UAの歌い方|「情熱」の強さと「ミルクティー」の柔らかさは、どこから来るのか

UAの公式アーティスト写真 UA
UA。出典:SPEEDSTAR RECORDS 公式プロフィール

「情熱」でUA(ウーア)を知った人には、あの声が持つ迫力が強く残っているかもしれません。
ところが「ミルクティー」では、同じ歌手の声が、ずっと穏やかに感じられます。
どちらもUAなのに、歌から受け取る気分はかなり違います。

その違いを考えるとき、歌声と一緒に聴きたいのが伴奏です。
UAは、自分の声をどんな音に合わせるかを、デビュー当初から細かく選んできました。
「情熱」の制作でも、伴奏を華やかにする案より、音を少なくする案を好んでいたのです。

強い声を持っていることと、曲のすべてを力強く歌うことは別です。
リズムや楽器が変われば、その声で伝えられる気持ちも変わる。
UAの歌い方の面白さは、その組み合わせにあります。

「情熱」は、もっと音の少ない曲になるかもしれなかった

1996年の「情熱」は、UAと朝本浩文が意見を交わしながら作った曲です。
朝本は、UAのデビュー作「HORIZON」の制作にも関わっていた音楽家でした。
その仕事ぶりに惹かれたUAが、次の制作を頼んだのが「情熱」だったと振り返っています。

最初に朝本から届いたのは、レゲエ調の曲でした。
UAが音の方向について希望を伝え、話し合いながら形が変わっていきます。
あの曲は、完成済みの伴奏に歌だけを入れて出来上がったわけではありません。

さらに制作中には、音数を抑えたもの、管楽器で華やかに盛り上げるもの、その中間という三つの案がありました。
UAが好きだったのは、最も音の少ない案。
ディレクターは派手な案を希望し、最終的には中間の形を選んだそうです。

音が少なければ、一つの楽器の動きや、歌が途切れたあとに残る伴奏を追いやすくなります。
反対に管楽器を重ねれば、歌と一緒に盛り上がる力が強くなる。
UAは、声を目立たせるために伴奏を豪華にすることだけを考えていたのではなく、声の周りにどれくらい音を置くかも選んでいたのです。

そして、歌われているのは勢いだけでは解決できない恋愛です。
本人によると、歌詞には、好きでいるのに相手を十分に理解できていないという当時の経験が影響しています。
「情熱」という題名でも、ただ熱く思いをぶつければよい歌ではなかった。
力のある歌声と、相手を理解しきれない気持ちが重なるところに、この曲の引っかかりがあります。

「ミルクティー」では、その声で安心させてくれる

窓辺で撮影されたUAのポートレート
UA(2022年のインタビュー掲載写真)。出典:Bezzy

1998年の「ミルクティー」も、朝本が手がけた曲です。
「情熱」と同じ組み合わせなのに、歌の表情はぐっと穏やかになります。
UAの公式紹介でも、この曲は、ゆったりしたリズムと母性的な温かさを持つ作品として説明されています。

「ミルクティー」の歌には、相手の疲れや悲しみに寄り添う親しさがあります。
大きな出来事を劇的に語るというより、身近な人と過ごす時間に歌が近づいてくる。
その曲の性格に、柔らかい歌声と、急かさないリズムがよく合っています。

聴き手の感想を読むと、最初は強い印象を持たなかったのに、後から何度も聴きたくなったという人もいます。
「情熱」のように一度でつかまれる魅力と、「ミルクティー」のように繰り返し聴くうちに好きになる魅力。
同じ声でも、曲と歌い方の組み合わせによって、聴き手との距離は変わるのです。

UAは「情熱」以降の曲について、前に出した曲を踏まえて、次はどんな違うことができるかを考えていたと話しています。
朝本とも、最近聴いている音楽の話をしながら次の方向を探していたそうです。
強い印象を残す歌手になっても、その印象を毎回なぞることが目標ではありませんでした。

憧れの歌手を、そのまま自分の型にはしなかった

UAが歌に惹かれた背景には、アレサ・フランクリンやジャニス・ジョプリンがいます。
けれど、憧れた歌手の歌い方をそのまま自分に当てはめようとは思わなかった、と本人は振り返っています。

アレサの歌は、UAが初めて人前で歌うときにも大切な曲でした。
ただ、憧れの曲をステージで歌えるようになるまでには、意外な失敗がありました。
大阪で歌える店の仕事を始めた頃、UAはアレサの「Chain of Fools」を歌いたいと希望しました。
周囲から難しいと言われ、別の曲を練習したものの、いざバンドの前に立つと、どこから歌い始めればよいのか分からなくなってしまいます。

