いろいろなキャラクターとして歌えるようになったのに、自分としてはどう歌うのだろう。
愛美(Poppin’Party)は、2021年のソロ再始動の録音で、一瞬そんな戸惑いを感じたと話しています。
歌の経験が増えることは、自信につながるばかりではありませんでした。
2011年のデビュー、戸山香澄としての歌、そしてソロでの再出発をたどると、自分の声を受け入れ、曲の形まで選ぶようになった過程が見えてきます。
「ReSTARTING!!」公式ミュージックビデオ(2021年のシングル版)。
2011年、アニメの歌を歌うところから始まる
愛美は2010年に声優としてデビューし、翌2011年には歌手としての活動を始めました。
同年11月の「LIVE for LIFE ~狼たちの夜~」は、テレビアニメ『ベン・トー』のオープニングテーマになった曲です。
「LIVE for LIFE ~狼たちの夜~」公式配信音源(2011年のシングル版)。
後年の本人の話では、幼い頃からロックの歌手に憧れ、『マクロスF』を見たことから、アニメの歌を歌いたいと思うようになったといいます。
その願いは仕事になりましたが、活動を重ねるうちに、歌に悩むことも増えていきました。
2021年の取材では、できないことの多さが苦しく、歌うことに臆病になっていた時期もあったと振り返っています。
経験を重ねるほど、自分を客観的に見られるようになり、足りないものにも気付く。
本人の説明では、仕事を続けてきたことと、自信を持って歌えることは、同じ速さでは進んでいませんでした。
周囲によく見られたいと思い、本来の自分以上のものを見せようとしていたとも話しています。
後の再出発は、この力みをどうほどくかという問題ともつながっていました。
2015年から、戸山香澄として歌う声を育てる
2015年には、『BanG Dream!』から生まれたPoppin’Partyで、戸山香澄役としてギターとボーカルを担うようになります。
ここでは楽曲を歌うことに加え、香澄がどのように歌うかを考える必要がありました。
2020年の「イニシャル」について、愛美は、それまでの香澄の言動や物語を踏まえ、どんな感情で歌っているのかを考えたと説明しています。
アニメでの経験を経て、体当たりだけでは解決できないことも知った香澄の、複雑な心情に向き合っていました。
難しかったのは、この曲にそのまま当てはめられる一つの出来事がなかったことです。
以前の等身大の曲とは違い、香澄が経験をもとに広い視点で詞を書いたように捉えたといいます。
過去の言動だけでなく、これから起こりそうな物語も想像しながら、歌うときの感情を探しました。
「イニシャル」Poppin’Partyの公式配信音源(2020年発売のシングル収録曲)。
香澄の歌が、明るさだけでは収まらなくなっていったことが、この話から伝わります。
役の歩みを受け取りながら、声に与える表情も探していたのです。
2022年の取材では、劇場版で自分のライブの歌に香澄の映像が重なった際、もっと香澄らしく歌えたらよかったと感じたことも語っています。
本人は、ほかのバンドの歌がキャラクターに合っていると感じたことも、課題を意識するきっかけになったと説明しました。
全力で歌った実際のステージを、役の映像とともに見返すことで、さらに変えたいところが見つかっていたのです。
本人にとって、香澄の歌い方は完成して固定されたものではなく、発声や表情を試し続ける対象でした。
2021年の「ReSTARTING!!」――飾らない自分の声へ戻る

