デクスター・ホランドの歌唱変遷|高い声の個性を守り、歌の振れ幅を広げた道のり

2024年のステージで歌うデクスター・ホランド(写真:Getty/Scott Legato) シンガー
2024年のステージで歌うデクスター・ホランド(写真:Getty/Scott Legato)

デクスター・ホランドの声には、曲が始まるとすぐにオフスプリングだと分かる強い個性があります。
その高く鋭い声は、疾走するパンクにも、ふざけた歌にも、深い喪失感を歌う曲にも居場所を作ってきました。
とりわけ「Gone Away」を、ロックの演奏とピアノを中心とした再録の両方でたどると、同じ歌を違う距離から届けようとした歩みが見えてきます。

勢いの中に、歌の入る隙間を作った『Smash』

オフスプリングは1984年、カリフォルニアで活動を始めました。
デクスターはリードボーカルとリズムギターを担い、バンドの中心で歌ってきた人です。
広く名前が知られるようになった1994年の『Smash』も、結成直後の勢いだけで生まれた作品ではありません。

当時、プロデューサーのトム・ウィルソンと話していたのは、パンクのエネルギーを残しながら、音が詰まり続ける状態をどう変えるか、ということでした。
そこでデクスターが取り入れたのが、楽器をあえて抜く発想です。
すべてを鳴らし続けず、音の出入りを作ることが、曲の伝わり方を変えていきました。

「Self Esteem」は、伴奏のない声から始まります。
その後も、ベースが軸になる部分と、ギターを含めた演奏がそろう部分があり、歌の周りの密度が変わります。
声がむき出しになる瞬間と、演奏に包まれる瞬間を、一曲の中に持っていたのです。

『Smash』が成功すると、同じような作品を求める圧力も生まれました。
しかし本人は、続編のような曲は書いていなかったこと、長く続くバンドになりたかったことを振り返っています。
この時点で、声の個性を残したまま、次に何を歌うかが課題になっていました。

1995年ロンドン公演のデクスター・ホランド(左)(写真:Getty/Mick Hutson)
1995年ロンドン公演のデクスター・ホランド(左)(写真:Getty/Mick Hutson)。
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「Gone Away」で、強い声が悲しみを担う

1997年の『Ixnay on the Hombre』に入った「Gone Away」は、その広がりを示す曲です。
デクスター自身も、従来の枠を広げるために取り入れた曲の例として、この曲を挙げています。
怒りや勢いを前面に出す音楽の中に、喪失を正面から歌う場所ができました。

当時の批評では、アルバム全体には厳しい評価を向けながらも、「Gone Away」では歌声に疲れと怒りが表れている、と受け止められています。
明るく痛快な声という印象だけでは収まらない、一曲でした。
張りの強さが、悲しみを押し出す力にもなるところに、この歌の大きさがあります。

1997年8月のバンクーバー公演でも、高い声の力強さと、整えられたバンドの演奏が印象を残しています。
アンコールの「Gone Away」では、客席の多くが一緒に歌っていました。
個人的な痛みを扱う歌が、大きな会場で共有される歌にもなっていたのです。

この時期の声の印象には、録音の作り方も関わっています。
『Ixnay on the Hombre』と翌1998年の『Americana』を手がけたデイヴ・ジャーデンは、ボーカルを二重、三重に録り、残響や遅延の効果も使ったと説明しています。
一人の声の鋭さを、重なりのある音に仕上げていたことが分かります。

曲を広げるほど、声の個性も目立ってくる

『Americana』では、「Pretty Fly (For a White Guy)」のような軽妙な曲も広く知られるようになります。
本人は、楽しいだけのバンドにも、暗いだけのバンドにもしたくなかったと語っています。
自分がいろいろな感情を持つように、音楽でも幅広いことを扱いたかったのです。

2006年には、後に長く組むことになるプロデューサー、ボブ・ロックと出会います。
デクスターが信頼したのは、音楽の感覚が通じることに加え、自分たちの良さを引き出してくれるところでした。
その関係の中で生まれた2008年の『Rise and Fall, Rage and Grace』では、歌の置かれる場所がさらに広がります。

