高音が得意なときのそらは、2025年の「Dancing Reed」で、あえて低めのキーを選びました。
歌いやすさよりも、その曲に必要な雰囲気を優先したのです。
2019年のメジャーデビュー前後から『Pulse』までを振り返ると、高音の安定、歌の勢い、柔らかさが、それぞれ違う時期の課題として現れます。
どのような経験を通して、声の選択肢を増やしてきたのでしょうか。
再録で生まれた、高い音の先を考える余裕
2017年に活動を始めた、ホロライブのバーチャルアイドル、ときのそら。
2019年3月には、アルバム『Dreaming!』でメジャーデビューしました。
配信やカバー動画で歌を届けてきた彼女にとって、初期の変化を具体的に振り返る曲が「夢色アスタリスク」です。
ファンから届いたこの曲は、アルバムに収める際に歌い直されています。
「夢色アスタリスク」初期公開版(2018年)。
本人によると、約1年前の録音では、高い音を出すことに精いっぱいでした。
再録ではその音を安定させられるようになり、高い箇所にも表情を付けられたといいます。
同じメロディーに取り組みながら、課題が音の高さから、その高さでどう表現するかへ移ったわけです。
その背景にあったのは、高音だけを狙った練習ではありませんでした。
「太陽系デスコ」の高音を出したいと先生に相談し、基礎的な発声や滑舌に取り組んだ結果、本人は高音の出しやすさが変わったと振り返っています。
「夢色アスタリスク」は伴奏も変わっており、再録で本人が感じた余裕の変化として捉えたいところです。
「夢色アスタリスク(Dreaming! ver.)」再録版(2019年)。
きれいに歌うことと、会場の楽しさを伝えること
歌える範囲を広げる動機には、ファンからの声もありました。
2019年秋、そらはそれまで選ぶことの多かった可愛い曲や高音を生かせる曲に加え、かっこいい歌を求めるリクエストにも応えたいと話しています。
「ヒバナ」や「ロストワンの号哭」は、その流れで取り組んだ曲でした。
近くで活動を支えていた友人Aも、そらが歌に余裕を持ち、自分でライブの盛り上げ方を考えるようになったと語っています。
本人も初のワンマンライブ『Dream!』を前に、どう声をかければ観客が楽しめるかを具体的に考えていました。
得意な歌を披露するところから、観客の反応を含めて歌を届けるところへ、関心が広がっていた時期です。
高音に余裕ができた後も、録音で何を大切にするかは変わっていきます。
2020年の『ON STAGE!』では、ライブで映える曲を作りたいという意識がありました。
「空祭り」の収録では、客席から返ってくる声を想像し、自分から会場を盛り上げる気持ちで歌ったと話しています。
曲を正しく歌う作業の中に、目の前にまだいない観客とのやり取りが入ってきたのです。
一方、歌とダンスを別々に収録するMVと、踊りながら次の曲まで歌い続けるライブでは条件が違います。
当時の本人も、その違いを踏まえてライブに向けた体力づくりを課題にしていました。
録音でできたことが、そのままステージでできるとは限らないという認識です。
2021年のカバーアルバム『Re:Play』では、初期に歌っていた「エイリアンエイリアン」を改めて録音しました。
本人は、以前は高い声を出せても、きれいに聴かせようとして優しい表現になっていたと振り返っています。
歌い直す際には、アップテンポな曲の楽しさを、以前より力のある声で伝えることを目指しました。
「エイリアンエイリアン」初期公開版(2019年)。
再録では編曲も大きく変わっており、声だけを切り出した比較ではありません。
本人は、高さとともに、曲の楽しさを表す声の勢いを求めていました。
「エイリアンエイリアン」『Re:Play』再録版(2021年)。
元気な歌を重ねた先で、バラードを選び直す

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2022年の『Sign』には、多彩な作家による楽曲が集まりました。
本人は、高音の多さについて、低い部分を歌う難しさからキーを上げた曲もあると説明しています。
高音は得意さの表れであると同時に、曲全体を自分の声に合わせた結果でもあったのです。
「ピッとして!マーマレード」は、田淵智也から届いた、起伏の大きな楽曲でした。
そら自身も高いと驚きながら、期待に応えたいと取り組んだ曲です。
その一方で、当時のそらはバラードのほうが思うような表現をしやすいとも語っていました。
得意な高音を使う明るい歌と、落ち着いて表現したい気持ちは、並行して存在していました。
その気持ちを作品の中心へ置いたのが、2023年のEP『Beyond』です。
本人はもともとバラードを好んでいたものの、ファンは元気なアイドルソングを求めているのではないかと考え、歌うことにためらいがあったといいます。
歌配信で時折披露したバラードが受け入れられたことで、選べる曲の幅が広がっていきました。

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制作の動機は、ライブの終わり方とも結び付いています。
にぎやかに終えるだけでなく、静かに締めくくれる曲が欲しかったのです。
明るさや一体感を大切にしてきた歌手が、客席に残す余韻まで考えてバラードを選ぶ。
『Beyond』は、それまで育ててきた歌の使い道を広げる作品といえます。
柔らかく歌うために、得意な出し方から離れる
2024年の『STAR STAR☆T』では、選曲の段階から全曲に自分の意見を伝えるようになりました。
どんな作品を作りたいかを言葉にする余裕が生まれたと、本人は振り返っています。
歌唱に先立つ、制作への関わり方も変わっていたのです。
同年の「おかえりなさい」は、テレビアニメ『僕の妻は感情がない』のオープニング主題歌でした。
翌年の『Pulse』発売時、そらは、この曲で新しい歌い方へ踏み出したと振り返っています。
自分の持ち味を示すことに加え、作品のために歌い方を変えることが、新たな課題になりました。
収録では、普段の力強さを抑えた歌い方を求められています。
本人は、声に力が入りやすい高めのキーを下げてもらい、柔らかな表現を探りました。
『Pulse』には、7周年の「ラッキーセブンスホイッスル」も収録されています。
そらは、少し前の自分も含まれた作品になったと説明しています。
新しい方向を探す中にも、以前の持ち味が残っていました。
『Pulse』で、低い声も表現の選択肢にする
冒頭で触れた「Dancing Reed」は、ドラマ『グラぱらっ!』の主題歌です。
キーを上げる相談もしましたが、ドラマの大人びた世界観を大切にし、その高さで自分らしさを表すことに挑みました。
本人によると、低音にも練習が必要で、デビュー当時なら出せなかったと感じる高さでした。
初期に高音で育てた表現の余裕を、今度は低音でも求める試みです。
何のためにその声を使うかという選択が、挑戦する音域を変えているのです。
得意な声を、曲に合わせて選べるように
2026年には活動9周年を迎え、11月4日発売予定のEP『CHECK!』も発表されています。
初回限定盤には『Pulse』の曲を含むアコースティックアレンジが収録予定ですが、発売前の作品をもとに歌声の変化までは判断できません。
ここまでの歩みで見えてくるのは、声を強くするだけでは進まなかった変化です。
再録で表現の余裕を確かめ、会場の楽しさを録音へ持ち込み、静かな歌や低いキーにも取り組む。
それぞれの選択には、曲や聴き手に何を届けたいかという理由がありました。
現在の歌唱を考える際にも、高音の印象だけで全曲をまとめないことが大切です。
強弱や息、言葉の扱いを曲ごとに整理したときのそらの歌い方では、その使い分けを詳しく取り上げています。

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