歌そのものを練習していても、バンドの演奏のどこで歌に入るのかをつかめなかったのです。
ところが、あらためて本当に歌いたかった「Chain of Fools」に挑むと、今度は最後まで歌えた。
お客さんの前で、演奏に合わせて気持ちよく歌えた最初の経験だったそうです。

その後も、UAの関心は声そのものだけに向かっていたわけではありません。
クラブで聴く音楽から元の曲をたどるうちに、リズムや音の作り方へも耳が向いていったといいます。
彼女が目指していたのは、個性のある伴奏と、自分の歌が組み合わさったときの格好よさでした。

だから、UAの歌を「ソウルフルな声」とだけ説明すると、少し足りません。
その声を、どんなリズムの中で、どんな楽器と一緒に聴かせたいのか。
「情熱」と「ミルクティー」の違いにも、歌手自身の音楽の好みが表れています。

ライブでは、伴奏が変わるから歌も自由になる

2019年のWATASHIAUWA Tourで歌うUA
「WATASHIAUWA Tour 2019」でのUA。写真:田中聖太郎。出典:Mikiki

2019年の「WATASHIAUWA Tour」最終日には、歌と伴奏の関係がよく分かる場面がありました。
「ミルクティー」を、内橋和久のアコースティックギターに合わせて歌ったのです。
ボサノバを思わせる演奏で、歌声がぐっと近く感じられる、穏やかな場面だったと公演レポートは伝えています。

その後には「情熱」。
客席が立ち上がって体を揺らす展開になり、UAの節回しも自由さを増したと記されています。
同じ日の、同じ歌手の声でも、親密に聴く時間と、一緒に踊る時間を作り分けられる。
二曲の違いは、録音された音源だけのものではないのです。

こうした演奏では、バンドが毎回同じ伴奏を繰り返し、歌手がその上で好きに歌えばよい、とはいきません。
歌の勢いに合わせて演奏が変わり、楽器の動きを受けて歌の表情も変わる。
同公演では、ギター、ベース、ドラム、コーラスがUAの歌を支え、曲の途中でリズムや雰囲気を変えていました。

UAのライブで昔の曲を聴く楽しみには、知っているメロディーに再会することに加え、今度はどんな演奏と歌になるのかという楽しみがあります。
歌い方が変わる背景には、その日のバンドの演奏があるのです。

「微熱」は、切ない気持ちを踊れる歌にした

2022年の「微熱」でも、歌とリズムの組み合わせをUA自身が選んでいます。
作詞作曲を手がけたのは、GEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポー。
最初に届いたのは、ゆっくりした弾き語りの曲でした。

UAはその形も気に入り、アコースティック版も録音しています。
それでも、発表する曲はダンスチューンにしたいと考えました。
切ない気持ちを歌いながら、体は踊れる。
その組み合わせに、彼女はポップソングの魅力を感じていたのです。

しんみりした歌詞には、しんみりした伴奏が必要とは限りません。
明るく動くリズムがあるからこそ、歌に含まれた寂しさが違う形で伝わることもある。
「微熱」は、UAがその可能性を選んだ曲です。

「情熱」から「微熱」へという題名のつながりは、以前より控えめに歌う曲を想像させるかもしれません。
けれど、本人が望んだのは、切なさを抱えたまま踊れる曲でした。
若い世代の書いたメロディーや言葉に出会い、それを自分がどんな音楽として歌うかを考えた作品でした。
声の持ち味がはっきりしていても、組み合わせる音や作り手には、新しい可能性が残っています。

声の個性を、曲ごとの楽しさに変えられる

UAの歌を聴くとき、最初に耳を引くのは、やはりあの声です。
けれど「情熱」の強さと「ミルクティー」の柔らかさを比べると、声質だけでは説明できない違いが見えてきます。
どんな気持ちを歌う曲なのか、リズムはどう動くのか、周りにどれくらい楽器の音があるのか。
UAは、その組み合わせによって歌の表情を変えてきました。

「情熱」なら歌と伴奏の間にある空間を、「ミルクティー」なら穏やかなリズムと声の親しさを、「微熱」なら切なさと踊れる楽しさが重なるところを。
声だけを追っていたときとは、気になる箇所が変わってくるはずです。

UAの個性は、どんな曲でも同じように歌うことではなく、自分の声で曲ごとに違う気分を作れることにあります。
あの声が好きだからこそ、次はどんな伴奏で歌うのかも楽しみになる。
「情熱」と「ミルクティー」は、その両方を教えてくれる二曲です。

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