松村北斗の歌唱変遷|下ハモで支える低音から、自分の内面を歌うソロへ

『1ST』特設サイト掲載の松村北斗(2021年の作品紹介) シンガー
『1ST』特設サイト掲載の松村北斗(2021年の作品紹介)

松村北斗の歌をたどると、声の低さと同じくらい、その声を置く場所が変わってきたことが気になります。
SixTONESの重なった歌声を下から支える役割。
そこから、一人で言葉を届けるフレーズや、自分自身を描いたソロ曲へと、聴き手に見える表情が広がっています。

その過程には、歌う機会が増えて低音が安定したという本人の手応えもあれば、もともと持っていた高音を作り手が引き出した出来事もあります。
「低い声の人が高い声を出すようになった」とまとめず、どんな曲が、どんな選択を求めたのかを追ってみます。

2020年――一人で下ハモを受け持つ難しさ

2020年1月のデビュー曲「Imitation Rain」で、松村が担った重要な役割が下ハモでした。
松村はデビュー直前、ほかの5人が主旋律を歌い、自分だけが下のハーモニーを歌う配置もあると説明しています。
京本大我が上ハモに回る場合にも、松村は下の声を受け持つ。
最初から、6人の響きの組み合わせを成立させる位置にいたわけです。

大勢が同じ旋律を歌うところで、一人だけ別の音を保つ。
下ハモの難しさは、低い音を出せることだけでは解決しません。
自分の旋律を見失わず、ほかの声と重なったときの響きを作る必要があります。
この役割を知ると、主旋律を追っていた耳を、声の重なりの下側にも向けたくなります。

デビューから半年ほど経つと、松村自身にも変化の手応えがありました。
自分のパートと歌う機会が増えたことで、低音を安定して出せるようになったというのです。
本人が挙げた理由は、実際に歌う場面の増加でした。
声質を褒める言葉とは違い、活動の中で何が扱いやすくなったのかを示す、大切な手応えです。

同年の「NEW ERA」では、本人の説明も変わります。
メンバーごとの声が生きるソロの歌割り、急に切り替わる展開、ロックらしく攻める歌い方を聴きどころとして挙げました。
ハーモニーの一部を保つことに加え、短い持ち場で曲の勢いを引き受けること。
デビューした年のうちに、声に求められる仕事はすでに複数あったのです。

2021~2022年――前に出る声と、柔らかく始める声

2021年の「僕が僕じゃないみたいだ」は、その変化を考えるうえで外せない曲です。
松村の歌い出しが曲の感情を示し、そこからほかのメンバーへ歌い継いでいきます。
下から支える低音だけを探していると、主旋律の言葉を受け渡す松村の役割を見落としてしまいます。

「Dramatic Rearrange」という別アレンジのパフォーマンスでも、歌い始めるのは松村です。
ほかの声へとつながる前に、まず一人で旋律の入口を作っています。
原曲とアレンジの異なる版は、伴奏や声の見え方も違います。
その違いを、そのまま本人の声の成長と置き換えないことも大切でしょう。

ボイストレーナーの才雅も、『CITY』に収めた「Papercut」や「真っ赤な嘘」の低音と、高音での地声からファルセットへの滑らかな切り替えに触れています。
2022年の時点で、低音と高音の両方が松村の特徴として語られていたことになります。

「真っ赤な嘘」を含む『CITY』ユニット曲MVダイジェスト(2021年公開)。

2022年の「わたし」になると、松村自身がもっと細かな選択を明かします。
歌い出しを少しファルセット寄りにしたというのです。
ここでは、どのパートを受け持つかに加えて、その一節をどんな声で始めるかまでが本人のこだわりになっています。

歌い始めには、曲の感情へ聴き手を迎える役割があります。
そこを柔らかな声にする選択は、低音の厚さを最初から押し出す場合とは違う入口を作ります。
「声が高くなった」という一方向の説明より、同じ歌手の中で使える入口が増えてきたと考えると、この時期の広がりが伝わります。

