JUNNAには、大きな声で高音を歌うことより、難しいと感じた注文がありました。
高い音を、裏声にせず、小さな声で歌うことです。
しかも、音量を下げても強さは残してほしい。
得意な高音を思いきり響かせれば済む場面ではなく、声の出し方を細かく変える必要がありました。
「いけないボーダーライン」や「Here」で彼女を知った人には、あの力強い声がまず浮かぶかもしれません。
けれど、一曲の中をたどると、強く歌う場所へ向けて声を変えたり、迫力を出せる声であえて静かに語りかけたりしています。
JUNNAの高音は、その前後も一緒に聴くと面白くなる高音です。
「Here」は、最初から強い人の歌ではない
2017年の「Here」は、アニメ『魔法使いの嫁』のオープニングテーマです。
主人公の羽鳥チセは、初めから自分の居場所を持っている少女ではありません。
孤独だった彼女がエリアスたちと出会い、他人との関係を作っていく。
その物語が、歌の強さにも関わっています。
JUNNAは、チセの寂しさから気持ちの変化までを、一曲の中で表したいと考えました。
とくに終盤、伴奏がなくなるアカペラの部分では、力強さを伝えようとしています。
最初から同じ勢いで押し続けるのでは、孤独な少女が誰かと出会ったことで変わっていく様子は描きにくい。
声の強さに差があるから、歌の中でも気持ちが動いたと分かるのです。
高音が出た瞬間だけに注目すると、声の能力に驚いて終わるかもしれません。
その手前の寂しさや迷いも追ってみると、強い声が出てくる理由まで感じられます。
JUNNAの迫力は、聴き手を圧倒するためだけのものではなく、歌の人物が何かを言い切るためにも使われています。
音量を下げても、頼りない歌にはしたくない

写真:Real Sound/撮影:堀内彩香
冒頭の難しい注文があったのは、2020年の「FREEDOM~Never End~」でした。
最後の盛り上がりへ向かう手前、いわゆる落ちサビで、強さを保ちながら声量を抑えるよう求められたのです。
JUNNAは、大きな声で高音を出すのは難しくない一方、裏声にせず小さく出すことには、何度も挑戦したと話しています。
これは、歌を聴くときにも少し意外な区別です。
私たちは「強く歌っている」と「大きな声で歌っている」を、まとめて受け取ることがあります。
でも、静かに言われたひと言にも、決意を感じることはある。
この曲で求められたのも、声を小さくした途端に、歌の人物まで頼りなくなってしまうような表現ではありませんでした。
大きさを抑えている部分があると、その後に声を広げられる余地もできます。
力のある歌手ほど、どこで力を出し切るかが一曲の印象を変える。
JUNNAの高音を楽しむなら、音の高さに加えて、同じ高い声をどのくらいの強さで使っているかにも耳を向けたくなります。
速い曲でも、一語ずつ強調するとは限らない
声の迫力は、言葉のつなぎ方によっても変わります。
2021年の「海と真珠」で、JUNNAは梶浦由記から、一つひとつの言葉を切るより、フレーズをつなげて歌う感覚を学びました。
アップテンポなのに、歌は大きなまとまりで運ぶ。
曲の速さに合わせて全部の言葉を鋭く刻む方法とは、違う進み方です。
梶浦は、録音の場で実際に歌って伝えてくれたそうです。
JUNNAにとっても、説明を聞くだけより、目指す歌い方がよく分かる経験になりました。
また、自分は深刻な雰囲気で歌いがちだと感じていたため、この曲では明るさも意識しています。
同じ力のある声でも、不安を強める歌にするのか、まだ見ぬ場所へ進む期待を感じさせるのかで、選ぶ響きが変わるのでしょう。
曲が速いと、歌も急いでいるように聴こえやすいものです。
そこでフレーズの先までつなぐと、声が旋律を大きく描ける。
「Here」での気持ちの変化と同じように、ここでも、高音だけを切り取らずに聴く楽しさがあります。
その難しさは、英語版の「the sea and a pearl」でいっそう具体的になりました。
JUNNAによれば、日本語版より言葉数が多く、英単語を一つずつ切ってしまいやすかったそうです。
梶浦と英訳詞を担当したJoelleの指導を受け、日本語版が持つ雰囲気を残すように歌いました。
同じメロディーだから、単語を置き換えれば同じ歌になるわけではありません。
一つの言葉が占める長さや、次の言葉へ移る場所が変われば、フレーズの流れも変わります。
JUNNAは日本語版のまとまりを意識しながら、英語でもその流れをつなごうとしていたのです。
一方、日本語版では、曲の鍵になる言葉を特に丁寧に歌ったとも話しています。
つなげることは、すべての言葉を同じ重さで流すことではない。
旋律を大きく運びながら、伝えたい言葉の存在感も残す。
二つの言語で歌ったこの曲は、彼女の迫力を声量以外から知る手がかりにもなります。
ピアノと二人になると、声の別の表情が見える

写真:音楽ナタリー/撮影:草場雄介
もっと小さな編成で聴ける曲もあります。
「Here」と同じシングルに入った「ソラノスミカ」は、島田昌典のピアノと歌を同時に録音したバラードです。
細かい部分を別々に録って組み合わせるのではなく、ピアノ奏者と一緒に、一曲を歌う形でした。
JUNNAは初めこそ不安だったものの、実際に歌うとライブに近く、歌いやすかったと振り返っています。
一発録りという方法も、一回しか歌わなかったという意味ではありません。
二人で一緒に演奏する形で、数回のテイクを録っています。
力強いロックバラードの「火遊び」とは違い、この曲では柔らかさを意識しました。
伴奏が少なくなると、声を張ったときの迫力と同じくらい、何気ない言葉の置き方が気になります。
強い歌声を知っているからこそ、静かな曲で見える表情にも惹かれる。
「Here」の声の迫力を気に入った人が、同じ一枚の中で、ピアノに合わせて柔らかく歌う彼女にも出会える組み合わせです。
大きな声の、その前後を聴いてみる
JUNNAの歌で印象に残る高音は、そこへ至るまでの声と切り離せません。
「Here」では孤独な気持ちから力強い表現へ進み、「FREEDOM~Never End~」では声量を抑えながら強さを残す。
「海と真珠」では言葉をつなぎ、「ソラノスミカ」ではピアノとともに柔らかく歌う。
声の力があるからこそ、力の使い方を変えたときの違いも楽しめます。
2026年には名義をJunnaへ変え、柔らかな歌声にも改めて取り組みました。
初期の声へのこだわりがどう広がっていったかは、JUNNAの歌声の変遷でたどっています。
次に「Here」を聴くときは、力強く歌う瞬間だけでなく、その直前にどんな声で歌っていたかも追ってみてください。
あの高音が突然飛び出した見せ場ではなく、一曲の中で気持ちが高まった先にある声として聴こえてきます。







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