。

2020年、「Cool」で、使ってこなかった音域を試す

『Future Nostalgia』を作るとき、デュアが避けたかったのは、大ヒットした「New Rules」と同じことを繰り返そうとすることでした。
前の成功を再現しようとするばかりでは、歌手として先へ進めなくなる。そこで、子どものころから親しんだ音楽を、自分の新しい曲へ取り入れていきます。

その中の「Cool」は、実は初めて聴かされたとき、本人が気に入らなかった曲でした。
ところが、しばらくして伴奏だけを聴くと、印象が変わります。デュアはトーヴ・ローと一緒に制作し、それまで試していなかった音域を使うことになりました。

「Cool」では、低く落ち着いた声の印象に、高いほうへ軽く上がる歌い方が加わります。
初期の陰りのある曲と比べると、同じ歌手の声でも、明るく弾む恋の歌にできることが分かる。一度は興味を持てなかった曲が、自分の声を違う方向から使う機会になったのでした。

この年の終わりに本人が、高音は練習しているところだと話していたことも、ここで思い出したくなります。
完成したアルバムでは堂々と歌っていても、本人にとっては、まだ学び続けている途中だったのです。

2024年、「Falling Forever」では、録った本人も驚いた

2024年の『Radical Optimism』には、さらに声の大きな伸びを聴かせる「Falling Forever」が入っています。
短い言葉を低く刻んでいく歌とは違い、サビで声を長く引き、上へ広げていく曲です。

歌の録音を担当したキャメロン・ガワー・プールは、この曲の録音に立ち会い、それまであまり聴いたことのないデュアの歌い方に驚いたと話しています。
録った歌を聴き返すと、デュア本人も感心していたそうです。聴き手だけでなく、いつも近くで声を聴く人と、歌った本人にも、新しい発見がありました。

キャメロンは、デュアのように声の個性がはっきりした歌手を録るとき、自分が邪魔をしないことを大切にしているといいます。
録音する側が求める形へ押し込むより、歌手自身から出てきた声を生かす。「Falling Forever」での驚きにも、その姿勢が表れています。

2024年のグラストンベリー・フェスティバルでのデュア・リパ
2024年のグラストンベリー・フェスティバルでのデュア・リパ。写真:Raph_PH / CC BY 2.0

『Radical Optimism』の制作では、思いついたことをデュアがすぐマイクで録れるよう、仲間たちが同じ場所で作業していました。
声の案も、伴奏の案も、その場で試して曲へ入れていく。すでに自分の個性を持つ歌手になってからも、まだ試していない歌い方が出てくる余地があったのです。

低音を捨てたのではなく、歌える表情が増えていった

「Hotter Than Hell」では、低い声と言葉のリズムが、自分に合う音楽を見つける手がかりになりました。
「Cool」では、使っていなかった音域を試す。そして「Falling Forever」では、声を大きく伸ばす歌が、本人にも驚きを与えました。

三曲は、同じメロディーを同じ条件で歌い比べたものではありません。
ここで見えるのは、声の高さの数値がどれだけ変わったかではなく、デュアが作品の中で選べる歌い方を増やしてきたことです。初期の低音の魅力が、新しい高音によって不要になったわけではありません。

低い声で言葉を軽快に進める面白さは、デュア・リパの歌い方でも扱っています。
その持ち味を知っていると、「Falling Forever」のように大きく伸ばす声も、違う歌手になった証拠ではなく、同じ声に加わった新しい聴きどころになります。

低い声が自分の印になることと、その先の音を練習すること。
デュアの歩みでは、その両方が続いていました。得意な声を見つけたところを完成形にせず、そこからさらに歌の選択肢を広げているのです。

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