2023年――「ガラス花」が、声の幅を一曲の中に収めた

2023年8月発売の「CREAK」では、デビュー後初となるメンバーそれぞれのソロ曲が収録されました。
松村の曲は「ガラス花」。
本人が憧れていたアイナ・ジ・エンドに制作を依頼し、打ち合わせや映画『キリエのうた』での共演を経て形になった作品です。

松村北斗(左)と岩井俊二監督。『キリエのうた』取材時(2023年掲載)
松村北斗(左)と岩井俊二監督。『キリエのうた』取材時(2023年掲載)。
画像出典:画像掲載元

ソロでは、誰かに歌い継ぐまでの数小節だけでなく、一曲の流れを自分の声で受け持ちます。
低音の印象が強い歌手の曲なら、その持ち味を中心に組み立てる方法もあるでしょう。
ところがアイナは、松村のさまざまな歌唱資料を確かめ、低い声と高い声の両方が入るようにメロディーを作ったと説明しています。

作り手が、既存の歌声から可能性を見いだす。
グループの中で分かれて見えていた声の表情が、ソロでは一曲の中でつながる機会になりました。

「ガラス花」には、歌に加えて身体表現を用いた公式パフォーマンスもあります。
振り付けを担当したアイナは、力強く決まるところだけでなく、動きに残る余韻に松村らしさを見いだしたと語っています。
歌声と踊りを同じ技術として説明することはできませんが、このソロが、一人の表現者として一曲を担う場だったことはわかります。
声の幅を聴き、動きの余韻を見るという、作品全体への入口が生まれました。

2025年――「憧憬のアーチ」で、歌いたい世界を選ぶ

次のソロ曲「憧憬のアーチ」は、2025年6月発売の「BOYZ」初回盤Aに収録されました。
作詞・作曲を手がけたのは菅田将暉と西田修大です。
この組み合わせは、曲を渡された後に合わせたというだけでは説明できません。

依頼のきっかけは、松村が以前から抱いていた願いでした。
普段から菅田の曲を好み、いつか自分のことを書いてほしいと考えていたこと。
そして、自分が今やりたいことや好きな世界観が、菅田と西田の作る曲にあったこと。
歌う以前の段階から、どんな音楽の中に立ちたいかを選んだソロでした。

松村北斗(左)と新井和輝。2025年6月のJ-WAVE対談記事掲載写真
松村北斗(左)と新井和輝。2025年6月のJ-WAVE対談記事掲載写真。
画像出典:画像掲載元

この曲では、素朴な低音の質感が、アカペラの場面で際立ちます。
終盤には菅田の声も加わります。
一人の声がそのまま露出する場面を経て、別の声とのやり取りへ進む。
初期の下ハモではほかの声を支えていた松村が、ここでは自分を描いた歌の中心に立ち、相手の声を迎えています。

下ハモで培った安定感から、柔らかな歌い出し、声の幅を使うソロ、望む作家との制作へ。
年月ごとに声質が別物になったと考えるより、持っている声をどこで、何のために使うかが広がったと捉えるほうが、この歩みには似合います。

「憧憬のアーチ」MV短縮版(2025年)。

原点の静かなパートも、今の松村北斗につながっている

2026年、松村は「Imitation Rain」を振り返り、デビュー曲に不安や期待などの感情が詰まっており、それが静かなパートにも生きていると話しています。
ソロで表現が広がった後も、原点を語る言葉は、声の大きさや派手さだけに向かっていません。
静かな部分に何が入っているかを、本人が大事にしているのです。

松村の変遷を楽しむなら、初期を未完成、近年を完成と分ける必要はないでしょう。
6人のハーモニーを成立させる声と、一人の内面を表す声では、担っているものが違います。
その両方を持っていることが、松村北斗という歌い手の輪郭をはっきりさせています。

低音やファルセットを曲の中でどう選ぶかは、松村北斗の歌い方でも掘り下げています。

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