甫木元空(Bialystocks)の歌い方|「言伝」の軽い声と、「Over Now」で変える言葉のタイミング

甫木元空(左/2026年の「J-WAVE NEWS」掲載写真) シンガー
甫木元空(左/2026年の「J-WAVE NEWS」掲載写真)

「言伝」では、力や口の開きを控え、座って軽く歌う。
「Over Now」では、前へつんのめるところや、早めに切るところを作る。
甫木元空が説明した録音時の工夫から、声の出し方と、言葉の運び方を見ていきます。

「言伝」(2026年)の公式音源。

「言伝」で、力も口の開きも控えて歌う

2026年の「言伝」について、甫木元は「J-WAVE NEWS」に掲載された番組でのやり取りで、レコーディングの難しさを話しています。
相方で鍵盤を担当する菊池剛の中には、歌い方や声のイメージがはっきりありました。

そのための設定が、あまり力を入れず、口も大きく開けず、座ってくつろぐように軽く歌うことでした。
この歌い方で録るのが難しく、レコーディングは1日では終わらなかったといいます。

軽さが、この曲のために丁寧に作り込んだ表現でした。

この曲では、日本語を乗せても音や意味が引っかかりすぎず、自然に聴き進められることも意識したといいます。
英語のデモに合う難しい言葉を探すより、日常で使う言葉の組み合わせを考えたという説明です。
軽い声の設定は、言葉を難しく構えずに受け取れる曲にする作業とも並んでいます。

「Over Now」は、歌を前へ進める場所と、切る場所を変える

「Over Now」は、2022年のEP『Tide Pool』に収録された曲です。
2024年のTBSラジオ「脳盗」で、Cメロの歌い方について話題になったとき、甫木元は、歌のタイミングに菊池から毎回ディレクションがあると説明しています。

あるところは前へつんのめるように歌い、別のところは、逆に早めに切ってみる。
そうした緩急のイメージが、菊池の中には明確にありました。
それを実際の歌にするため、ボーカルの録音にも、とても時間がかかると話しています。

「Over Now」のMV。

歌う音程だけでなく、言葉を前へ運ぶ勢いや、どこで歌を切り上げるかも変えているのです。
録音時のやり取りが、言葉の並びにリズムの表情を与えています。

速い歌でも、言葉を全部同じ勢いでつなぐわけではない

言葉のリズムへの取り組みは、2022年の「LEE」の取材でも説明されています。
「I Don’t Have a Pen」などの速い歌について、どこで息継ぎをするのかと聞かれた甫木元は、合間で何度もしていると答えていました。
速く言葉が続く曲でも、息を一度も入れずに歌っているという話ではありません。

本人にとっては、もともと持っていたリズム感とは違う曲への挑戦だったそうです。
ほかにもっと速く歌える人や、ラップの韻を巧みに扱う人がいる中で、自分には何ができるかを考えていると話していました。
単に言葉を速く詰め込むことを、歌の目標にしているわけではないのです。

同じ取材で菊池は、歌詞の主題は甫木元に任せる一方、音やリズムには細かく関わると説明しています。
甫木元が挙げたのは、あえて流れを止めることや、逆に流れをよくするために言葉を加えることでした。
言葉の意味が決まってから同じ速度で読み上げるのではなく、音楽の進み方に合わせて、置き方も変えていきます。

「Over Now」の前へ出る歌と早く切る歌も、その具体例として考えられます。
高い音や速い箇所に目が向きやすい歌ですが、言葉が止まる位置まで含めて追うと、二人が細かく作るリズムに気づけるはずです。

甫木元空(2025年の「音楽ナタリー」掲載写真)
甫木元空(2025年の「音楽ナタリー」掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

録音とライブでは、感情を出す程度を分けて考える

タイミングを細かく決めることと、いつも同じ熱量で歌うことは同じではありません。
2023年の「Real Sound」のインタビューで甫木元は、録音とライブは分けて考えていると話しています。
録音では感情が強すぎると感じる表現でも、ライブなら成立させられるという説明でした。

この発言からは、音源に入った歌が、その曲で許される表現の上限とは限らないことがわかります。
繰り返し聴く音源に残す声と、その場の演奏の中で出す声。
同じ曲でも、どこまで感情を前に出すかを考える条件が変わるのです。

同じ取材では、菊池のアレンジについて、盛り上げすぎることもできる自分のメロディに、引き算で緩急をつけてくれると話していました。
歌い手が強く押し出すだけで曲を大きくするのではなく、伴奏の組み立てによっても、歌の見え方が変わります。
甫木元の声と菊池の編曲は、その点でも切り離せません。

また、当時のツアーでは、二人以外の演奏者に光が当たる構成を楽しんでいたそうです。
ギターソロで客席が盛り上がることも含め、歌だけを中心に据え続けない。
声が出ていない時間の展開まで、公演の流れとして受け止めています。

アレンジの中で、ボーカルの居場所を探す

2026年の「SPICE」のインタビューでも、甫木元は歌の存在感について聞かれ、曲やアレンジの中での差し引きを意識すると答えていました。
ボーカルをどのあたりに置くと曲がよくなるのか。
リハーサルで落としどころを探し、本番へ進むという説明です。

これはミキサーの音量だけを指した話ではなく、どんな歌を歌えばよいかという本人の判断です。
声を目立たせる度合いや、ほかの音と並んだときの収まりを考える。
「言伝」のように軽く歌う選択にも、この考え方を重ねてみることができます。

映画監督でもある甫木元は、映画音楽の働きにも触れていました。
単独で聴けばあっさりした曲が、映像や登場人物の感情と合わさると、壮大に感じられることがある。
そうした引き算の考え方には影響を受けているそうです。
歌声そのものを常に大きく作らなくても、曲全体で伝わるものを考えているのでしょう。

同じ取材で理想の歌い手像を問われたときには、もっと余裕を持ち、ライブを楽しみながら軽々と歌いたいと話しています。
軽さは、すでにできると断言する完成形ではなく、本人がさらに探している表現でもあるのです。

野外での歌の届き方については、2026年のFM802「WANNALAB.」の取材にも興味深い話があります。
食べ物を買いに行きながら遠くで聴く人や、休みながら聴く人もいる空間を、甫木元は心地よく感じるそうです。
それぞれ自由に聴いている様子に触れると、演奏する側も自由になれると説明していました。

一人ひとりが同じ集中度で、歌い手を見つめているとは限らない。
そんな場の様子を見ながら演奏することも、本人にとってライブの面白さです。
細かく設計する録音の歌と、聴き手のいる場で生まれる歌の両方が、Bialystocksの表現を支えています。

「言伝」で声を軽くする設定と、「Over Now」で言葉のタイミングを変える指示。
甫木元空の歌い方には、曲が求める声と、その声が入る瞬間や終わる瞬間を、細かく合わせていく作業があります。
何度も歌って言葉を探した録音や、二人編成ツアーで歌への向き合い方が変わった経緯は、甫木元空(Bialystocks)の歌唱変遷でたどっています。

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