愛美(Poppin’Party)の歌い方には、曲に合わせて声の表情を変える柔軟さがあります。
本人の話では、録音中に生まれた歌い方が採用されることもあれば、歌い出しを大切にするため、曲のキーや転調を作り手と考えることもありました。
声色、言葉の乗せ方、歌うキーの選び方を、具体的な録音の話から見ていきます。
「ドレス」公式ミュージックビデオ(2022年のデジタルシングル版)。
同じフレーズでも、声の表情を変える
2022年の「ドレス」では、同じフレーズが3回出てくるところの歌い方の違いを、取材の聞き手が指摘しています。
愛美は、DECO*27が思い描くイメージに合わせながら歌い、現場で出た予想外の歌い方も使ってもらったと説明しました。
同じ言葉やメロディが戻ってきても、毎回同じ声でそろえる方法だけがあるわけではありません。
この録音では、歌ってみたときの声の違いを、曲の表情として残していました。
愛美が一つの声色へ固定されず、制作の中で歌を変えられることが伝わる例です。
「※おこめぞん」で、声の切り替えそのものを楽しむ
『AIMI SOUND』のCDに入ったボーナストラック「※おこめぞん」では、声色を変える遊びがさらに前へ出ています。
リスアニ!の取材では、子どもらしい声からオペラ風まで変わっていく歌と紹介され、本人は、色々な歌い方で遊びながら、ほぼ一発で録ったと説明しました。
自分で作詞・作曲した曲だからこそ、どの声を使うかという自由も、作品の面白さになっています。
本人は、言葉の中に隠れた「こめ」の音を強調したことも、こだわりとして挙げています。
ただ声をかわいくするのではなく、どの音を目立たせるかによって、歌詞の遊びを聴く人へ届けていました。
短い言葉の置き方にも、声優として言葉を扱ってきた歌い手の選択が表れています。
この曲を「ドレス」と並べると、愛美の声色の幅を一つの印象だけで括りにくいことがわかります。
重いサウンドの中で表情を変える歌と、声の切り替えを楽しませる歌。
どちらにも、声を試しながら曲に合う表現を探す姿勢があります。
言葉の母音と、メロディの相性まで考える
愛美は2022年の取材で、作詞の際、メロディとフレーズの相性や、母音の細部も考えられるようになったと話しています。
声優として多くの言葉や歌に触れた経験が、歌詞を作る側の意識にもつながっていました。
言葉は、意味を伝えるとともに、歌の音にもなります。
どの母音をメロディに乗せるかという視点は、言葉を付けたときの声の流れを考える手がかりにもなります。
愛美の場合は、歌い手として届いた言葉を歌うことに加え、自分で言葉を選ぶ段階から、その細部に向き合っていました。
「夏に閉じこめて」で、もう一人の声と切なさを作る
Poppin’Partyとしての歌では、ほかのメンバーの声との関係も大切になります。
2022年の「夏に閉じこめて」は、香澄と沙綾の掛け合いがある曲です。
愛美は、切ない曲だからこそ感情を込めることができ、歌うのが楽しかったと話しています。
同じ取材で伊藤彩沙は、二人のハーモニーに大人っぽさと切なさを感じたと評していました。
これは共演者が受け取った印象ですが、愛美一人の声だけでなく、組み合わさる声によって曲の表情が生まれる例として捉えられます。
明るい香澄というイメージがあっても、歌ごとに感じる気持ちは違うのです。
一人で歌う部分から二人の声へ移るところを追うと、同じ声でも周囲の響きとの関係で印象が変わることに気づけます。
ソロの曲とバンドの曲を行き来する愛美には、声を前に出す選択と、相手の声と重なって聴かせる選択があります。

画像出典:画像掲載元
「will」は、歌い出しを生かすキーから始めて転調する
2024年の「will」では、歌い出しの最初の1行を大切にするため、キー設定を何度も考えたと話しています。
そこを歌いやすくすると、ほかの部分やサビの勢いが物足りなくなるという課題もありました。
そこで宮田“レフティ”リョウが提案したのが、最初は歌いやすいキーで始め、その後で転調する形です。
曲全体を一つのキーに合わせるだけでなく、途中で転調することで、大事にしたい歌い出しと、後に続く部分を生かしています。
「will」公式配信音源(2024年『LIVE IT NOW』収録)。
「if」では、歌の距離に合わせて伴奏を減らす
「will」と同じ2024年のアルバム『LIVE IT NOW』に入った「if」では、声の周りにある音も自分で選んでいます。
本人によれば、デモにはストリングスや打ち込みのリズムがありましたが、歌詞は相手と一対一で向き合う気持ちなので、それらをなくしてもらったそうです。
周囲から応援されているように盛り上げるより、一人で弾き語りをする感覚を大切にしました。
ここでは、声をどのくらい強く出すかだけでなく、誰に向けた言葉として聴こえるかが判断の軸になっています。
音数を増やして感情を大きく見せることもできますが、愛美は、この歌の内密な気持ちに合う空間を選びました。
歌の表情は、声色と伴奏の両方から作られているのです。
「will」で歌い出しのキーを考えたことも、「if」で歌の周りの音を減らしたことも、中心にある言葉をどう届けるかという問いにつながっています。
愛美は、曲を受け取って歌う段階だけでなく、曲の形を相談する段階から、自分の歌の届き方に関わっています。
「AIM STAR」では、デモからキーを下げて低い声を使う
2026年の「AIM STAR」については、取材で低めの歌い出しを指摘された際、最初の音源からキーを下げたと本人が明かしています。
低い声で始まる印象には、制作で決めた曲の高さも関わっていました。
「AIM STAR」公式ミュージックビデオ(2026年10月発売のEP『AIM STAR』収録)。
「will」での転調も、「AIM STAR」でのキーの変更も、愛美の声を曲のどこで生かすかを考えた選択です。
声の高さを考えるときには、歌い手の声だけでなく、その曲がどんなキーに設定されたかも手がかりになります。
この「AIM STAR」では、録音時に変わった伴奏に合わせて、2番のサビの終わりの歌詞も直しています。
愛美は、そのアレンジなら、さらに印象に残る言葉にしたいと考えたそうです。
曲の高さに加え、伴奏を聴いて言葉も選び直していました。
また、ライブでは客席にも一緒に歌ってほしい部分があると説明しています。
録音で歌を完成させることに加え、人の声が集まる場面まで考えている曲です。
低い歌い出し、言葉が目立つ箇所、客席が参加する場所を分けて考えると、一曲の中で声が担う役割の多さが伝わります。
録音中には声色を試し、作詞では母音にも目を向け、曲の中では声を生かせる高さを選ぶ。
愛美の歌を本人の説明からたどると、声そのものの力に加え、歌い方と楽曲を細かく合わせていく工夫が見えてきます。
こうした選択が増えてきた背景は、愛美の歌唱変遷でたどれます。

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