IUの歌声の変遷|三段高音への挑戦から、低い声も生かす歌へ

IU(2012年「CDJournal」掲載写真) IU
IU(2012年「CDJournal」掲載写真)

「Good Day」の三段高音で知られるIUは、低い声にも自分の好みを持っていました。
2021年の『LILAC』では、歌い手として声を改めて研究しています。
低い声で歌う「Coin」がある一方、「My Sea」では、録音の途中で曲のキーを上げる挑戦もありました。
高音への挑戦、日本でのコーラス録音、曲ごとの歌い方を考え直した時間から、その歩みをたどります。

『LILAC』収録「Coin」(2021年)のMV。

「Good Day」は、言葉が変わると歌う気持ちも変わる

2012年の日本デビュー期の取材で、IUは「Good Day」の三段高音について、2回ほどでできたと振り返っています。
少し難しかったものの、作曲家から期待をかけられたことで挑戦心が刺激され、やってみようと思ったという話でした。

ただ、本人が歌うときにまず考えると話していたのは、歌詞でした。
主人公になりきり、演じるように歌うという考えです。
歌詞に合わせた気持ちの違いは、「Good Day」の韓国語版と日本語版にも表れていました。

「Good Day」の韓国語版MV。

IUによると、韓国語版では別れの悲しさを、日本語版では告白する恥ずかしさを感じて歌っています。
同じ曲でも、言葉の内容によって、歌の中に置く気持ちは変わっていました。
印象的な高音を歌えることと、その曲の人物をどう表すかということを、両方考えていたのです。

「Good Day」の日本語版MV(2012年)。

日本での録音では、重ねる声にも向き合う

2013年には、初の日本オリジナル作品となるミニアルバム『Can You Hear Me?』を発表しました。
「Beautiful Dancer」では、王道のR&Bをどう表すかに戸惑い、自分ですべてのコーラスを録る作業にも苦労したと話しています。
声を重ねて作品を作ることも、新たな課題になっていました。

「Beautiful Dancer」のMV(2013年)。

同じ作品の「Truth」のコーラスには、本人が好きだという低い声を使っています。
主旋律の後ろを支える声にも、自分の好みを生かしていました。

『Can You Hear Me?』収録「Truth」(2013年)の公式音源。

IU(2013年「CDJournal」掲載写真)
IU(2013年「CDJournal」掲載写真)。
画像出典:画像掲載元

大きな音楽を作りたいという思いが、声の使い方にも及ぶ

2020年の取材では、作りたい音楽の規模についても考えていました。
以前は、小さな物語や気軽に聴ける音楽を好んでいたものの、広く大きな物語にひかれるようになったといいます。
そのため歌うときにも、深く低い声まで広く使う方法を考えるようになったと話しています。

翌2021年の『LILAC』について、IUは、この考えを積極的に反映したと説明しています。
響きも内容も華やかで多彩な作品にするため、作曲した自分の曲を収録することにも、こだわりませんでした。
それまでの個人的で淡々とした自作曲は、今回のアルバムの雰囲気には合わないと判断したのです。

慣れ親しんだ自分の色でまとめるか、新しい音や雰囲気で次の段階を示すか。
制作では何度も考え、初めて組む作り手との間でも、互いに合わせる時間が必要だったと振り返っています。
自分の慣れた作風だけでまとめず、アルバムの狙いに合う曲と歌い方を探していました。

IU(2021年「W Korea」掲載写真/撮影:김희준)。
IU(2021年「W Korea」掲載写真/撮影:김희준)。
画像出典:W Korea

『LILAC』では、物語を伝えるだけでなく音も研究する

『LILAC』の制作を振り返ったIUは、いつしか音よりも物語を伝えることに重点を置いていたのかもしれない、と話しています。
歌い手として、音をもっと研究すべき時期ではないか。
そう考え、各曲を何度も歌い、歌い方を検討したと説明していました。

自分らしさを保ちながら、新しい試みを続ける。
それは聴き手のためだけでなく、自分自身が音楽を楽しみ続けるためでもあったといいます。
歌詞の主人公を演じるという初期の考えに加え、その物語をどんな音の表情で届けるかも、改めて課題にしていました。

「Coin」のラップにも、選択の変化があります。
2021年のテレビ番組への出演を伝えた記事によると、当初はCLとの共演を考えていたものの、日程が合わず実現しませんでした。
そこで、自分でラップを担当することを選んだと紹介されています。

音楽ライターのSofiana Ramliも、この曲の低い声域での歌とラップに注目していました。
低い声をコーラスで生かした日本での録音に続き、ここでは曲の前面で、異なる歌い口を引き受けています。

「My Sea」では、半音上げたキーで高音に挑む

同じアルバムの「My Sea」では、高音を含む歌を仕上げる難しさも残っていました。
2021年4月に公開された本人の番組での話として、NMEは録音時のやり取りを紹介しています。
最初のヴァースを録った後、作曲家のジェフィが、半音上げてみようと提案したといいます。

もともと高い曲だったため、IUは初め、その変更に反対でした。
それでも録音を進め、曲の頂点となる高音は1テイクで決めたと報じられています。
最終的には、二人とも仕上がりに納得していました。
キーの変更は、この曲をどう仕上げるかという制作上の判断だったのです。

『LILAC』収録「My Sea」(2021年)の公式音源。

「My Sea」の完成した歌について、Ramliは、弦楽器や合唱を背景に、感情を明瞭に伝える力強さと、終盤の高音を評価しています。
「Coin」の低い歌とラップも、「My Sea」の大きな高音も、同じアルバムの表現でした。

IUの変遷は、高い声から低い声へ一方向に移ったものではありません。
歌詞の人物を演じ、重ねる声にも好みを生かし、新しい曲では音そのものを研究する。
歌える音の高さに加えて、その声をどこで、どんな意味で使うかを選び続けてきた歩みです。
日本語の発音やビブラートの工夫、曲ごとの表現は、IUの歌い方で取り上げています。

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