山口隆(サンボマスター)の歌い方|歌の途中でも、伝えたい言葉が止まらない

グレッチのギターを弾く山口隆 シンガー
山口隆(2022年のインタビュー掲載写真)。出典:Gretsch Japan

サンボマスターのライブでは、曲が始まってからも山口隆の話が続きます。
客席に呼びかけ、励まし、ときには笑わせる。
そしてまた旋律を歌い、言葉の勢いが増すと、声も叫びに近づいていきます。

山口の歌い方の面白さは、歌と語りを行き来しながら、聴いている人に話しかけ続けることです。
かすれた強い声も、バラードのやわらかな声も、相手へ言葉を届けるために使われています。
大きな声を出せる人、という説明だけでは、ライブで引き込まれる理由も、「ラブソング」で見せる表情も、十分には分かりません。

2005年の「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」は、ドラマ『電車男』の主題歌として広く知られた一曲です。
呼びかけるような言葉と、勢いよく歌う旋律が、一つの曲の中にあります。

歌詞が決まっていても、その場の気持ちを加える

山口の歌には、曲と曲の間のMCだけでなく、演奏の途中にも話し言葉が入ります。
伴奏が進んでいるところへ声を差し込み、目の前の観客に向けて呼びかける。
そのため、歌詞を覚えている曲でも、ライブでは新しく聞こえる言葉があります。

この歌い方は、最近のライブだけで始まったものではありません。
2004年のインタビューで山口は、元の歌詞が8割ほどあり、残りはその瞬間に思ったことを歌っていると説明していました。
歌った内容を、後からマネージャーに書き起こしてもらうこともあったそうです。
先に文章を完成させてから歌う、という順番だけではなかったのです。

理由も、そのときに感じていることを歌いたいからでした。
気持ちが変わっているのに、決めた言葉をそのまま歌うことへの違和感があったのです。
すべての曲で毎回2割を変えるという決まりではなく、当時の本人が語った、歌と言葉の関係です。

ここで加わる言葉は、旋律をきれいに歌うこととは別の働きをします。
曲に出てくる「君」が、聴いている自分のことだと感じられるようになる。
目の前から呼びかけられることで、観客も、その歌を自分に向けられた言葉として受け取れるのです。

だから山口の語りは、歌が始まる前の説明として片づけられません。
歌っている最中にも、相手との関係を作り続ける。
そのための声として、旋律のある歌と話し言葉がつながっています。

激しく呼びかけたあと、普通の声で礼を言う

2022年の「Sky Jamboree」では、「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」の演奏中にも山口が客席へ言葉を投げかけていました。
当時は感染対策で、観客が大きな声を出せない時期です。
そこで彼は、心の中で一緒に叫べる人は手を挙げてほしいと呼びかけました。
観客の声が返ってこなくても、挙がる手によって応答が生まれます。

この場面では、同じ歌詞を同じように歌うだけでは、観客が参加する方法までは伝わりません。
会場の状況に合わせた話し言葉が入ることで、聴いている人もライブを作る側へ加われます。
山口がよく口にする「全員優勝」という言葉も、演奏する3人だけでなく、観客も一緒に楽しむための呼びかけになっています。

さらに、この日の声の変化で興味深いのは、激しい呼びかけのあとです。
観客の存在を強く肯定した山口は、自然な話し声に戻り、ここまで生きて会場に来てくれたことへの感謝を伝えました。
そこから「ラブソング」へ進んでいます。

声を張っている間は、言葉の勢いで大勢に働きかける。
声を落ち着かせると、一人に向かって礼を言っているような近さが生まれる。
この強い声とやわらかい声の落差も、山口の表現の大事な部分です。

歌でも、高い音を強く鳴らす一方、低めの音では息を含んだやわらかい声を使います。
山口は、叫び、語り、静かな歌を行き来することで、聴き手の気持ちを動かしていきます。
声を弱める場面があるからこそ、再び張り上げた声の強さも印象に残るのです。

Sky Jamboree 2022のサンボマスター。右が山口隆
Sky Jamboree 2022でのサンボマスター。右が山口隆。出典:Sky Jamboree/FM長崎

