EXILE ATSUSHIさんの歌声は、息を多く混ぜた弱い声のように聞こえることがあります。
ところが、大人数のEXILEでもソロのバラードでも、言葉と音程の輪郭は簡単に消えません。
その理由は、単に声量を抑えているからではありません。
地声と裏声の境目を目立たせず、息の量、音の始まり、ビブラートの入り方を細かく選べるため、柔らかさと芯が同時に残ります。
さらに興味深いのは、この歌い方が最初から完成していたわけではないことです。
邦楽を中心に歌っていた青年が、ボイストレーナーからスティーヴィー・ワンダーなどの洋楽を勧められ、声を滑らかにつなぐ語彙を増やしていきました。
ATSUSHIの優しさは「小さな声」ではなく「角を立てない声」
優しく歌おうとすると、多くの人は声量を下げ、息を増やします。
その結果、子音がぼやけ、音程まで頼りなくなることがあります。
ATSUSHIさんの声は、柔らかくても音の始まりが完全には曖昧になりません。
息が先に流れる場面でも、その直後に声の芯が追いつくため、ささやき声だけには聞こえないのです。
これは息漏れ声と芯のある声の違いを考えるうえで分かりやすい例です。
息の音が聞こえることと、声帯の働きが弱く言葉まで消えることは同じではありません。
ボイストレーナーの解説では、ATSUSHIさんの声は息の流れが安定し、中高音まで音色の急変が少ないと説明されています。
優しさは声を薄くした結果ではなく、必要以上に強く当てない選択から生まれています。
洋楽カバーが、地声と裏声の「継ぎ目」を目立たなくした
デビュー前のATSUSHIさんは邦楽を歌うことが多く、指導者からスティーヴィー・ワンダーなどの洋楽を練習するよう勧められたと伝えられています。
ここが、現在の滑らかな歌い方を理解する大きな手がかりです。
R&Bやソウルでは、一つのフレーズの中で声の強さや響きを細かく変えます。
地声で押し通すのでも、裏声へ逃げるのでもなく、言葉に合わせて両者の距離を近づけなければなりません。

ATSUSHIさんの高音を、すべてミックスボイス、すべてファルセットと一語で決めるのは難しいでしょう。
専門家の説明でも、中高音を滑らかにつなぐ点を重視する見方と、高い音で息を含んだ裏声を自在に使う点を重視する見方があります。
説明が割れるのは、どちらかが間違いだからとは限りません。
曲、音量、母音によって声の割合が変わり、切り替えた瞬間を聞き手に意識させにくいからです。
ミックスボイスと裏声の違いで整理しているように、名前を当てることより、声質が急に別人のようにならない点を見る方が実用的です。
ATSUSHIさんらしさは、特定の声区ではなく、声区の間を移動する時のなめらかさにあります。
ビブラートは歌を飾るためではなく、言葉を着地させるために使う
ATSUSHIさんといえば、細かく整ったビブラートを思い浮かべる人も多いでしょう。
ただし、すべてのロングトーンを同じ幅で揺らしているわけではありません。
語りかける部分では真っすぐに近い音を保ち、フレーズの終わりで少しずつ揺れを加えます。
強い感情を見せる場面では揺れを早め、静かな場面では揺らし始めるまでの時間を長く取ります。
そのため、ビブラートだけを切り取って真似すると、原曲より歌が忙しくなります。
大切なのは揺れの回数ではなく、言葉をどこで終わらせ、次の無音へどう渡すかです。
「Precious Love」のようなバラードでは、長く伸ばす音より、その前後の短い言葉が感情の流れを作っています。
ビブラートは主役ではなく、言葉が着地したことを聞き手へ知らせる余韻として働きます。
二人で歌う経験が「相手を邪魔しない個性」を育てた
ATSUSHIさんのキャリアは、一人で目立つ歌手として始まったわけではありません。
EXILE第一章ではSHUNさんと、第二章以降はTAKAHIROさんと、二人の声で一つの曲を作ってきました。
デュオでは、自分の声を毎回最大まで鳴らすと、相手の声とぶつかります。
主旋律を受け渡し、同じ言葉を重ね、ハーモニーでは自分の輪郭を少し引く必要があります。

TAKAHIROさんは、ATSUSHIさんの歌には優しさと人間性が表れると語っています。
この「優しさ」は性格の印象だけではなく、相手の声が入る余白を残せる歌唱にも表れています。
「Lovers Again」では二人の声色が違っても、一方が急に前へ飛び出しません。
AIさんとの「So Special」や「No more」でも、声量を競うのではなく、フレーズの受け渡しで関係性を作ります。
一人で歌う時にも、その習慣は残ります。
伴奏やコーラスの音へ空間を譲るため、ATSUSHIさんの声は柔らかいのに曲の中心から外れません。
海外経験で変わったのは英語力より、声を一つの型へ閉じ込めない姿勢
2016年、ATSUSHIさんは活動拠点を海外へ移し、ボーカリストとして経験と引き出しを増やす道を選びました。
帰国後の「Just The Way You Are」では、Bruno Marsの曲を日本語詞で歌いながら、英語曲の滑らかさを日本語へ無理にかぶせてはいません。
日本語は一音ごとに母音がはっきりしやすく、英語と同じように崩すと歌詞が聞き取りにくくなります。
ATSUSHIさんは母音を長く残す場所と、子音を短く置く場所を分け、言葉を保ったままR&Bの流れへ乗せます。
高音を強く見せる曲だけでなく、低い音、話し声に近い音、息の多い音を同じ歌手の声として並べられるようになりました。
海外経験の成果は「英語らしく歌えること」より、優しい声を一種類のバラード声へ固定しなかったことにあります。
真似するなら息の多さより、声を出し切らない判断を見る
ATSUSHIさんへ近づこうとして、最初から息を大量に流すと、音程と言葉が先に崩れます。
さらにビブラートをすべての語尾へ加えると、柔らかさより癖の強さが目立ちます。
参考にしやすいのは、同じ曲の中で声を強くしなかった場所です。
サビへ入っても音量を一気に上げない箇所、長い音を真っすぐ保ってから最後だけ揺らす箇所、相手の声へ溶ける時に語尾を短くする箇所を見ます。
徳永英明さんの歌い方も息を含む高音が特徴ですが、徳永さんはかすかな揺らぎそのものが声色になります。
ATSUSHIさんは、滑らかな声区移動とデュオで培った余白によって、柔らかさを曲の構造へ組み込む傾向が強い歌手です。
声色を似せるより、どこで力を足さなかったかを見る方が、歌の設計を理解できます。
ATSUSHIさんの歌唱は、たくさん出せる人があえて出し切らない時に生まれる優しさです。
EXILE ATSUSHIの歌声は、弱さではなく制御された余白でできている
EXILE ATSUSHIさんの歌い方が優しいのに埋もれないのは、息声が特別だからだけではありません。
洋楽カバーで育てた声区の接続、言葉を着地させるビブラート、二人で歌うための引き算が組み合わさっています。
地声か裏声かを一音ずつ決めるより、切り替わる場所で音色を急変させないことに注目すると、歌の巧さが分かりやすくなります。
ビブラートも、揺らして目立つためではなく、言葉を穏やかに終わらせるための技術です。
柔らかく歌うことは、声を弱くすることではありません。
音程と言葉に必要な芯だけを残し、それ以上を押しつけないことです。
ATSUSHIさんの歌声が長く支持される理由は、強い声を隠しているからではなく、曲と相手のために強さを使い分けられるところにあります。






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