三枝明那の歌い方には、感情を伝えるために、あえて声を整えすぎない選択があります。
その考えがよく表れているのが、2024年の『UniVerse』に収められた「Funeral」です。
曲の中で、どんな声を残そうとしたのでしょうか。
『UniVerse』収録「Funeral」(2024年)の公式音源。
丁寧に歌えるからこそ、荒々しさを残す
「Funeral」は、くじらが作詞・作曲・編曲を手がけた楽曲です。
制作にあたり、三枝は冬の海で目にした情景を伝えていました。
くじらも、本人から受け取ったイメージをもとに、秋冬の冷たい海辺を思い描いて作ったとコメントしています。
三枝は、この曲について語ったインタビューで、寂しさや慟哭を自分の声で表すことを楽しみにしていたと話しています。
歌う際には、きれいにまとめることより、そのときの感情や歌い回しを優先しました。
丁寧にも歌える中で、あえて荒々しい部分を残すことが、曲の良さにつながると考えたのです。
本人が挙げたのは、大声も波に打ち消されて悲しみが届かない、という声のイメージでした。
強く歌うことが、そのまま思いの届くことにはならない曲なのです。
終わりでは、感情を張り続けない
曲の結びについて、三枝が挙げたのは、茫然自失のような感覚で歌ったということでした。
強い思いを表したあとにも、その強さを保ったまま終わるのではなく、言葉を失うような状態を声に託しています。
「Funeral」を聴くときは、声に感情を乗せる場面と、結びで選んだ声の表情との違いに耳を向けると、本人の狙いをたどりやすくなります。
三枝明那の歌には、力を込めることに加えて、荒さをどこまで残すか、最後をどんな心持ちで歌うかという判断があります。
声や歌い回しを細かく選ぶ姿勢は、ほかの作品や共演者の言葉からも見えてきます。
荒さを残す歌にも、細部へのこだわりがある
2024年のANYCOLOR MAGAZINEで、不破湊は三枝の歌への熱意を語っています。
録音では小さな部分まで調整を繰り返し、妥協しないのだといいます。
三枝の勢いのある歌を支えているのは、思い切りのよさに加えて、どの声を作品に残すかを選び続ける姿勢なのでしょう。
同じ対談で、三枝自身が挙げたのは、自分の好きなものを追求して作品にするという考えでした。
それを聴き手も好きになってくれるという信頼が、制作の土台にあります。
整った歌を一律の完成形にするより、本人が大切にしたい感情や質感を、録音の細部まで行き渡らせることに重きを置いていると読めます。
「Funeral」の荒々しさも、この制作姿勢と合わせて考えたいところです。
荒れた声だから細かく考えていない、という関係ではありません。
曲の情景に合う声を探した結果として、滑らかさだけでは得られない表情を選んでいます。
Rain Dropsの『シナスタジア』制作について、三枝はBillboard JAPANで、ほかのメンバーの録音も見学したと話しています。
違う声がどう一つの作品になるのか、制作中は不安もあったといいます。
完成した音楽に手応えを得たという経験は、自分の声だけでなく、ほかの声や音と組み合わさったときの歌の役割を考えるうえでも興味深いものです。

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歌声と一緒に、リズムの乗り方を聴く
三枝は2022年、葛葉、不破湊とのReal Soundの鼎談で、人の歌を聴く際に重視するものとして、リズムやグルーヴ感を挙げています。
葛葉の「終末じゃない」を気に入っていると話したのも、その文脈でした。
声の高さや強さと同じように、言葉が曲の流れにどう乗るかに関心を向けていることがわかります。
同じ場で、不破の歌には熱さや気持ちの伝わりやすさを、葛葉の歌にはリズムのよさを見いだしていました。
これは二人の歌への評価ですが、三枝が歌唱を考えるときの視点を知るうえでも興味深い発言です。
感情が伝わることと、音楽の流れに乗ることを、別々の魅力として捉えています。
三枝の歌を聴くときにも、強い声が出た瞬間だけでなく、その前後で言葉がどうつながるかに耳を向けてみてください。
同じフレーズでも、言葉をひと続きに聴かせるのか、区切りを感じさせるのかで、受け取る勢いは変わります。
声の印象とリズムを分けて聴くことで、激しさの中にある歌い回しを追いやすくなります。
ライブの「Funeral」では、一曲の中で声が変わる
2024年12月の初ソロライブ「Unity」を扱ったReal Soundのレポートは、「Funeral」の歌唱を具体的に伝えています。
歌詞を一つずつ確かめるように歌い、澄んだ声から、サビでは感情を強く押し出す声へ移ったという描写です。
ここで語られているのは、その日のライブでの表現です。
この記述からは、曲全体を同じ強さで押し切る歌ではなかったことがわかります。
静かな部分を丁寧に届けるからこそ、サビに入ったときの感情の変化も際立つ。
録音時に本人が語った荒さへのこだわりと、舞台で報告された声の切り替えを合わせると、一曲の中に異なる表情を置くことの大切さが見えてきます。
同じ公演では、「心做し」で全身から訴えるような歌を響かせる一方、「はんぶんこ」では客席へ優しく呼びかけるように歌ったと紹介されています。
相手へ思いを強くぶつける歌と、そばで話すように届ける歌。
楽曲が変わると、聴き手との距離の取り方も変わるのです。
明るさと切なさを、一つの声で届ける
ライブ前のANYCOLOR MAGAZINEの鼎談では、担当マネージャーが、三枝は明るい曲も切ない曲も幅広く表現できると評しています。
また、本番で決めるべき場面を決める強さにも触れていました。
長く活動を支える立場から見ても、魅力は激しい歌に限られていません。
イベントプランナーがソロライブを企画したきっかけも、2021年の「NIJIROCK NEXT BEAT」で聴いた「オドループ」が忘れられなかったことでした。
歌の印象が、その場限りにならずに聴いた人の中へ残っていたのです。
作品の中で納得のいく声を探すことと、目の前の人に届く歌を歌うことが、三枝の活動ではつながっています。
「prayers」を提供した堀江晶太は、録音時に、歌詞の一文字もおろそかにしたくないという三枝の姿勢が印象的だったとコメントしています。
曲ごとの迷いや選択まで含めて、言葉の届き方を作っているのでしょう。
三枝明那の歌を聴き比べるなら、「Funeral」の感情の振幅と、「はんぶんこ」で描かれた優しい呼びかけを、入口にしてみてください。
声の強さだけでなく、誰にどんな気持ちを届けようとしているかに目を向けると、同じ歌い手が曲ごとに選ぶ表情の違いを楽しめます。
激しい曲への挑戦を重ねてきた経緯は、三枝明那の歌唱変遷で取り上げています。

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