豊崎愛生の歌には、身近な人が話しかけてくれるような温かさがあります。
その印象は、アコースティックな曲だけで作られてきたものではありません。
電子音の中でも、ロックでも、先輩たちの名曲を歌うときにも、自分の声で何を届けるかを考えてきました。
変わらないように感じる優しさの内側で、歌い方や選べる曲はどう広がってきたのでしょうか。
2007〜2009年|役の声を学び、自分の言葉を歌い始める
豊崎が初めてキャラクター名義で歌ったのは、2007年の「虹色すぷらっしゅ!」でした。
初めての本格的な録音に緊張しながら、ディレクターにリズムや役の個性の出し方を教わったと振り返っています。
『けいおん!』では同じ曲も場面に合わせて録り直し、多くの歌を通じて鍛えられたといいます。
2009年のソロデビュー曲「love your life」では、目指す歌の距離がはっきりしていました。
声優として言葉を届けてきた自分だからこそ、メロディーに乗せて話したり、朗読したりするように歌いたい。
豊崎は、歌の技巧を見せることよりも、伝えたいことが耳に届く感覚を大切にしたと話しています。
音数の少ないアコースティックな曲を選んだのも、言葉を自然に受け取ってもらいたかったからでした。
出発点でスタッフへ渡したのは、自分が歌いたい音楽と、普段好んで聴く音楽を分けた2枚のCDでした。
声に合う優しい音楽から始め、やがて好きなロックの要素も取り入れていったといいます。
最初から趣味をすべて歌にするのでなく、自分の声が生きる場所を確かめながら進んでいたのです。
2013年|電子音の中でも、話しかける歌を

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2013年の「フリップ フロップ」は、sasakure.UKによる電子音を取り入れた曲です。
豊崎には、デジタルな音が強くなりすぎることへの戸惑いもありました。
ただ、仮歌を聴くと、打ち込みの音にも温かさがある。
そこで、自分らしさの範囲を狭く決めず、新しい音へ踏み出すことを選びました。
録音では、コーラスや手拍子を試しながら曲を作り上げています。
賑やかな音になっても残したかったのは、言葉にメロディーが乗り、相手へ直接話しかけるような歌い方でした。
デビュー曲で大切にした近さを、別の編成へ持ち込んだわけです。
優しい声には素朴な伴奏しか合わない、というところで止まらなかったのです。
2015年|言葉を届ける歌から、季節を感じる歌へ
「Uh-LaLa」では、歌で伝えたいものにも変化がありました。
それまでの、自分の内面を少しずつ見せていく作り方から、夏の空気を楽しめる開放的な曲へ。
豊崎は、はっきりしたメッセージを置かず、夜風の涼しさや夏休みを待つ気分を感じてもらう作り方が、初めての挑戦だったと話しています。
歌全体で季節や気分を届けることも、歌の身近さにつながっていきます。
2016〜2017年|上手に見せることから、歌に任せることへ
2016年の『all time Lovin’』では、豊崎自身の感情や、そのとき興味を持っていた音楽が、以前より素直に作品へ入っています。
グラムロックを歌いたい気持ちや、「ポートレイト」で少し立ち止まりたい気持ちも、曲を頼むきっかけになっていました。
しかし本人は、幅広い曲を歌ったから上達した、と単純には捉えていません。
格好よく見せよう、上手に歌おうと意識するほど、うまくいかないことがある。
むしろ最後にもう一度歌ったテイクや、正解が分からないまま懸命に歌ったテイクが、作品の土台になったといいます。
仕上がった声を自分で飾ることより、その瞬間の精いっぱいを残す。
録音に向き合う姿勢にも、変化が生まれていました。
翌2017年の「猫になる」では、歌い込まない選択もしています。
かわいらしい表面の奥にある現実味を、歌い方で強く説明せず、聴く人に感じてもらう余地を残したのです。
デビュー直後なら、ただかわいい曲として歌っていただろうと本人も話していました。
歌に込めるものが増えても、すべてを声の表情に出すとは限らなくなったのです。
2018年|名曲の歌い方を、自分の声で引き受ける
カバーアルバム『AT living』では、すでに知っている曲を歌うことが、新たな課題になりました。
「風をあつめて」は、家で何度も口ずさんできた曲なのに、録音となると緊張したといいます。
自分の中に理想の歌い方があるからこそ、原曲を大切にしながら、自分の声で成立させる難しさがあったのです。
オーディションでも歌った「卒業写真」では、歌詞や歌い方の理由を一つずつ考え直しました。
過去を振り返る歌でも、寂しさをそのまま前へ出す曲ではない、と豊崎は捉えています。
思い出の曲を、自分の感情だけで歌わない。
原曲の表現を読み解いたうえで歌うことが、以前から知っていた曲に新しい奥行きを与えていました。
2021年|柔らかな声を、新しい音色へつなぐ
2021年の『caravan!』では、新たな作家との出会いを通じて、歌の幅がさらに広がります。
さかいゆうが作曲した「MORNING:GLORY」では、豊崎はファルセットを意識した歌い方を選びました。
持ち味の柔らかさを、ソウルの感覚を持つ音楽の中へ置いてみる試みです。
従来の歌を強くするだけでなく、声の軽さをどう音楽へなじませるかが、新しい表情を生みました。
「ライフコレオグラファー」では、大きく声を加工しています。
自然な歌声をそのまま届けることだけが、豊崎愛生の音楽ではなくなっていたのです。
一方、このアルバムで集めたかったのは、日々の中で幸せを感じられる歌でした。
音の作り方が広がっても、聴く人の暮らしへ歌を届けるという出発点はつながっています。
2025年|自分の青春を彩った歌を、今の声で

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2025年のカバーコンサート「AT living II ~sing of youth~」では、選曲の軸も変わりました。
2018年の昭和の名曲から、自分が学生時代に親しんだ平成の曲へ。
生バンドの演奏を前提に、青春時代に聴いていたバンドの曲を中心に選んだと話しています。
学生時代には、好きな曲を集めたMDを友達と貸し借りし、音楽の好みを広げていたといいます。
そうして聴いていた歌が、今度は自分のステージの中心になっていく。
ただ新しいジャンルを増やすだけでなく、聴き手としての自分の記憶を、歌手として届けられる場所が広がったと見ることができます。
実際の公演では「Funny Bunny」や「若者のすべて」に加え、「カルアミルク」も歌いました。
「カルアミルク」ではファンキーな節回しのフェイクを聴かせたと報じられており、柔らかな声の印象だけでは語りきれない一面も表れています。
好きだった音楽を、現在の歌の表現へ結び直す舞台でした。
豊崎愛生は、優しい声を軸に、表現の行き先を増やしてきました。
話しかける近さを保ったまま電子音と出会い、感情を説明しすぎない歌を選び、名曲の表現を学び、裏声や加工も自分の音楽へ取り込んできました。
声の持ち味を大切にすることと、新しい歌へ挑むことが、同じ歩みの中にあるのです。
曲ごとにどんな声や言葉の運びを選んでいるかは、豊崎愛生の歌い方で掘り下げています。

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