大勢のファンと歌い、曲の合間には自分から客席をあおる。
白上フブキのそんな姿には、歌の仕事を断ってほしいと運営に頼んでいた頃があります。
歌が好きであることと、人に歌を届ける自信があることは、同じではありませんでした。
その距離を縮めたのは、聴いてくれる人の反応でした。
やがて歌の中には、配信で見せる親しみやすさに加え、クールな表情や、言葉にしきれない思いも入っていきます。
歌へのためらいを抱えながら、どのように自分の声を使う場面を広げてきたのでしょうか。
歌を避けていた時期と、2019年のソロイベント
2018年6月に活動を始めたフブキは、もともと歌を主な目的にホロライブへ入ったわけではありません。
本人は後年、ゲーム配信を楽しく続けたいという思いを振り返っています。
初期の活動は、出来上がったアイドル像に沿って進むというより、運営や仲間とできることを探していくものでした。
歌への抵抗が和らいだきっかけは、配信で歌ったときに寄せられた好意的な反応でした。
2019年11月の初ソロイベントでは、苦手意識を減らすために歌を多く入れ、好きなアニメの曲などを選んでいます。
不安がなくなるのを待つだけでなく、好きな曲を人前で歌う機会を自分から作ったのです。

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このイベントでは「シュガーソングとビターステップ」に合わせて踊り、観客と声を交わす場面がありました。
アンコールで初披露したのが、ハムの手がけた「Say!ファンファーレ!」です。
歌うことへの不安を語っていた時期にも、客席と一緒に楽しむ姿はすでにありました。
後のライブを特徴づける交流は、大きな会場へ進んでから突然生まれたものではありません。
「Butter-Fly」では、事前に一緒に歌ってほしいと呼びかけたサビを、観客の声が支えました。
また、好きなキャラクターの曲「あんずのうた」では、歌の合間のセリフもかわいらしく演じています。
初期の持ち味には、曲の世界へ入る楽しさと、人を誘う楽しさの両方がありました。
その頃からできていたことを踏まえると、後の変化は、表現する気持ちや曲の幅が広がったこととして捉えられます。
画面越しでも、歌を一人で終わらせない
2020年の「hololive 2nd fes. Beyond the Stage」でも、「Say!ファンファーレ!」では観客役を務めるメンバーと声を交わし、場を引っ張りました。
自分が歌い切ることに加えて、周りの声を呼び込むことも、ステージでの役割になっていきました。
歌と呼びかけが行き来する曲は、配信者としての身近な存在感をライブにつなぐ場所にもなります。
2021年の1期生ライブが完全オンライン開催になった際、本人は会場で観客の声を聴きたかったと語りました。
それでも、コメントを通じて気持ちは届くと考え、画面の向こうへ積極的に声をかけるつもりだと話しています。
客席の声がその場で返ってこなくても、歌の届け先を見失わない。
この姿勢は、後の大合唱へつながる土台として見ることができます。
2022〜2023年、かわいさの中に増えていく表情
2022年の「KINGWORLD」では、好きな作家であるsasakure.UKに、バーチャルの世界を曲で表したいと依頼しました。
自由な世界を歌にするこの曲には、多彩な声でその世界を見せる楽しさもあります。
単に自分を紹介するだけでなく、自分が活動する世界を、歌の中でどう見せるかという広がりが生まれました。
同年の「KONKON Beats」は、狐というモチーフを軽快なバンドサウンドに重ねた曲です。
強く励ますというより、少し離れた場所から気楽に話しかけてくれるようにも感じられます。
明るさの中にも、全力で盛り上げる声と、肩の力を抜かせる親しみやすさがある。
フブキらしい軽さは、曲ごとに違う働きをするようになります。
百鬼あやめ、大神ミオとのユニット、いろはにほへっと あやふぶみでも表現は広がりました。
2023年のEP「可惜夜歌集」では、「椿」で一緒に歌う部分を減らし、3人それぞれの声が立つ構成を採用。
「正体」では、明るさに切迫した歌い回しが混ざります。
自分一人のキャラクターを押し出す歌とは違う、他の声と並んだときの表情も育っていきました。
「僕らの星座」で知った、自分の感情を前に出す歌
2024年11月に発表した「僕らの星座」は、フブキの王国「FBKINGDOM」の国歌に当たる曲です。
一人で完成させる歌ではなく、ファンと一緒に歌うことを作品の中核に置きました。
ライブで観客に声をかけてきた姿勢が、ここでは楽曲そのものの役割になっています。
Revoとの録音では、緊張から感情を出しきれなかったフブキに、自分の思いを歌へ込める方向づけが行われました。
本人はこの経験を通じ、自分をもっと表に出してよいのだと知ったと振り返っています。
求められたのは、作家の想像に合わせることだけでなく、本人だから持っている気持ちでした。
初期には歌うこと自体にためらいがありました。
ここでは、歌の中へ自分の気持ちをどう出すかが、新たな課題になっています。
2025年、同じステージで見せた声の幅
2025年2月13日、ぴあアリーナMMで1stソロライブ「FBKINGDOM “ANTHEM”」を開催。
2019年の初ソロイベントを経て、今度はこの名を冠した単独ライブに臨みました。
冒頭の「Say!ファンファーレ!」から、歌の流れの中へ客席への呼びかけを入れています。
初期からの交流が、大きな会場でも歌を動かしていました。

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一方、声の表情はひとつに留まりません。
「閃光のように」の中低音のまっすぐな声と、かわいらしい曲での明るい声には、それぞれ違う魅力があります。
「グローエンブレイス」には、透明感や広がりを感じさせる表情もあります。
親しみやすい声を知る人が、同じ公演の中で別の表情に出会える構成でした。
2025年2月13日公演の公式無料公開部分。
「ストーリーテラー」では静かな歌い出しから熱を増し、「僕らの星座」では会場の声と合流する。
大きな声を出し続けるのではなく、曲ごとに感情の運び方を変えていました。
初期からあった呼びかける楽しさに、静かに思いを渡す場面が加わったことで、ライブの中に緩急が生まれています。
迷いも残したまま、歌で描く世界を広げる
ただし、ここまで来れば歌への不安が消えた、という話ではありません。
2025年、フブキは大神ミオに、良い曲に自分の歌が見合っているか迷うことを明かしています。
ファンが好きだと言ってくれる声と、自分が十分だと思える歌との間には、なお距離がある。
その率直さも、歌を続ける本人の現在地です。
このときには、自分の作るキャラクターの世界を歌で広げる構想も語りました。
その後も、2025年の「冥界Halloween Night!」、2026年の「FOXXXROOM」と、FBKINGDOMに連なる作品が続きます。
新曲が出るたびに発声が変わったとは言えませんが、歌に託す世界はさらに広がっています。
フブキの歩みは、歌の自信だけを積み上げてきた道ではありません。
聴いてくれる人に背中を押され、曲ごとに違う表情を試し、自分の気持ちを歌へ持ち込んできた道です。
その表情を声の選び方から見ると、白上フブキの歌い方にある、親しみやすさとクールさの往復が見えてきます。

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