フランク永井の歌い方|低音の印象を支える響きと、明瞭な母音

「魅惑の低音 第12集」ジャケットのフランク永井 シンガー
「魅惑の低音 第12集」ジャケットのフランク永井

フランク永井の声を考えるとき、低い音程と、低く豊かに感じられる声色を分けてみると、その特徴がつかみやすくなります。
高い音の美しさや、日本語の母音も、その歌唱の魅力として取り上げられてきました。
低音という印象が、旋律の動きや言葉の明瞭さとどう結びついているのかを見ていきます。

「有楽町で逢いましょう」|「Frank Nagai Best」収録・公式配信音源

音程の低さと、声色の低い響きを分けて考える

「有楽町で逢いましょう」で知られる声は、魅惑の低音と呼ばれてきました。
そのため、歌われている音も一貫して低いのだろうと想像しやすい。
しかし、音程が低いことと、声に低い成分が豊かに感じられることは、同じ意味ではありません。

声帯の振動で生まれた音は、喉から口へ通る間に、その成分の強さが変わります。
振動の速さが音程に関わる一方、どの成分が強調されるかは声色に関わります。
例えば、同じ高さの音でも、母音を変えれば響きの印象は変わる。
音の高さと音色を分けることが、低く感じられる声で高い音を歌う特徴を理解する入口になります。

ただし、共鳴によって音色が変わることと、歌っている音程そのものが下がることは分ける必要があります。
声が深く聞こえるという印象だけで、本人の喉の動きや最低音を決めることもできません。
ここでいう低音の魅力は、音域の数字より、歌の中で声がどう感じられ、言葉がどう届くかという問題です。

高い音から降りるときにも、言葉として美しく歌う

作家の片岡義男は、フランク永井が高い音を無理なく、歌詞の言葉として美しく出せることに注目しています。
その高音があるから、低いところへ降りるときの巧みさが情感になる、という捉え方です。
低い一音だけの響きより、言葉を歌いながら高いところから降りる、その流れに魅力を感じています。

片岡の評で大切なのは、高い音を出せるという能力の話にとどまっていないことです。
旋律の上のほうでも言葉が美しく聞こえ、その言葉が低いところへ運ばれることで感情が生まれる。
この見方なら、低い音の響きだけを取り出すより、一つの歌詞が上がって降りてくるまとまりに耳を向けられます。

「おまえに」の曲評にも、低音に加えて高い声を評価する記述があります。
その評者は、冒頭のコーラスとギター、弦楽器が歌声を迎え入れ、歌の後にもコーラスが響く構成を描いています。
低い声だけが孤立して鳴るのではなく、ほかの声や楽器との間で、一人の声が現れる。
旋律の上下とともに、声を囲む音も、その豊かさを感じさせていると読めます。

「おまえに」|「Tadashi Yoshida Sakuhinshu/Frank Nagai」収録・公式配信音源

柔らかな声を、リズムの中で自然に動かす

ビクターのアルバム『フランク、ジャズを歌う』に掲載された高橋正人の解説は、「恋人よ我に帰れ」の甘く柔らかな歌い方に注目しています。
そこで挙げられるのが、クルーナー唱法です。
低音の存在感だけでなく、親しく語りかけるような声の柔らかさも、歌唱を捉える大切な要素になります。

同じ解説では、収録曲を通じた発音、スイング感、リズムの自然さも評価されています。
低い声をたっぷり響かせる歌手という印象と、軽やかにリズムに乗る歌手という印象は、両立するのです。
一音を長く保つところに加え、言葉を次へ送り、伴奏の流れに入っていく部分にも、その声の魅力があります。

高橋は「夜霧に消えたチャコ」の歌い回しにも、フランクが好んだビング・クロスビーからの影響を感じています。
これは、曲のジャンルを演歌と呼ぶだけでは、細かな表現を説明しきれないということでもあります。
日本語の歌謡曲にも、洋楽を歌ってきた人のフレーズの感覚が息づいているという評価です。

ジャズの「オール・オブ・ミー」などを収めた作品では、ジョージ川口や秋満義孝らとの共演も確認できます。
低音という声の看板に加えて、楽器と同じ時間の中で歌を運ぶ姿を考えると、柔らかさが停滞に聞こえない理由も見えてきます。

「フランク愛を歌う」ジャケットのフランク永井
「フランク愛を歌う」ジャケットのフランク永井。
画像出典:写真掲載元

「君恋し」は、繰り返す言葉を曲の山場にする

「君恋し」の表現には、本人が言葉の配置をどう捉えていたかが残っています。
1961年の『VOICE OF VICTOR』に掲載された上山敬三との対談の再録によると、フランクは、曲名になった言葉が歌の各所に現れ、山場でも強調される点に魅力を感じていました。
昔の曲であっても、その呼びかけは同時代の人に届くと考えていたのです。

さらに本人は、三番をすべて歌う形を取らず、繰り返しの部分から入った工夫を挙げています。
曲の中心にある言葉へ戻ることで、歌の印象を強くする。
声の低さだけでムードを作るのではなく、どの言葉をどこで再び聞かせるかも、歌の訴える力に関わっています。

ステージでの紹介にも、客席との距離を縮める工夫がありました。
本人の説明では、ほかの持ち歌を歌ったあと、マイクを持って客席へ降り、次に歌ってほしい曲を尋ねながら「君恋し」の出だしをささやきます。
すると客から曲名が返ってきて、場の期待が高まったといいます。

その小さな声は、弱くしか歌えないということではありません。
客が知っている言葉を近い距離で渡し、続きを待ってもらう働きをしています。
柔らかな声を、相手の反応まで含めて生かした場面として読むことができます。

フランクは、この曲の録音で昔の歌い方にとらわれず、自分の感覚で歌うことを大切にしたとも述べています。
低い声の持ち主というだけでは見えてこない、言葉の選び方、構成、客席への届け方が「君恋し」の表現を支えていました。

母音の美しさが、柔らかな声の言葉を伝える

フランク永井の歌だけを歌うコンクールでは、審査員長の井上博雄が、本人の日本語と母音の発声の美しさを取り上げた記録があります。
参加者へ求めたのは、歌詞をよく受け止め、日本語をもっとはっきり歌うことでした。
これを記録した出場者も、音の響きだけでなく、言葉を語る意識を決勝で持とうと受け止めています。

母音は、旋律の中で声を長く保つ部分にもなります。
そこが美しく聞こえ、何という言葉なのかも分かる。
井上の講評は、低い音色を似せるだけでは、この歌手の表現を受け継げないことを示しています。
高い音から降りるときも、柔らかく声を伸ばすときも、言葉としての輪郭が大切なのです。

フランク永井の歌い方は、低い音程を出すことだけでは説明できません。
共鳴から捉える声色、音程が動く中での言葉の美しさ、そして明瞭な母音が、その声を理解する手がかりになります。
慣れないリズムの曲へその声を生かした「WOMAN」の制作については、フランク永井の歌唱変遷でたどっています。

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