小柳ゆきとデーモン閣下の共演は、声のパワーをぶつけ合う場面として見られることがあります。
けれども、一緒に歌ってきたデーモン閣下が褒めたのは、柔らかな表情と、一気に気持ちを高める歌い方の共存でした。
ずっと同じ強さで歌うことと、強い歌を聴かせることは同じではありません。
小柳の歌い方には、声を抑える場面や、息遣いのような小さな表情を生かす選択があります。
「SPHERE-feat.デーモン閣下-」―公式MV・全編(2020年)
「SPHERE」で、柔らかな表情から高揚へつなぐ
2020年発表の「SPHERE-feat.デーモン閣下-」は、二人の歌声が交わる曲です。
本人たちが共通点を感じていたのは、ビブラートや、サビへ向かって気持ちを上げる時の抑揚でした。
ビブラートは伸ばした声を揺らすこと、抑揚は音の強弱や調子の変化を指します。
特に話題になったのが、終盤でいったん勢いを抑える落ちサビです。
デーモン閣下は、そこでの小柳の歌に、ソフトな表情と、そこから強く高揚していく感じを認めています。
パワフルな歌手という一般的な印象には収まりきらない表現でした。
大きな声だけを目印にすると、抑えたところも、次の強い歌も、ひと続きの迫力に見えてしまいます。
けれども、この曲で二人が話しているのは、柔らかな状態から強さへ向かう、その動きです。
最初から押し切らず、声に変化を持たせることが、歌の盛り上がりを作っています。
ハーモニーの中では、前へ出る歌と溶け込む歌を分ける
2014年の『ハモネプ』では、歌手たちによるアカペラグループ「七色ボイス」のリードを担当しました。
本人がぴあの取材で説明したのは、二曲での歌い方の違いです。
大黒摩季の「あなただけ見つめてる」では、仲間の後押しもあり、思い切って前へ出る歌を選びました。
一方、尾崎豊の「I LOVE YOU」では、ハーモニーへ溶け込むことを大切にしたといいます。
同じメンバーと歌っていても、リードの声をいつも一番目立たせるわけではありません。
自分が曲を引っ張る場面と、ほかの声と一つになる場面を選ぶ。
強い声を持つ小柳が、周囲の声の中へ入っていく心地よさも知っていたことが、この二曲から分かります。
相手のフェイクを受けて、歌を組み立てる
同年の「Here For You」は、ピーボ・ブライソンとのデュエットでした。
先に届いた彼の歌には、旋律を大きく崩すフェイクが多く、小柳はどうハーモニーを重ねるかに苦労したと話しています。
共演ライブでは相手が小柳の癖に合わせてくれていたため、録音では関係が逆になったのでした。
譜面上の旋律だけでなく、実際に届いた相手の歌へ応じる必要がある。
デュエットの迫力は、二人が別々に強く歌うだけでは作れません。
相手の声をよく聴いて、自分が入る場所を探すことも、小柳の表現を支える仕事です。

画像出典:写真掲載元
『RARE TASTY』では、息遣いも聴こえる編成を選ぶ
声の細部を聴かせるためには、周りにどんな楽器があるかも関わります。
2022年のカバーアルバム『RARE TASTY』で選んだのは、歌とピアノ、ウッドベースという小さな編成でした。
ドラムなどを加える案もありましたが、少ない音だからこそ表現が広がると考えています。
本人が届けたかったのは、音の大きさだけでは捉えられない、息遣いや小さな擦れまで含めた生の感触でした。
声を大きく整えて前へ出すだけではなく、小さな音にも耳が向く場所を作る。
よく通る声を持つ人が、繊細な部分も聴かせようとした作品です。
「Cry Baby」の歌は、一発録りに近い形になったと話しています。
また、カバーする曲はよく聴き込んでいるため、原曲の歌い手の特徴が自然に入ってくるとも説明しました。
その感覚を受け取りながら、自分ならどう歌うかを考えていきます。
原曲の細かな特徴を拾うことと、自分の声で表すことは、そこで結びついています。
大きな声で旋律を歌い切るだけでは、曲ごとの人物や空気まで同じように描くことはできません。
どの表情を自分の中へ残し、どの響きを聴き手へ渡すかが、歌い方の違いになっているのです。
「Cry Baby」―公式カバー映像・約2分30秒(2022年)
オーケストラでは、リズムの頼り方が変わる
小さな編成とは別の難しさを教えてくれるのが、オーケストラとの共演です。
2019年の取材で小柳は、いつものバンドのようにドラムやベースがリズムを支える形ではないことに、不安や難しさを感じると話しています。
その一方で、きっちりしたリズムから離れることで、表現の自由度が増すとも感じていました。
音が増えた分だけ声を大きくすればよい、という話ではありません。
歌う際に頼るリズムが変わると、フレーズをどのように運ぶかも考える必要があります。
本人は、背中へ届く演奏の波に刺激を受けて歌う楽しさを語っています。
大きな編成も、小柳にとっては、声の力を試す場であると同時に、違う表現を引き出す相手だったのです。
この共演については、歌詞の解釈そのものを変えなくても、歌がより劇的に広がるとも説明しています。
同じ気持ちを歌っていても、伴奏との関係で伝わり方は変わる。
『RARE TASTY』で小さな息遣いへ耳を向ける聴き方と並べると、編成に応じて声の見せ方を選ぶ姿が、よりはっきりします。
本番前は、集中を強めるだけでなく、ほぐす時間も作る
歌い出す前の準備にも、小柳らしい工夫があります。
2025年の取材で明かしたのは、声出しに加え、体を動かしたり、気持ちを落ち着かせたりする本番前の習慣でした。
舞台袖でスクワットや背筋をすることもあるといいます。
その理由として本人が挙げたのが、集中し過ぎた状態から自分を解放することでした。
呼吸が深くなることも、気持ちをほぐすことにつながると感じています。
集中をひたすら強めるのではなく、歌える状態へ自分を戻すための準備です。
この習慣に落ち着いたのは、その取材から1〜2年ほど前のことだったそうです。
長く歌ってきた小柳も、声を出す前に、どんな気持ちと呼吸で舞台へ向かうかを探し続けていました。
2015年にも、本番前の発声練習やストレッチ、ラジオ体操について話していました。
当初は寝起きでも声が出るほど準備を意識していなかったものの、ライブを重ねる中でやり方を考えるようになったという説明です。
2025年の習慣は、突然始まったものというより、舞台の前に自分を整える方法を探してきた延長にあります。
柔らかな声から強さへ向かう抑揚、少ない楽器の中に残す息遣い、歌う前に自分をほぐす時間。
小柳の迫力ある歌には、力を加える場面だけでなく、細部を生かせる状態を選ぶ工夫があります。
声量だけを追うより、その前後で何を抑え、何を浮かび上がらせているかを考えると、表現の幅が見えてきます。
「愛情」やデビュー曲の歌い方を見直し、低い声にも出会った歩みは、小柳ゆきの歌唱変遷でたどっています。







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