デヴィッド・ボウイの歌い方|低い声、高い声、語り声をどう使い分けるのか

デヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真 シンガー
デヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真

デヴィッド・ボウイの歌声を、低く響く声だけで説明するのは難しいところです。
高い声や裏声を求めた時期があり、強く張る声と、話す言葉を重ねる表現もあります。
特徴は一つの声色の美しさだけでなく、曲に応じて声の役割を変えられるところにあります。

その選択を知るには、本人や録音に立ち会った人が、何を目指し、どの歌を残したと話しているかが手掛かりになります。
高低、声の強さ、言葉の表情、重ね方。
それぞれが異なる働きをする曲を見ていきましょう。

低音と高音を、別の人物のように使う

『Young Americans』の制作に参加したカルロス・アロマーは、ボウイが低い声からファルセットまで使い、アクセントや抑揚も変えていたことを説明しています。
本人も、この作品では高い声や大きく動く裏声を求めていたと振り返りました。
声の高さも積極的に選んでいました。

高低の違いを表情として考えるなら、「Golden Years」が具体的な手掛かりになります。
高い音と低い音の対照に加え、冒頭の誘いかけるような言葉が、後には違う表情になる点にも注目できます。
声域の広さを披露するだけでなく、同じ言葉をどんな態度で相手に渡すかが変わるという見方です。

低い声なら落ち着き、高い声なら興奮、と最初から一対一で決める必要はありません。
どちらの高さでも、言葉を柔らかく差し出すのか、強く迫るのかで役割は変わります。
ボウイの声の使い分けを考えるときは、音の高さと、言葉に持たせる表情を一緒に見ることが大切です。

声を強くすることと、響きが広がること

「Heroes」では、高低の置き方も試していました。
トニー・ヴィスコンティによると、何度か歌ってみた後、最初の二つの節を低く、その後を1オクターブ上で歌うことにしたそうです。
高い部分では声域の端まで使うため、力を注いで音へ届かせる歌になりました。

さらに、離れた位置のマイクが大きな声に反応し、部屋の響きも録音に加わる仕組みがありました。
ヴィスコンティは、最初の部分の近くで歌いかけるような音と、後の広がりを対照として説明しています。
声の強さと、録音による空間の大きさが、一緒に動いていたのです。

低く抑えた声との距離があるから、高い声へ進んだときの変化に意味が生まれます。
高さ、強さ、空間の広がりを組み合わせ、曲を展開させた歌唱と考えられます。

1977年の楽曲。
MVは短縮版。

デヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真
デヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真。
画像出典:画像掲載元

話す声を混ぜて、言葉の輪郭を変える

「Ashes to Ashes」で使われたのは、歌と同じ言葉を話して録り、その声を重ねる方法でした。
ヴィスコンティは、話す声を3回録って重ねたため、つぶやきのような質感が生まれたと説明しています。
個々の録音では言葉が明瞭でも、重なったときの印象は変わるのです。

声を重ねた結果まで、表現として選んでいました。

初期のプロデューサー、マイク・ヴァーノンも、半ば話すような歌と演劇性を振り返っています。
言葉を人物の声として発することが、時期を隔てた作品を考える手掛かりになります。

大きな感情を、滑らかな歌だけに収めない

「Five Years」の終盤について、共同制作者のケン・スコットは、涙を流しながら声を上げるボウイを記憶しています。
スコットが大切にしたのは、歌から直接伝わる感情でした。

一方、同じ感情の強さでも、常に声を荒くする必要はありません。
『Station to Station』の「Word on a Wing」は、ピアノを軸に進むバラードです。
祈りに近い言葉を歌う切実さにも、感情の強さを見いだせます。
一方の「Stay」では、複数の歌い方を使い分けています。
一枚の作品の中でも、感情の置き方は一種類ではありません。

ボウイの表現をまとめて「芝居がかった歌」と呼ぶと、何をしているかが曖昧になります。
言葉を話すように届けることと、感情の高まりに合わせて声を上げることは、別の選択です。
曲ごとにその役割を分けると、抑えた歌も強い歌も、同じ人の表現として捉えやすくなります。

自分が演じる人物のために歌う

1987年、本人は自分を非常に優れた歌手としては位置付けず、歌を解釈して演じることを自分の強みとして話しています。
歌手としての自己評価と、表現者として何ができるかという認識を、分けて持っていたのです。

その説明は、曲を書くときの話へ続きます。
他の歌手の気分や目指すことをつかんで書ける一方、自分自身のためには書きにくい。
そこでジギー・スターダストという人物を作ると、その人物へ向けて曲を書きやすくなったと話しました。
自分が歌う場合にも、誰の歌なのかを定めることが助けになっていたのです。

この発言を踏まえると、声色の変化は、違う声を出せるという能力と、どんな人物として言葉を届けるかという解釈が結びついたものとして見えてきます。
高い音へ進むことも、語り声を重ねることも、その曲に必要な人物や感情を作る選択として考えられます。

鏡に映るデヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真
鏡に映るデヴィッド・ボウイ。Observerの2016年掲載写真。
画像出典:画像掲載元

晩年にも、声は演奏者の反応を引き出していた

『Blackstar』の録音に参加したドニー・マッキャスリンは、ボウイの歌を聴きながら演奏し、その情熱や存在感に刺激を受けたと話しています。
曲の形が分かるデモは用意されていましたが、現場では歌と楽器が応答し合う余地がありました。
歌は完成した伴奏の上に付けるもの、という順序だけでは説明できない関係です。

ベーシストのティム・ルフェーヴルは「Dollar Days」を、スタジオで教わりながら形にした曲として挙げています。
準備された曲も、その場で取り組む曲もある中で、歌声は演奏者が曲を理解する手掛かりになっていました。
これは現場でのやり取りについての証言であり、その歌がそのまま完成盤にすべて使われたという意味ではありません。

ボウイの声の魅力を考えるとき、何歳でどこまで高く歌えたかだけでは、こうした働きが見えなくなります。
言葉をどんな人物の声で届けるか、どこで強さを変えるか、共演者へ何を返すか。
発声は、そうした曲の中での選択と結びついていました。
その選択が時期によってどう変わったかは、デヴィッド・ボウイの歌唱変遷で詳しくたどっています。

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