KENTA(WANIMA)の歌唱変遷|「ともに」の勢いから、歌を届かせる『1Time』へ

WANIMAのKENTA KENTA(WANIMA)

若い頃は、自分に合うキーや声色をよく分かっていなかった。
WANIMAのKENTAは、2024年のアコースティック作品『1Time』について、そう振り返っています。
高い声で曲を押し出す力をつけた一方、息継ぎや言葉の細かな表情は、思うように録音へ残せなかったそうです。
昔の曲を歌い直すことで、彼は何を届け直そうとしたのでしょうか。

2016年――大声で一緒に歌う曲にも、単純な励ましは置かなかった

2016年の『JUICE UP!!』を作ったとき、KENTAは、また皆と大声で歌える曲が増えたことを喜んでいました。
同時に、三人はリズムの作り方にも挑んでいます。
メロディック・パンクでよく使われる速い2ビートに頼らず、自分たちの曲を客へ届けられないかと考えたのです。
大勢で盛り上がることと、いつもの勢いで作ることは、本人たちの中では別でした。

「ともに」は、青春や部活、汗というテーマを受けたCM曲でした。
KENTAは、明るい思い出の裏には、つらい練習や苦しさもあると考えます。
そこで、すぐに伝わりそうな「頑張れ」「大丈夫」を繰り返す方法を選ばず、別の言葉を詰め込みました。
結果として聴き取りにくい部分もあるかもしれないと認めながら、その形で曲を届けています。

歌の熱を、別の編成で届ける時間も早くからありました。
2017年のさいたまスーパーアリーナ公演では、会場中央のステージに移り、三人でアコースティックの曲を演奏しています。
KENTAがギターを持ち、歌を届ける姿も記録されました。
後の『1Time』は、こうした時間を一枚の作品として形にする試みでもあります。

WANIMAのKENTA
2017年のライブでアコースティックギターを弾くKENTA。
写真出典:BARKSの2017年ライブ写真

2019年「りんどう」――会場に来られない一人にも届く歌へ

『COMINATCHA!!』に入った「りんどう」は、録音を出す前からライブで歌ってきた曲です。
KENTAは熊本の県花であるりんどうを、群れずに咲く花として捉え、一人ひとりで生きる観客に重ねました。
故郷で待つ仲間も、ライブに来たくても来られない人もいる。
まず現場で歌いたいと思った曲を、ようやくアルバムへ収められたことは、本人にとって大きな一歩でした。

小さな子から年上の人までが一緒に歌う曲でありながら、向き合っているのは、それぞれの生活です。
同年のCINRAの取材では、ただ元気な歌を歌う三人組と受け取られることへのもどかしさも話しています。
苦しんでいる人のそばに長くいたいのに、その思いまで伝わらない。
だから、従来のイメージに収まらない曲も作ろうとしていました。

この変化には、昔の自分自身も関わっています。
KENTAは歌うたびに少年時代や天草の景色を思い出し、皆で歌うことで過去を乗り越えていける感覚があると語りました。
自分を救ってきた歌を、今苦しい場所にいる誰かへも渡したい。
歌い継いでいく曲を考えるとき、客席に見える反応だけでは測れないものが、すでに中心にありました。

WANIMAのKENTA
2019年の取材に応じるKENTA。
写真出典:音楽ナタリーの2019年取材

2023年――作り方を変え、自分の歌を冷静に聴く時間を作る

『Catch Up』では、制作の進め方そのものを変えています。
それまでは三人が集まって音を出すことが多かったのに対し、今回はKENTAとKO-SHINが先に曲を固め、そこへFUJIが入る形を取りました。
歌詞や旋律を作る段階から、何を目指す曲なのかを見定め、期限も設けて進めていきます。

KENTAは、その結果、以前は余裕がなくて気づかなかったことに向き合い、準備したり、冷静に聴いたりできたと話しています。
FUJIも、方法が変わって生まれた時間で、自分に足りない部分を確かめられたと振り返りました。
勢いよく音を合わせる前に、一曲の中身を考える時間が増えたのです。

このバンド作品と並行して録っていたのが、翌2024年に出る『1Time』でした。
KENTAは、バンドの録音とアコースティックの録音を切り替える集中力が、大きな課題だったと語っています。
一方を終えて気分転換に始めた企画ではなく、違う条件で同じWANIMAの歌を作り続けていました。

『1Time』――今の自分が歌えるキーで、昔の言葉を近くへ

KENTAは、島で育った自分の中には、ゆったりした民謡も流れていると話しています。
アコースティックに親しみはあっても、若い頃は自分が調子よく歌えるキーや声色を、客観的に把握できなかったそうです。
『1Time』では、いつでも心地よく歌え、聴き手にも届きやすいことを考えて曲を作り直しました。

