「Solitude (No One Understands Me)」では、ささやきから、終盤に向けて表現を盛り上げる。
ダミアーノ・デイヴィッドが語った歌い方には、声の強弱を、曲の進み方と結びつける工夫があります。
「Tangerine feat. d4vd」で取り入れたかった歌唱スタイルも交え、一つの曲でどんな声を選ぶかを考えます。
『FUNNY little FEARS』収録「Solitude (No One Understands Me)」(2025年)の公式ビジュアル映像。
ささやきから膨らませる「Solitude」
2025年のアルバム『FUNNY little FEARS』に収録された「Solitude (No One Understands Me)」について、ダミアーノは、会話や日記のように感じる曲だと話しています。
その感覚から、ささやいて歌い、終盤へ向かって表現を膨らませるのが自然だったと説明していました。
一曲の中で声の強さを変えることが、本人にとっては、解放へ向かう感覚ともつながっていたのです。
本人はこの歌を、言葉、メロディ、強さ、身体の表現が一緒になる、直感的なものとして捉えていました。
一曲の中で、いくつもの感情を見せる
曲の途中で表情が変わる歌い方を考えるうえで、本人が挙げているミュージカルからの影響も見逃せません。
Man About Townの取材でダミアーノは、短い時間の中に幅広い感情を表すため、ミュージカルの考え方を使ったと話しています。
一つの曲でも多くの感情を通過でき、舞台の世界では突然の変化も自然に受け入れられる、という説明でした。
記事が取り上げる「Born With A Broken Heart」は、悲しさを含む歌詞と、明るく弾む曲調が同居する曲です。
最後のサビへ向かう転調も、その展開の一つとして紹介されています。
歌い手の感情を最初から最後まで同じ濃さに保つのではなく、曲が進む中で場面を動かしていく発想があります。
「Solitude」で本人が語った、会話のような声から終盤へ進む表現とも重ねて考えられます。
ただ強い声と弱い声を交互に出すのではなく、その言葉をどんな気持ちで届ける場面なのかを、歌全体の中で選んでいるのです。
歌の強弱と、感情の動く順番を一緒に聴くと、声を変える意味が見えてきます。
「Tangerine」で試したかった、柔らかく語りかける歌
同じアルバムの「Tangerine feat. d4vd」では、昔から惹かれていたクルーナースタイルの歌唱を、自分らしい曲でやってみたかったと話しています。
クルーナーとは、柔らかく語りかけるように歌うスタイルです。
歌詞には少し現代的な感覚を取り入れながら、その好みを曲にしたかったといいます。
「Tangerine feat. d4vd」(2025年)のリリック映像(Filtr Music Brasil公開)。
ファルセットと、伴奏の少ない歌の表情
語りかけるような歌のほかに、声を軽く響かせる選択もあります。
Billboard Italiaのアルバム評でGabriele Antonucciが「Angel」の特徴として挙げたのは、サビのファルセットでした。
打楽器的なピアノやドラムの動きに、その高い声が組み合わされる曲として紹介しています。
同じ評では、「Perfect Life」はほぼ声とギターを中心に作られ、ダミアーノが声の扱いをさまざまに変える曲と捉えられています。
伴奏の厚い場面で声を強く打ち出す歌と、音数が少ない中で歌の表情を見せる曲では、聴き手の注意が向く場所も違います。
声を大きくすることだけが、存在感を出す方法ではありません。
また、スキ・ウォーターハウスと共演した「The Bruise」は、アコースティックギターと弦楽器を土台に、二人の声が対話するような曲だと評されています。
終盤に向かって膨らむ構成の中にも、相手の澄んだ声との組み合わせがあります。
ソロ作品でも、一人の声だけで完結させず、別の声との関係によって曲の表情を作っています。

画像出典:画像掲載元
「Next Summer」は、軽い響きと感情を結びつける
2025年の「Next Summer」について、idobiのPaige Owensは、抑制の利いたファルセットが曲を支えていると紹介しています。
勢いのあるロックの声を知っている人にとっては、同じ歌い手がどのように軽い響きを使うかに注目できる曲です。
ただし、軽い声だから感情まで薄い、と捉える必要はありません。
ダミアーノ自身は、この曲が表面的には夏の報われない恋を歌いつつ、深いところでは、自分の恐れや不安に閉じ込められることを扱っていると説明しています。
変化を受け入れられず、別の見方ができなくなる感覚も込めた曲でした。
その背景を踏まえると、華やかさだけでなく、ためらいや弱さをどのような声で届けるかという聴き方もできます。
ファルセットを使っているという情報だけで歌を説明し終えるのではなく、その声がどんな言葉と結びついているかを見る。
「Solitude」のささやきと同様に、声の選択を曲の意味と一緒に考えると、表現の違いがわかりやすくなります。
他の歌い手の声も、曲に合うかで選ぶ
声の組み合わせを考える姿勢は、2025年の拡張版『FUNNY little FEARS (DREAMS)』にも見られます。
PAPERの取材でダミアーノは、「Talk to Me」には最初から女性の声を思い描いていたと話しています。
Tylaの声や雰囲気が、自分の求めていたヴィンテージの感覚に合っていたというのです。
この曲にはギターでナイル・ロジャースも参加しています。
PAPERが紹介したナイル本人のコメントでは、ギターを第三の声のようにしたかったという発想も示されていました。
主役の声に別の歌声が加わり、さらに楽器も会話へ参加するように置かれる。
ダミアーノの歌を聴くときも、周囲の音との受け渡しに注意を向ける楽しみがあります。
同じ取材でダミアーノは、ライブの準備をしながら新しいアイデアや既存の材料に取り組み、それをステージで分かち合いたくなったと説明しています。
歌を録音して終わりにするのではなく、人前で届けることが、次の制作にもつながっていました。
ライブでは、伴奏と歌う人数も表情を変える
RIFFのMike DeWaldによる2025年11月のサンフランシスコ公演評では、声のさまざまな質感を生かす、比較的シンプルな舞台が紹介されています。
バンドとバックボーカルを従えた公演は三つの幕に分かれ、途中には伴奏を抑えた場面も置かれていました。
「Perfect Life」から「Sick of Myself」「The Bruise」へ進む場面では、曲のペースも落としていたといいます。
一方、「Voices」では二人のバックボーカルがステージ前方へ加わり、ソウルの色合いを強める場面がありました。
同評が注目したのは、ダミアーノの独特な声に加え、普段とは異なる音色を生かしていたことです。
本人が声を変えるだけでなく、周囲で歌う人や伴奏の厚さが変わることで、同じ声の聴こえ方も変わります。
ささやき、ファルセット、語りかける歌、他の声と交わる歌。
ダミアーノのソロでの表現は、声をどれだけ強く出すかに加え、どの場面で、誰と、どのような感情を届けるかという選択からも捉えられます。
マネスキンでの力強い歌から、ラビリンスと声を混ぜる録音や、こうしたソロでの選択へ進んだ歩みは、ダミアーノ・デイヴィッドの歌唱変遷でたどっています。

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