湘南乃風のHAN-KUNといえば、勢いのある曲でも存在感を放つ高い声。
ところがカバー制作では、力を抜いて歌うために、自分からキーを低めに設定したことがあります。
声の高さを目立たせる歌手が、なぜそこを控える選択をしたのでしょうか。
ソロの歩みをたどると、速い言葉や即興で自分を示す姿勢に、歌詞を待つ時間や、語りかける距離感が加わっていきます。
その変化を作ったのは、ジャマイカでの制作、J-POPのカバー、そして歌う場所との関係でした。
2008年、自分一人の声でいろいろなリズムに向き合う
2003年に湘南乃風の一員としてデビューし、2008年には初のソロアルバム『VOICE MAGICIAN』を発表。
グループで名前を知った人が、今度は一人の歌をまとまった作品で受け取れるようになりました。
高音の担当という印象から、本人がどんな音楽を歌いたいのかへ、視線を移せる出発点です。
初作についてHAN-KUNは、レゲエの歌い手として自分の立ち位置を示す作品だったと当時説明しています。
共演者との掛け合いを入れず、多様なリズムを自分で乗りこなすことに挑戦しました。
音に反応して歌詞と節回しを作り、録音にもライブの感触を持ち込む。
一人で歌うからこそ、声がリズムにどう応じるかが作品の柱になったのです。

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この初作には、以前からステージで歌っていた「T.R.Y.」も収録されました。
古い歌詞を書き直す考えもありましたが、当時の思いを現在の自分で歌うことを選んでいます。
初めから関心は、巧みな言葉を新しく足すことだけに向いていたわけではありません。
過去の言葉をいまの声でどう届けるかという課題も、ソロの始まりにありました。
2016年、変わらなければという重さを下ろした
2016年の『Island Vibes』では、制作に向かう気持ちが変わります。
半年間のニューヨーク滞在を決めた当初、HAN-KUNは成果を持ち帰らなければと自分を追い込んでいました。
転機になったのは、その間に訪れたトリニダード・トバゴ。
音楽を純粋に楽しむ感覚を取り戻し、無理に新しさを探すより、好きな音楽に向かおうと考えたのです。
その結果、レゲエのリズムや和音に身を任せ、自然に出てきた節回しと言葉を曲にしました。
本人が語った制作過程から見えてくるのは、周囲の期待を先回りして形を作る姿勢から、自分の反応を歌に残す方向への移動です。
タイトル曲「Island Vibes」を含むこの作品は、力を証明しようとする緊張を解いて歌を作った、一つの節目になっています。
2019年、J-POPのカバーで「歌わない時間」を知る
初のカバー集『Musical Ambassador』へ進むまでには、J-POPをどう受け止めるかという葛藤もありました。
HAN-KUNは「純恋歌」で広く知られた時期、自分の望むレゲエとの距離に悩んだと振り返っています。
ソロでこだわりを追い、グループの曲を喜ぶ人に接するうちに、その曲たちへの感謝が強くなった。
2019年のカバー挑戦には、そうした気持ちの変化が重なっています。
実際に他人の歌を歌うと、自作で磨いてきた技術とは別の課題が現れました。
HAN-KUNは、韻を踏み、速い言葉で空間を埋めて技量を示すことが多かったと話しています。
一方、名曲のカバーには、一行を受け止めてから次へ進める余白がある。
その時間があるからこそ、歌詞が人の中に残るのだと気付いたのです。
声を出していない時間まで、歌として考える変化です。
2019年の本人の説明では、並行して作ったオリジナル曲にも影響したといいます。
カバーは、自分の歌を組み立て直す機会でもありました。

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さらに、カバー集のためのライブでは、普段なら盛り込むフリースタイルを控え、一曲ずつ歌い切る方針を立てました。
その場のひらめきで歌詞を変える得意技も、今回は使わない。
原曲への敬意を、アドリブを加えることではなく、その歌に向き合うことで表そうとしたのです。
これは公演前に語った方針ですが、即興の自由さを武器とする人が、歌によって自由の使い方を変えた点が印象に残ります。
「あなたに」(2019年・MV短縮版)
2020〜2021年、会場を沸かせる声と、生活の中へ届く声
ライブが難しくなった時期には、作品を聴く場所そのものが変わりました。
2020年の『UNCHAINED』は、家や車で聴く時間を考え、あえてライブを前提にしない作品として制作。
いつものように勢いよく開幕させず、「Red Alert」から、その時代の葛藤を歌い始めました。
会場の反応を想定して歌を並べる方法から、一人で聴く時間へ向かう選択です。
続く2021年のカバー集『Musical Ambassador II ~Juke Box Man~』では、女性シンガーの曲にも取り組みます。
本人は低めのキーで力を抜き、語りかける歌い方を選びました。
レゲエのくつろいだ雰囲気を届けるための判断です。
この作品には、竹内まりやの「元気を出して」、杏里の「オリビアを聴きながら」、一青窈の「ハナミズキ」などを収録。
1970年代から近年までの曲を扱い、親しんできた時代の異なる人にも届く選曲になりました。
自分を知る客席に向かう歌から、名曲を通して初めて出会う人への歌へ。
その広がりに、肩の力を抜く選択が重なります。
「元気を出して」(2021年・リモートセッション)
2022年2月のカバー集を携えた公演では、その歌が再び客席へ戻りました。
たとえば「バンザイ ~好きでよかった~」では、仲間や家族への感謝を話した流れが歌い出しにつながっています。
既存の歌が、その日に会えた人への言葉にもなる。
録音で考えた親密さと、現場で生まれる即興性が同じ場所に集まった場面です。
2025年、熱さを取り戻しても、以前の歌い方には戻りきらない
2025年の『VOICE MAGICIAN VI ~THE SIXTH SENSE~』では、再びライブの直感が前に出ます。
「DO IT」は、2010年ごろにジャマイカで作り始めた曲を、現在のトラップを取り入れて完成させたもの。
HAN-KUNは、長く使っていなかったオートチューンも久しぶりに採用しました。
近年親しんでいた音楽の使い方に新鮮さを感じたからだと、本人は語っています。
昔の言葉に向き合い、現在の感覚で声の質感を選ぶ。
加工も含め、その時点の表現を選び直しています。
同じアルバムの「夏のメロディー」では、他の曲より言葉を減らし、歌詞が届く間を大切にしました。
何かを強く引っかけることより、心地よく聴けることを狙った曲です。
速い言葉で埋める力と、言葉を残して待つ力。
カバーで意識した余白は、こうしてオリジナル曲にも具体的な居場所を持っています。
HAN-KUNの変遷を追うと、声の勢いが親密さに置き換わった、という一本道にはなりません。
ライブへ向かう熱さを保ちながら、言葉を待つ間、無理に張らないキー、加工した声を選ぶ幅が増えてきました。
高い声を持つ人が、その力をいつ前に出し、いつ歌の中へ収めるか。
そこに、長く歌い続けてきた時間が表れています。
曲ごとの息継ぎや声の選び方は、HAN-KUN(湘南乃風)の歌い方で詳しく取り上げています。

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