本人によると、もともとはそれくらいのキーだったのに、技術が足りず高いキーに寄りがちだった時期がありました。
その中で高音は鍛えられた一方、今回は低い声の出し方や鳴らし方も、さらに身につけたいと思ったそうです。
高音を強くすることに加え、曲全体の言葉をどの声で渡すかが、選び直す対象になりました。

再録の出発点になった「HOME」は、2014年のデビュー作品に入っていた曲です。
東京へ来て最初に住んだ場所で作ったことを、KENTAはよく覚えていました。
録り直すと、当時の部屋の間取りまで思い出したそうです。

「HOME」2014年『Can Not Behaved!!』収録。
権利者提供の公式音源。

KO-SHINのギターを聴きながら歌い、曲をもう一度組み立てる。
そうして戻れた当時の気持ちに、今なら伝えられるニュアンスを重ねようとしました。
KO-SHINも、余計なことを足すより、歌詞を簡潔に届けることを考えたと説明しています。
歌い手だけでなく、伴奏も言葉の聞こえ方を見直していました。

「HOME(2024 ver.)」2024年『1Time』収録の再録版。
公式映像。

「Hey yo…」では、旧音源に入っていなかった冒頭の部分を加えています。
ライブだけで歌ってきた箇所を、いつか録音にも残したいという思いがあったそうです。
過去の音源へ戻すのではなく、その後のステージで育てた歌も、2024年の形として収めました。

「Hey yo…(2024 ver.)」2024年、権利者提供の公式音源。

KENTAが以前から届けたかったのは、息継ぎや、言葉のわずかな違いまで含んだ歌でした。
録音ではうまく出せないことが多かったものを、この作品では試せるようになり、少しずつ表せていると感じていました。
本人は、今後もライブや自分の成長に伴って、歌いたいことは変わると話しています。
完成した再録も、曲の最後の姿ではありませんでした。

『1Time』の新曲「Feel」にも、それまでの時間が入っています。
人と会えなかったコロナ禍に作り、ラジオなどで歌ってきた曲でした。
古い曲だけを並べるのではなく、離れて過ごした時間に生まれた歌も、同じ作品へ置いたのです。

2024年「Do Gang」――ベースを置いて歌う選択も

歌の選択肢は、静かな編成だけに広がったのではありません。
同年末の『Sorry Not Sorry』に入る「Do Gang」では、好きなヒップホップやレゲエを土台に、トラックへラップを乗せる感覚で作りました。
皆で歌える箇所に加え、自分がベースを置き、歌に集中できる箇所も欲しかったと話しています。
ベースボーカルという立ち位置の中にも、別の自由を作ろうとしていました。

ただ、口に心地よい曲を目指したのに、難しくしすぎたとも振り返っています。
言葉を詰め込む癖があるため、これからは間や余白も大事にしたい。
2016年の「ともに」でも向き合っていた、言葉の多さと届き方の関係は、形を変えて続く課題でした。
一つの歌い方を完成させるより、曲を作るたびに自分の加減を確かめています。

2026年――強く押すだけでなく、ひと息つける歌を

『Excuse Error』を作る時期には、自分の状態を受け入れることも課題になりました。
KENTAは2026年の取材で、手術後に約一カ月動けない時期があり、それまでできたことができない焦りもあったと明かしています。
活動を自分たちで進める中で見えてきた現実にも向き合い、すぐに気持ちを爆発させず、少し離れて考えるようにしたそうです。

「十分だった」については、何をしてもうまくいかないときに、聴く人がひと息つける曲にしたかったと話しました。
何かを乗り越えた結論だけでなく、その途中にいる自分を受け止める歌も作れるようになったのです。
本人は、この作品でボーカルとしての成長も見せられたと感じていました。

「十分だった」2026年、公式映像〈Documentary Film〉。

同作には「inside」も入っています。
KENTAは、各時期に感じたことや、できることとできないことに向き合ってきたから、今の変化をつけられるのだと語りました。
何を歌えるかに加え、今の自分が何を歌いたいかを、その時々で確かめてきたのです。

「ともに」で安易な励ましを避けたことも、「りんどう」で会場の外の人を思ったことも、言葉をきちんと渡したいという姿勢につながっています。
そのために、キーを選び直し、ライブで育てた歌を録り直し、時には言葉の間も残そうとする。
KENTAは歌う力を増やすとともに、その力をどこへ向けるかも変えてきました。
一曲の高音やリズム、ベースとの関係は、KENTAの歌い方で掘り下げています。

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