「ラブソング」では、ギターを弾かないことを選んだ

2009年の「ラブソング」は、サンボマスター初のバラード・シングルでした。
それ以前にもバラードはありましたが、この曲では、ピアノと弦楽器を中心に据えた伴奏が大きく前に出ます。
山口自身はギターを弾いていません。
普段はギター、ベース、ドラムで演奏する3人組が、その中心となるギターを抜いているのです。

その出発点は、別れてしまった人に向けて歌いたいという気持ちでした。
死別だけでなく、生きていても会えなくなった相手を含んでいます。
山口は曲を何度も録音し直し、途中ではピアノの弾き語りだけで発表することも考えたと話しています。

本人にとって大切だったのは、曲を美しく仕上げ、その旋律を歌うことでした。
ギターを入れない方が、この曲にはよかった。
ドラマーの木内泰史も、3人組だからギターを入れるという決まりより、曲に合う形を選べたことを喜んでいます。

この伴奏では、バンド全体が一気に突進する感覚とは違って、山口の声が描く旋律を追いやすくなります。
強くかすれた声の印象だけで聴いていた人には、やわらかい歌声や、伸びやかなメロディーそのものが新鮮に感じられるでしょう。
かすれた声には、力強さとともに、静かな旋律に似合う美しさもあるのです。

ただ、ここで穏やかな歌手へ転向したわけではありません。
同じシングルには、勢いのある「世界をかえさせておくれよ」も入っています。
会場にいる人へ強く呼びかけるときもあれば、もう会えない人へ、ゆっくり旋律を歌いたくなるときもある。
伝えたい相手や気持ちが違えば、選ぶ声も伴奏も変わるのです。

あの大きな声の持ち主も、言葉を引っ込めてしまう

ステージ上の山口を見ていると、言いたいことをためらわず口にできる人のように思えます。
ところが、本人は、自分の書いた歌詞をすぐに引っ込めてしまうタイプだと話しています。
恥ずかしいと感じる言葉ほど、いったん仲間に見せることが大切でした。

2026年の東洋大学のインタビューでも、ベーシストの近藤洋一と木内は、山口が引っ込めようとする率直な言葉を、そのまま出してほしいと考えていました。
気持ちをむき出しにするほど、自分だけではよいかどうかを判断しにくい。
そばで演奏する二人が受け止めることで、山口も率直な言葉を歌にできます。

たとえば、まっすぐに愛情を伝えようとしても、周りが冷ややかな反応をすれば、声は出しにくくなります。
山口が話していたのは、3人の間にそうした空気がなく、大きな声で思いを言えることでした。
あの歌の勢いには、歌手一人の度胸に加えて、二人との信頼関係があります。

2018年のインタビューで、山口はロックンロールを、人の存在を肯定してくれるものとして語っていました。
孤独でも、自信がなくても、そのままでよいと受け止めてくれる。
だから、ライブで観客へ向ける強い言葉にも、以前の自分が音楽から受け取ったものを渡したいという思いがあります。

声の荒さだけを切り取ると、聴く人を圧倒する歌にも見えます。
けれど、その声で伝えようとしているのは、相手の存在を認める言葉です。
山口の歌を支えるやさしさは、声を小さくしたときだけにあるわけではありません。

サンボマスター。左から木内泰史、山口隆、近藤洋一
左から木内泰史、山口隆、近藤洋一(2026年掲載)。出典:東洋大学

叫びも静かな歌も、誰かへの呼びかけになる

「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」のライブでは、歌の途中に加わる言葉が、その日の客席へ届きます。
「ラブソング」では、会えなくなった相手を思い、ギターを入れない伴奏で旋律を歌いました。
声の大きさも、演奏の形も違いますが、どちらにも言葉を届けたい相手がいます。

山口隆の歌い方は、強い声を出すことだけで完成するものではありません。
演奏の途中で語りかけ、やわらかい声で歌い、必要なところで思いきり声を張る。
その変化によって、聴き手との距離が変わっていきます。

歌の途中でも、伝えたいことがあれば話しかけずにはいられない。
そんな山口の声だからこそ、よく知っている曲にも、その場で自分へ言われたように感じる瞬間が生まれるのでしょう。

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