ハリー・スタイルズは「Two Ghosts」をOne Directionのために書きながら、結局はグループで発表しませんでした。
自分の話に近すぎて、数行ずつ歌い手が交代する形には預けられなかったのです。
曲は2017年のソロ・アルバムに収まりました。
それから約9年。
2026年の「Aperture」を作った彼は、自分のステージに立っていても、客席のダンスフロアの中にいるように感じられる音楽を望んだと話しています。
一曲を自分で歌いたかった人が、今度は聴き手と同じ場所に立ちたいと考える。
その間に歌はどう変わったのでしょうか。
One Directionでは、個人的な曲も声を分け合った
One Directionの曲では、メンバーが順番に歌を引き継ぎます。
2014年の「Night Changes」も、5人それぞれの声が一曲を進めていく作品です。
ハリーは2019年の取材で、グループで自分が曲を書いても、全編を自分だけで歌うわけではなかったと振り返っています。
誰かに声を渡せることは、個人的な気持ちを歌う際の安心にもなりました。
やがて、自分に近い言葉ほど、自分で最後まで歌いたいと感じるようになったのです。
転機の一つが「Two Ghosts」でした。
One Directionの『Made in the A.M.』を想定して書いたものの、本人には私的すぎた。
自分の言葉を、自分の声で最後まで歌うため、ソロ作へ持っていきました。

写真:javierosh(Flickr) / CC BY 2.0(掲載用に縮小)
2017年、一曲の言葉を自分の声で通す
ソロ・デビュー作に入った「Two Ghosts」は、2017年のスタジオ・ライブでも歌いました。
グループ用に書き始めた曲を、一人で最後まで歌っています。
同年の先行曲「Sign of the Times」は、別の規模で一人の歌を聴かせました。
ハリーは当時の取材で、ソロ・アルバムにはロックの曲とアコースティックなバラードがあり、この曲を書いたことでその間にも進む余地が見えたと話しています。
グループで担当する数行とは違い、長い一曲を自分の声で展開する仕事でした。
一人で歌える自由には、逃げ場のなさも伴いました。
初ソロ作を出した2017年の取材で本人は、これほど自分をさらけ出す音楽を世に出したことがなく、仲間と成功も失敗も分け合えないのが怖いと話しています。
「Two Ghosts」を自分で歌いたかった理由は、その怖さをなくしたからではありません。
怖くても、自分の言葉を自分で歌う方を選んだのです。
2019年、観客の歌声がポップスへのためらいをほどいた
初めてのソロ・ツアーでは、観客が自分の曲を歌う姿を見ました。
ハリーはその経験が自己受容につながり、聴き手は自分が試したり楽しんだりすることも受け入れてくれると感じたと振り返っています。
その後の『Fine Line』で「Adore You」を書くとき、率直に楽しいポップスを作ることへの怖さが薄れていたそうです。
2017年には一人で自分の言葉を歌う怖さがあった。
2019年には、その歌を受け取って一緒に歌う人たちがいると知った。
だから、重いバラードだけを「正直な歌」の形にする必要がなくなりました。
アルバム最後の「Fine Line」は、違う方向にも広がります。
本人の回想では、2018年1月、ツアーの合間に共同制作者の家でギターを鳴らし、声を重ねるうちに6分ほどの曲になりました。
主旋律を一度歌って終えるのでなく、録った歌へ別の歌を重ねていく作業が、一曲を広げたのです。
彼はツアー中もその曲を繰り返し聴き、アルバムの最後に置く曲だと考えていました。
ただし、最初に形になった長さで完成にしたわけではありません。
後に英国バースで制作を進めた時、サミー・ウィットが弾いたピアノの短いフレーズにハリーが手を加え、曲の終わりに使うことにしました。
もとの素朴なフォークの曲から、終盤が大きく展開する曲へ。
弦楽器や管楽器も加わり、長く聴き続けた一曲に、さらに行き先を作っていったのです。
歌い手一人が声量を増すだけで曲を大きくするのではなく、周囲の声や楽器に役割を渡す作り方です。
「Two Ghosts」を自分で歌うと決めた人は、他の声や音を遠ざけたわけではありません。
自分の歌を中心に据えたうえで、その曲に必要な音を増やせるようになっていました。
2022年、控えめな「As It Was」を先行曲に選ぶ
『Harry’s House』の「As It Was」では、共同制作者のタイラー・ジョンソンたちに迷いがありました。
大きな見せ場を作らない曲が、アルバムの最初に聴かれる歌として控えめすぎないか。
それでもハリーは、この曲を先行シングルに選びました。
2017年には「Sign of the Times」で長い一曲を大きく歌い切ったハリーが、2022年には控えめな「As It Was」をアルバムの入口に選びました。
先行曲に強い高音の見せ場を置かない、その選択が際立ちます。
「As It Was」の明るい伴奏と穏やかな声がどう一曲を動かすかは、ハリー・スタイルズの歌い方で詳しく扱っています。

写真:Raph_PH / CC BY 2.0(原版からトリミング・回転)
2026年、自分も客席の中にいるように歌う
2023年に長いツアーを終えてから、ハリーはほかの公演へ観客として足を運びました。
知らない人とも同じ曲を歌い、踊る時間が特別だったと、2026年の取材で話しています。
ベルリンのダンスフロアでは、目を閉じて踊るうちに涙が出た夜もありました。
その経験から考えたのは、舞台の上から歌を届けるだけでなく、自分も客席の中にいるように感じられる音楽です。
2026年のアルバム『Kiss All The Time. Disco, Occasionally.』では、最後に録った曲だと本人が説明する「Aperture」を、アルバムの一曲目に置きました。
長く遊び心のあるこの曲が、いまの自分を表す入口になったのです。
本人が「Aperture」の題に重ねたのは、自分に分かっていなかったことを認め、外から光を入れられるようになる感覚でした。
踊れる音にしたいという希望と、他の人や経験に心を開く歌の内容が、ここでは同じ方向を向いています。
自分の内側を歌い切ることから、周囲を受け入れることへ、曲を通して伝えたい姿勢も広がりました。
「Two Ghosts」はグループのために書き始めたのに、自分で歌うまで待った曲でした。
「Aperture」は制作の終盤で生まれたのに、最初に聴かせる曲になりました。
どちらも、歌を誰が、どこから聴き手へ届けるかを選んだ結果です。
一人で歌う怖さを引き受けたハリーは、今度は客席と同じ音楽の中に立つ方法を探しています。

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