亜咲花の2021年のシングル「BELIEVE MYSELF」には、手術前と手術後の歌が一緒に収められています。
その間に彼女が経験したのは、以前のように歌えない戸惑いと、今の声だから試せる表現の発見でした。
発売順からいったん離れて録音やライブの時期をたどると、声を取り戻す過程で、歌に向き合う気持ちも動いていたことが分かります。
「BELIEVE MYSELF」(2021年)のリリックビデオ。
手術前の最後に録音した「BELIEVE MYSELF」
亜咲花は2020年4月、声帯ポリープの摘出手術を受けました。
翌年発売の「BELIEVE MYSELF」は、その手術前に録音した最後の曲です。
本人は、不安を語るような前半から、希望へ向かうサビへと表情を変えています。
裏声も、弱さや切なさを表すための選択でした。
手術前の声を残すと同時に、物語に合わせて声を使い分けた録音です。

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術後最初の「Last Friday Night」に、その時の自分を残す
手術後、最初に録音した曲だと本人が説明しているのが「Last Friday Night」です。
2020年10月発売のシングル「I believe what you said」に収められました。
手術前の「BELIEVE MYSELF」より、こちらが先に世に出ています。
この時期には、思うように自分らしい歌を歌えず、悩む日々もありました。
同じシングルの中でも声が若返ったように感じられるかもしれないと、本人も捉えています。
それでも、その時の声や歌い方を、歩んできた時間の記録として残すことにしました。
歌詞は亜咲花自身が書いています。
失恋を友人たちと騒いで忘れようとしても、一人になると寂しさが戻ってくる女の子の物語です。
言葉作りでは大好きなハロー!プロジェクトを参考にし、歌入れでもそのイメージを持ちながら、自分らしさとの両立を試みました。
回復を待つ時間にも、新しい役柄や歌の表情を探していたのです。
発売時の取材では、自分らしい歌が少しずつ戻ってきたので、今歌えば録音とはまた違うものになりそうだとも話しています。
この音源には、変わり続ける途中の姿が残っています。
「Last Friday Night」— 2020年のシングル「I believe what you said」収録の権利者提供音源。
2020年夏の「Seize The Day」で、歌い方を選ぶ余裕が生まれる
2021年1月発売の「Seize The Day」は、2020年の夏頃に録音されました。
以前は出しづらかった高音を、どれだけきれいに届けられるか。
亜咲花は新しい声の感触を確かめながら、音を短く弾ませるスタッカートなど、あまり経験のなかった歌い方を取り入れています。
それまでの『ゆるキャン△』の曲では、なるべく地声を生かしてきたといいます。
この曲ではサビの裏声もアクセントにし、声を抜くところを作ることでメリハリをつけました。
歌える音を確かめることが、曲をどう弾ませるかという選択につながっています。
興味深いのは、取材で歌の軽やかさを指摘されたとき、意図して声を軽くしたわけではないと答えていることです。
以前は一曲を歌い切るのに精いっぱいだったのが、少しずつ余裕を持ち、歌い回しや音の伸ばし方まで考えられるようになった。
本人は、心の負担が軽くなったことも歌に表れたのだと受け止めています。
もっとも、この頃はまだリハビリの途中でした。
完全に元へ戻ってから新しい表現を始めたのではなく、歌いながら扱える声と表現の幅を探していた時期です。
「Seize The Day」(2021年)のミュージックビデオ。
2020年11月の「ERA」で、再び一公演を歌い切る
録音とは違い、ライブでは何曲も続けて歌うことになります。
2020年11月20日のオンラインワンマンライブ「ERA」は、手術後初の単独公演でした。
リハーサルで歌えていても、本番を最後までやり遂げられるかという不安はあったといいます。
それでも、実際の舞台ではリハーサル以上の力を発揮できたと振り返っています。
声が切り替わる場所を気にし続ける負担が減り、歌に集中できるようになったという実感もありました。
復帰とは一度で完了する出来事ではなく、録音で確かめた声を、公演の中で使ってみる経験でもあったのでしょう。
その公演を語る本人の言葉には、共演者の音の話も出てきます。
ベースを担当したチャッキーこと伊藤千明の音は輪郭がはっきりしていて、体でも感じられた。
とくに「I believe what you said」では、そのベースを頼りにリズムを取りながら歌ったそうです。
声が出るかどうかという心配の先に、周囲の演奏とどう歌を合わせるかという楽しみがありました。

画像出典:SPICE
この公演は、ライブ映像作品『亜咲花ワンマンライブ2020 ~ERA~』として2021年3月に発売されています。
同じシングルに入った、異なる感情の表し方
2021年11月の「BELIEVE MYSELF」に戻ると、カップリングの「RED ECLIPSE」と「Bravery Song」は、どちらも手術後の録音です。
「RED ECLIPSE」では、曲が好きで楽しく歌いすぎたため、録音する部屋を暗くし、歌詞の孤独な人物へ気持ちを寄せ直しました。
「RED ECLIPSE」の音源。
2021年のシングル「BELIEVE MYSELF」に収録。
一方、「Bravery Song」の出発点は、2021年7月のアコースティックライブでした。
歌える場所への思いを込め、録音では普段のように区切らず、ほぼ一回通して歌っています。
声が詰まった箇所も残し、ミックスの段階では伴奏がなくなる部分を加えました。
その時の気持ちをどう届けるかが、制作を動かしています。
「Bravery Song」の音源。
2021年のシングル「BELIEVE MYSELF」に収録。
術後最初の録音に、その時の声を残す。
次の曲では、使える声を確かめながら歌い方を試す。
そしてライブや新しい録音では、共演者や歌詞の感情へ意識を向けていく。
亜咲花のこの時期の変遷には、回復と創作が並んで進んでいく過程があります。
地声や裏声、声の質感を曲の中でどう選んでいるかは、亜咲花の歌い方で取り上げています。







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