画像出典:画像掲載元
その一方で、ソロ活動は2021年4月の「ReSTARTING!!」から再び動き始めました。
本人は、再開を後押しした大きなものとして、自分の歌を聴きたいというファンの声を挙げています。
その声を実感した機会の一つが、2020年、nano.RIPEとSILENT SIRENの記念作品へのゲスト参加でした。
個人として歌ったことを喜ぶ反応に触れ、悩みがあっても、その歌を好きだと言ってくれる人がいるなら歌おうと思えたそうです。
一つの出来事ですべてが変わったというより、少しずつ再開へ気持ちを整えていました。
録音では、愛美自身の歌声とは何だったのかと、一瞬戸惑ったそうです。
キャラクターソングを多く歌い、表現の幅は広がっていた一方、自分として歌うことを改めて考える必要がありました。
そこで、深く構えすぎずに歌えば、それが自分の歌になると感じたと説明しています。
かっこいい歌手への憧れも、それまでと少し違う形になりました。
憧れの姿へ無理に近づけることより、今の歌声を好きだと言ってくれる人がいることを支えに、飾らない声を届けてよいと思えるようになったそうです。
役として声を選ぶ経験を経て、今度は自分の声を受け入れる。
「ReSTARTING!!」は、歌の技術だけでなく、声に向き合う気持ちが変わった節目でもありました。
曲の言葉にも、その変化が表れています。
ただ前向きに頑張る歌にするのではなく、弱い自分も認めて進む歌にしたかったと、本人は説明しています。
憧れの歌手らしく見せることから、自分の経験を自分の声で伝えることへ、再出発の軸が定まっていました。
2022年の『AIMI SOUND』――作り手との対話で、歌い方を広げる
2022年のアルバム『AIMI SOUND』では、さまざまな作り手の曲に取り組みました。
「ドレス」の制作は、DECO*27とのリモートでの会話から始まっています。
最近怒ったことなどを尋ねられ、約1時間話したところ、自分では書けないと感じる歌詞と、重いサウンドの曲になったそうです。
録音でも、DECO*27のイメージに沿って歌いながら、その場で出た予想外の歌い方も採用されたと話しています。
「ドレス」公式ミュージックビデオ(2022年のデジタルシングル版)。
歌の形をあらかじめ決めて再現するだけでなく、実際に歌ってみた声からも、曲の表情が生まれていました。
キャラクターとして身につけた表現を、ソロの制作の中でも使っていく時期だったと捉えられます。
同年の別の取材では、作詞でも、メロディと言葉の相性や母音まで考えられるようになったと説明しています。
どんな言葉を、どんな音の流れで歌うかという細部にも、意識が向いていました。
また、デビュー当時はアニメの歌を歌えるだけで幸せだったのに対し、この頃には自分がやりたい音楽が見つかったと話しています。
声優の活動を通じてギターが相棒になり、バンドの音の中でギターを弾きながら歌うことにも、はっきりした希望ができていました。
役を演じてきた年月は、ソロで何を選ぶかを知る時間にもなっていたのです。
2024年の「will」――整えることに加え、生の感情を残す

画像出典:画像掲載元
2024年のアルバム『LIVE IT NOW』に収めた「will」では、宮田“レフティ”リョウから、生の感触を大事にしたいという提案がありました。
愛美は、粗削りでも一生懸命さが伝わるよう、感情のままに歌うことを意識したと説明しています。
歌い出しを大切にしたいという希望には、曲の途中で転調する提案も受けました。
自分の意図を理解してもらい、別の方法で実現できると知ったことも大きかったと話しています。
録音で出た声を選ぶ経験に加え、歌いたい言葉に合わせて、作り手と曲の形を考える経験が重なっていました。
「will」公式配信音源(2024年『LIVE IT NOW』収録)。
2026年の「AIM STAR」――今の声で、曲の形も選ぶ
2026年10月には、EP『AIM STAR』を発表しました。
表題曲は、最初のデモから、よりダークで重いサウンドへ変えてほしいと、愛美が相談した曲です。
本人は、ライブを重ねる中で、聴いた瞬間に体が動くような音を求めるようになったと話しています。
このEPは、もともと原点へ戻るカバー作品の提案から始まりました。
最終的には新曲の作品になりましたが、過去に各コンテンツで一緒に仕事をした作家へ依頼することで、そのテーマを残したそうです。
自分の音楽を育てた出会いを、今の声で新しい曲へつなげる企画だったのです。
「AIM STAR」公式ミュージックビデオ(2026年10月発売のEP『AIM STAR』収録)。
歌のキーも、最初に届いたものから下げたと説明しました。
低い声から始まる形は、もとの曲をそのまま受け取った結果ではなく、制作の中で選び直したものだったのです。
香澄としては、役を輝かせる声を探し続ける。
ソロでは、自分の声を受け入れ、作り手と歌い方や曲の形を選んでいく。
愛美の歌の歩みには、声優として広げた表現と、自分の歌声をどう届けるかという問いが、並んで進んできた過程があります。
声色やキーの選択を、録音の具体例から考える記事は、愛美の歌い方で読めます。

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