「You're Gonna Go Far, Kid」について、本人は、それまでとは違うテンポ感や鍵盤を取り入れた例として振り返っています。
オフスプリングらしさを保ちながら、新しい要素を加える。
この曲は、後年もその考え方を説明する際の基準になりました。

一方、アコースティックな要素のある「Kristy, Are You Doing Okay?」や「Fix You」には、鼻にかかった張りの強い歌声が合わない、という厳しい批評もありました。
曲の幅を広げることは、いつも歓迎されたわけではありません。
伴奏が変わると、疾走する曲では魅力になる声の癖も、違った角度から目立つようになります。

2012年の『Days Go By』では、初期の「Dirty Magic」を再録しています。
こちらは、あまり知られていなかった曲を、もっと多くの人に届けたいという考えからでした。
本人は後に、音を大きく作り替えたわけではないこと、初期録音の不完全さにも当時ならではの性格があることを振り返っています。

ピアノの前で、声をさらすことを選ぶ

「Gone Away」のピアノ版は、そうした旧曲の再訪の中でも、役割が異なります。
ヌードルズは、演奏を削ることで曲の感情がより純粋に伝わり、毎晩のステージに大きな起伏が生まれたと話しています。
ファンから録音を求められ、2021年の『Let the Bad Times Roll』に収めることになりました。

ただし、歌う本人にとっては気楽な挑戦ではありませんでした。
大きなギターの音があれば、声の不完全な部分もその中にまぎれます。
ピアノと弦を中心とする録音ではそれができず、デクスターは、自分が無防備になったように感じたと語っています。

長いキャリアを重ねた後に、歌声をそのまま前に出すことへの怖さや居心地の悪さがあった。
それでも本人は、その無防備さこそ意味があるのかもしれない、と受け止めています。
声を強く見せるだけでなく、守られていない声で歌うことが、表現の一部になったのです。

同年11月には、ナッシュビルのBrooklyn Bowlで歌ったライブ映像も公開されました。
ここでは、ピアノと声だけで曲を届けています。
歌う前に、大切な人を失った経験に触れており、曲と自分、そして客席の経験を結びつける場面になっています。

2021年のオフスプリングとデクスター・ホランド(右から2人目)(写真:Daveed Benito)
2021年のオフスプリングとデクスター・ホランド(右から2人目)(写真:Daveed Benito)。
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原点に戻るために、もう一度合わせ直した声

2024年の『Supercharged』では、初期を思わせる勢いと、覚えやすい曲を求めました。
昔の作品に似すぎるのでは、という迷いはあっても、良いと感じたものを素直に選ぶことにしたといいます。
静かな表現を経験した後も、疾走するオフスプリングを大切にしているのです。

その裏側には、コロナ禍の間の地道な合わせ直しがありました。
ヌードルズは、曲ごとに伴奏を確認するだけでなく、コーラスで誰が何を歌っているかも見直したと説明しています。
同じ音を重ねているだけになっていないか、きちんとハーモニーになっているか。
長く歌ってきた曲でも、声の役割を確かめ直していました。

「Light It Up」では、『Americana』の頃を思わせる方向に曲が育ったことを、あえて受け入れています。
以前なら違いを出そうとしたかもしれないところで、昔からのファンが喜ぶ曲にしようと考えたのです。
新しさを求めることと、自分たちの得意な形を選ぶことが、無理なく並ぶようになりました。

2026年、ビリー・モリソンは「Never Gonna Change」を作った際、デクスターの声が浮かんだため参加を依頼したと語っています。
その声自体が、曲を仕上げるために求められているのです。

デクスターの変遷は、若い頃の激しさが失われ、静かな歌に置き換わったという流れではありません。
鋭い声を大きな演奏に重ねることも、伴奏を減らして感情を近づけることも、選べるようになった歩みです。
あの声だと分かる個性を保ちながら、聴き手に届くまでの道筋を増やしてきました。

曲の中で高い声やコーラスをどう生かしているかは、デクスター・ホランドの歌い方で掘り下げています。
時期による変化と、一曲の中での声の使い分けをあわせて読むと、その振れ幅がより見えてきます。

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