内田怜央(Kroi)の歌い方|声色、ファルセット、ラップを曲の中でどう使う?

2021年のライブでの内田怜央(Momo Angela撮影/音楽ナタリー掲載) シンガー
2021年のライブでの内田怜央(Momo Angela撮影/音楽ナタリー掲載)

内田怜央の歌い方を考える入口は、声を一つに決めないことです。
本人は、Kroiを始めたときから、一人だけで歌っているようには感じさせたくなかったと話しています。

歌とラップを使い分け、曲やセクションに合わせて声を選ぶ。
取材でも魅力として挙げられたファルセットから、勢いのある歌、重ねて録るコーラスまで、声の使い道が広い歌い手です。
どこへ声を置くかという考えも含めて、その特徴を見ていきます。

「Fire Brain」2022年の「TAKE OFF」での公式ライブ映像(2023年公開)。

一つの声色へ揃えないことが、出発点にある

2021年の取材で「Suck a Lemmon」の声色の多さを聞かれた内田は、一人で歌っている感じを出さないことが、結成時からの目標だったと答えています。
声の個性を一種類にまとめるより、異なる要素が混ざることを面白いと感じていました。

「Suck a Lemmon」公式MV(曲の発表は2018年、MV公開は2019年)。

つまり、同じ人の声だとすぐにわかる響きを、ずっと保とうとしているわけではありません。
一曲の中でも、どんな声が入ると音楽が面白くなるかを考えています。
内田の歌を聴くときは、音の高さだけでなく、声の質感や、言葉を運ぶ調子が変わるところにも目を向けると、狙いをつかみやすくなります。

ファルセットとラップが、違う表情を持つ

2021年の取材では、聞き手から、内田のファルセットが魅力として挙げられています。
ファルセットは、裏声による響きです。
彼の歌の表情には、こうした声も含まれています。

歌い方の背景について内田は、ラップではローリン・ヒル、R&Bの歌ではアル・グリーンからの影響を語っています。
ラップにも、ただ言葉を多く詰め込むだけでなく、曲の空気に合う声で表現する歌い手への憧れがありました。

声の切り替えは、高い音と低い音の移動だけではありません。
メロディを歌う声と、ビートの中で言葉を刻む声では、同じ一人の中でも、曲への関わり方が変わります。
内田は、その違いを持ったうえで、作品ごとに境界を動かしています。

言葉の意味と、口にしたときの響きを両立する

声の選び方と関わるのが、言葉そのものの作り方です。
『LENS』についてのBillboard JAPANの取材で、内田は、言いたいことが増えるにつれて、語感の心地よさと意味の釣り合いを考えるようになったと話しています。
意味を最初からはっきり説明するより、歌詞を読んで気づけるくらいの含みも大切にしていました。

この考え方を踏まえると、内田の歌は、言葉を文章として追う聴き方と、音の流れとして受け取る聴き方の両方に開かれています。
まず声とビートの組み合わせを楽しみ、あとから歌詞へ戻ってみる。
音として引っかかった言葉に意味を見つけると、同じフレーズでも違った表情が見えてきます。
多彩な声色は、そうした二つの入口を持つ歌の中で働いているのです。

「WATAGUMO」では、歌い上げる面にも目を向ける

2022年8月のフリーライブを取材した村田舞子は、「WATAGUMO」での内田を、歌い上げるような感情の豊かさが魅力だったと伝えています。
同じ夜の「Fire Brain」については、シャウトに近い力強いボーカルだったと記していました。
声色を次々に変える面だけでなく、歌の流れを大きく届ける面もあるのです。

「WATAGUMO」公式MV(2021年のEP『nerd』収録曲)。

内田自身も、同年の取材では、歌は曲を聴かせるための手段で、メロディやセクションに合う表現を考えると話しています。
一つの唱法へ固めることより、曲が必要としている声に応える。
その考えが、異なる性格の歌を並べても、一人の歌い手として成立する土台になっています。

2024年の『Unspoiled』取材でのKroi(TAGAWA YUTARO撮影/音楽ナタリー掲載)
2024年の『Unspoiled』取材でのKroi(TAGAWA YUTARO撮影/音楽ナタリー掲載)。
画像出典:画像掲載元

声を前へ出すか、バンドの中へ入れるか

2021年の『LENS』の取材では、内田は、バンド全体で音を引くことの大切さに気づいたと話しています。
自分のボーカルについても、いつも前へ出るものではなく、ライブや曲作りの中で出し引きを考えるという説明でした。

声の存在感は、声だけで決まるものでもありません。
楽器と同時に強く出るのか、ほかの音へ場所を渡すのかで、曲の中での役割が変わります。
多彩な声を持つことに加え、その声をどこまで出すかを選ぶことも、内田の歌い方を考えるうえで欠かせません。

ライブの中で、予定していなかった歌が生まれる

声の選択には、準備して作るものに加え、その場で現れるものもあります。
2025年の「Method」の取材で内田は、ライブへ深く入り込むと、普段は出てこない歌のフェイクが生まれることがあると話しました。
フェイクは、元の旋律へ装飾を加えたり、歌い回しを変えたりする表現です。

「Method」の制作では、録音の前に5人で演奏し、その人数で曲が成立するかも確かめたと、ベースの関将典が説明しています。
ライブに近い状態から作ることで、ステージでも演奏でき、さらに変化させる余地を残していました。
内田の即興的な歌も、こうした仲間との演奏の中で考えると捉えやすくなります。

音源とライブで歌い回しが違ったとき、その差だけを正誤として比べるより、周囲の演奏とどう応じ合うかを追う。
その場で声が動くことも、Kroiの歌の面白さを知る手がかりになります。

「SPIN」の最後は、一人で声を重ねている

2026年の「SPIN」の終盤では、内田が一人でコーラスを重ねています。
本人によると、あの発声を専門的に学んだことはなく、完全な再現にならない部分も気に入っているそうです。

このコーラスは、西部劇を思わせる音と、ファンクやソウル、J-POPを組み合わせた一曲の締めくくりです。
内田は、最後を壮大にして、明確なエンディングを作りたかったと説明しています。
声の響きを選ぶ理由が、曲全体をどんな景色で終えるかという構想とつながっていました。

終盤でテンポや音の景色が変わることにも、もう一つの展開を入れたいという意図があったそうです。
そこに重なるコーラスは、主旋律の後ろを薄く埋めるだけの声とは役割が違います。
最後の場面そのものを作る音として声を使うところに、内田の歌唱と曲作りの近さが表れています。

歌詞でも、作品の時代へ入った自分ならどう生きるかを考え、最後を前向きに結ぶことを意識したと話しています。
声を重ねた壮大な終わり方は、歌でどこへたどり着きたいかという方向とも結びついています。

「SPIN」公式MV・フル版(2026年)。

ここでは、一人がその場で出している一本の声に、録音で重ねるという方法が加わっています。
声を変えることと、声を重ねること。
両方を使うことで、歌の中へ置ける響きも増えていきます。

内田の歌い方は、一つの声質や唱法だけで覚えるより、その曲でどんな声を選び、どこで変え、どう重ねているかを追うとつかみやすくなります。
初期から近年まで、その選び方がどう広がってきたかは、内田怜央の歌唱変遷でたどっています。

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