ナノの歌を、激しいロックを歌いこなす声として覚えている人は多いでしょう。
その声は、活動を重ねる中で太さを増した一方、力を抜いて歌う曲や、仲間と同じ場所で声を合わせる録音へも広がってきました。
変化をたどる鍵は、歌うときに誰を思い浮かべていたかにあります。
部屋で音を完成させていた歌手が、観客と一緒に曲を完成させるまでの歩みを見ていきましょう。
2012〜2013年、曲に出会うことで激しく歌える自分を知る
ニューヨーク州出身のナノは、2010年から動画サイトへカバーを投稿し、2012年に『nanoir』でデビューしました。
日本語と英語を行き来する歌は、国内だけでなく海外の聴き手にも届いていきます。
2013年3月には初のワンマンライブを開催し、画面の向こうにいた聴き手と、同じ会場で向き合うことになりました。
初期の歌い方を育てたのは、与えられた曲に挑む経験でした。
2013年の『N』を作る頃、ナノは「Now or Never」や「No pain, No game」を歌って、自分にもこれほど激しい表現ができるのだと分かったと話しています。
先に完成した歌唱の型があり、そこへ曲を当てはめたわけではありません。
歌える表情が増えることで、次に作りたい音楽の範囲も広がっていったのです。
『N』では、幅広い曲を同じバンドのメンバーと録り、自分の詞を自分で歌っています。
ナノは、その過程で作品に一本の筋が通ったと感じました。
初ライブ「Remember your color.」では、激しい曲の合間に、アコースティックの時間も設けています。
ギターを伴奏にした「ヒステリ」、ピアノと歌う「glow」、バイオリンも加わる「Our Story」と、編成を変えて歌を届けました。
客席が歓声を上げる場面だけでなく、静かに歌へ聴き入る場面も作っていたのです。
ナノにとって、ライブにアコースティックのコーナーを入れることは幼い頃からの夢でした。
柔らかな伴奏で歌う方向は、後から突然加わったものではありません。
初めから持っていた望みを、その後の録音でも深めていくことになります。
2015年、録音の先にライブの景色が見えてくる
『Rock on.』の時期には、録音とライブの違いも実感するようになります。
録音では歌をきちんと形にする一方、ステージではその場の勢いや空気が大きく働く。
特に自分で書いた詞を歌うと、感情が強く動くと本人は話しています。
歌詞を書くことが、声に込められる実感を増やしていました。
同年に台湾やドイツでワンマン公演を経験すると、客席の反応に刺激され、違うパフォーマンスが出てくることもありました。
舞台に余裕が生まれ、細かな演出まで考えられるようになったと振り返っています。
聴き手へ一方的に歌を渡すだけでなく、その反応によって自分も動く。
後に録音へ持ち込まれる、観客を意識した歌の土台が育っていきます。
2017年、声の太さと、飾らずに歌う表現が並び立つ

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2017年の『The Crossing』では、本人も声の変化を認めています。
「Bull’s Eye」から「DREAMCATCHER」、さらに「MY LIBERATION」などへ、少しずつ声が太くなったという実感です。
ナノは自信との関係を考えながら、『Rock on.』以降は録音でも、いつかファンと歌うことを意識するようになったと説明しています。
同作の限定盤に収めた「GALLOWS BELL」のピアノ版にも、以前との違いがありました。
本人が初期録音との声の違いに驚き、ディレクターにも表現の豊かさを認められました。
強い声を出せるようになることと、静かな伴奏の中で感情を伝えることが、同じ時期に進んでいました。
ただし、自分を出せば、いつも気持ちよく歌えたわけではありません。
自ら作詞作曲した「Milestone」では、家にいるときのような素の自分を出すことに抵抗があり、録音後に落ち込むほど悩みました。
完成した音を聴いて、ようやく納得できたといいます。
技術を積んだ後にも、無防備な歌を受け入れる難しさは残っていました。
2020〜2021年、納得できる声と、力を抜ける曲を探す
2020年のベスト盤『I』に収録した「INSIDE MY CORE」は、初期の勢いを残しながら、新しい歌い方を探した曲です。
ナノは、昔より自分で納得できる歌を歌えるようになったと話しました。
曲の良さに自分の声が届かないと悩んだ初期を、消したい過去とは考えていません。
葛藤を含めて、それぞれの録音を大切な作品として受け止める変化でした。
同作では「magenta」も歌い直しました。
原点となる曲だからこそ、初期音源の再収録にとどめず、8年後の自分の歌を残す選択です。
ライブの音合わせにも使う大切な曲で、過去からの変化を示そうとしています。
2021年の初セルフプロデュース作『ANTHESIS』では、歌の出発点にも目を向けます。
自作曲「Hourglass Story」では、難しいロックを歌う中で身についた表現をいったん離れ、デビュー前の自然な自分を思い出そうとしました。
本編とは別に、最初のデモに近いアコースティック版も残しています。
ここで変わったのは、上達の意味でもあります。
歌えるものを増やすだけでなく、積み重ねてきた表現を、曲に合わせて手放すことも選べるようになった。
太く強い声と、飾りを少なくした歌は、どちらもナノの中にあります。
一つの方向へ進み続ける成長として考えるより、その選択肢が増えたと捉えるほうが、この時期の変化を理解しやすいでしょう。
2023年、一人で戦う歌から、一緒に歌える曲へ
デビュー10周年を経た『NOIXE』の「FIGHT SONG」は、堀江晶太と作った新たな節目でした。
ナノにとって、以前の「No pain, No game」は一人で戦う感覚の強い曲です。
対して「FIGHT SONG」は、冒頭のコーラスから、皆で進む景色を感じる曲になりました。
ライブを想像する経験が、曲の受け止め方にもはっきり表れています。
このアルバムでは、ラッパーのDEMONDICEをはじめ、新しい相手との制作にも踏み出しています。
慣れた音だけで記念の作品をまとめず、違う音楽性を自分の中へ入れていく。
長く歌ってきた実績を、完成した型を守るためではなく、次の表現へ進むために使っているのです。
2025年、録音の場にも人と歌う喜びを持ち込む

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2025年の『aИomaly』では、「Oblivion」「Lost in Gray」をSeann Boweと制作しました。
曲の雰囲気を初めから話し合い、録音中も一緒にコーラスを考えています。
現場で声を交わすことから、曲を育てる経験でした。
「ENDGAME」の録音では、客席が一緒に歌う様子を想像でき、楽しく歌えたと本人は話しています。
一方、「Devil In Me」や「Do or Die」は、声だけでなく感情の面でも難しい曲でした。
経験を重ねた後も、録音での苦労はなくなっていません。
それでも舞台で聴き手と分かち合うと、曲への愛着がさらに増すという感覚があります。
ナノは、違うジャンルの曲を同じ音へそろえることにこだわらず、自分が歌うことで一つにつながると考えています。
『aИomaly』にも、数年間の異なる心境が詰まっています。
その時々の不完全さを抱えながら、新しい人や新しい曲に触れ続けることが、歌を更新する力になっているのです。
変わってきたのは、声を届ける先との距離
初期には、曲へ挑むことで知らなかった自分の激しさを見つけました。
ライブを重ねると、歌の先に客席が見えるようになり、録音でも人と歌う感覚を求めるようになります。
その途中には、声の太さの変化も、素の歌を出す戸惑いも、力を抜ける曲との出会いもありました。
ナノの変遷は、以前より強く歌えるようになった、という一言では収まりません。
どんな声で、誰と、どこへ届けるかを選び直してきた歩みです。
曲ごとの具体的な表現は、ナノの歌い方でも掘り下げています。







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