2026年の「Beat Yourself Up」には、声を持つ人には、この世界でそれを響かせる場所がある、という言葉が出てきます。
チャーリー・プースは、この曲で励ましている相手は自分自身だと話しました。
ところが2018年の彼は、自分の歌声が好きではないと打ち明けています。
きれいな高音で世界に知られた歌手が、なぜ自分を励ます歌を作るようになったのでしょうか。
「See You Again」で友人を思った声から、『Voicenotes』で見つけた曲調、苦しかった経験を歌った『CHARLIE』、そして2026年の作品までたどってみましょう。
何を自分の声で歌ってよいと思えるか、その選び方が変わっていきました。
2015年|「See You Again」に重なった、本人の別れ
ウィズ・カリファと発表した「See You Again」は、映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』のために作られ、亡くなった俳優ポール・ウォーカーをしのぶ曲です。
チャーリーはポールと面識がありませんでした。
けれど自分にも、交通事故で友人を失った経験があり、その記憶を曲に込めたと当時の取材で話しています。
映画のための依頼から生まれた大ヒットにも、本人にとっての切実な理由がありました。
一方、初期の代表曲をすべて同じ調子にするつもりはなく、2015年には次のシングルごとに違う響きを選びたいとも語っています。
追悼曲の伸びやかな旋律で知られた声が、チャーリーの歌の全体だったわけではありません。
2016年に最初のアルバム『Nine Track Mind』を出したあと、本人は制作を急いだことに不満があったと振り返りました。
早くから大きな曲を持てたことと、自分に似合うアルバムを作れたと思うことは、別の話だったのです。
2017〜18年|「Attention」は、自分でも繰り返し聴きたい曲になった
転機となった「Attention」の最初のアイデアは、来日中のホテルでスマートフォンに録った短いリズムから生まれた、とチャーリーは説明しています。
2017年に発表したこの曲では、恋人への疑いを、弾むベースと細かなリズムの中で歌いました。
後に『Voicenotes』へ収めた曲の作り方は、彼がもともと好きだったR&Bやジャズにもつながっています。
2018年、本人は「Attention」を、自分が歌っていることを忘れるほど何度も聴きたくなる曲だと語りました。
自分の声を好きではないからこそ、それは大きな出来事でした。
高い声をさらに見せる方向ではなく、昔から好きだったR&Bやジャズの要素を生かし、自分でも気に入る音楽にたどり着いたのです。
『Voicenotes』については、前作よりずっと自分らしいと話しています。
子どものころから親しんだジャズとポップスを結びつけ、音楽を作る人としても歌う人としても、ようやく自分の好みを前に出せました。
ただ、「Attention」が好きになれたからといって、本人が自分の声への苦手意識を一度で消した、とまでは言えません。
この時期に見つけたのは、少なくともその声で歌いたい一曲でした。
自分らしさを探す中には、憧れの声を迎える選択もありました。
同作の「If You Leave Me Now」は、当初はすべてチャーリーの声で作っていた曲です。
本人によると、その時点ですでにボーイズIIメンの音楽を強く意識しており、完成版には彼らを迎えました。
自分の歌で近づこうとした響きを、今度は手本にしてきた歌手たちと一緒に作る。
好きな音楽を、自分が歌う作品へ取り込む方法も広がったのです。

写真:erintheredmc / CC BY 2.0
2022年|笑う声を、笑えない経験の中へ入れる
『Voicenotes』では先に音楽を考えてから言葉を付けることが多かった、とチャーリーは話しています。
2022年の『CHARLIE』では順番を変えました。
2019年からの自分の経験について言いたいことがあり、まず言葉を考え、その後に曲を作ったのです。
「That’s Hilarious」は、その変化がよく見える曲です。
相手とのつらい関係を歌いながら、彼は笑い声のような「ハハハ」という声も加えました。
重い話の中に軽さを置きたかった、と本人は説明しています。
明るい曲を歌うための飾りではなく、簡単には笑えない記憶を、あえて笑いと同じ歌に入れました。
2015年の「See You Again」にも本人の経験はありました。
だから、ここで初めて本音を歌ったわけではありません。
違うのは、以前は歌にしにくかった自分の怒りまで、曲の中心に置けるようになったことです。
録音した声の選び方についても、同じ2022年の本人は、少し音程を外したことに以前ほど腹を立てなくなったと話しています。
キャロル・キングの歌を例に、音のわずかな揺れにも、その演奏を特別にする良さを感じていました。
率直な言葉を書く変化と並んで、声の細部をすべて正確にそろえることへの考えも、柔らかくなっていたのです。
声を細部まで直す人でありながら、曲作りの途中で録った仮歌を残す。
その一曲内での選び方は、チャーリー・プースの歌い方で詳しく扱っています。
変遷の鍵になるのは、その歌で何を隠さずに話すようになったかです。
2025〜26年|言葉を向ける先が、自分にも広がった
2025年の「Changes」では、離れていく友人との距離を歌いました。
続くアルバム『Whatever’s Clever!』で、チャーリーは2026年、これまで歌わなかったようなことを言葉にしたと説明しています。
以前より具体的な歌詞を書こうと考え、その言葉から音楽を作ることも、この作品で続けました。
「I Used to Be Cringe」では、人に受け入れてもらいたくて、昔は自分を取り繕ったと歌います。
本人も当時を振り返り、見た目や話し方まで変えて、どうすれば自分の音楽を聴いてもらえるか気にしていた、と話しました。
その姿を笑って切り捨てるのではなく、なぜそうしたのかまで曲に残しています。
「Beat Yourself Up」で彼が励ましていたのは、失敗をしてきた自分でした。
本人は、音楽だけでは十分だと思えず、過去には言うべきでないことまで口にした、と振り返っています。
それでも失敗だけを数えて自分を責め続けるより、その経験も今の自分を作ったと考えるようになりました。
「That’s Hilarious」でつらい相手へ向けていた言葉が、今度は過去の自分にも向かう。
2018年に自分の声を嫌いだと言った歌手が、2026年にはその声を使い、自分のことを励ます歌を作っています。
言葉を向ける相手が、恋人や友人から、過去の自分にも広がりました。
2026年|初期の歌を、仲間と別の形にする
同じ年に公開されたNPRのTiny Desk公演で、チャーリーは「See You Again」と「Attention」を再び歌いました。
小さな場所で、鍵盤、ギター、ベース、ドラム、3人のバックコーラスと演奏した公演です。
初期のヒット曲も、当時の録音をなぞるためだけには選んでいません。
冒頭の「We Don’t Talk Anymore」については、この形で発売したかったと冗談交じりに話しています。
制作側のレポートが伝えるのは、和音の重なりや演奏の余白を生かした、新しい編曲です。
昔の歌を今も歌うことは、当時の自分を肯定するだけでなく、その曲に別の可能性を見つける機会にもなりました。
「Attention」では演奏の終わりをバンドと長く広げ、「See You Again」では自分の音楽に教会の影響があると話しました。
後者は、2015年のウィズ・カリファとの録音とは歌う人数も編成も異なり、コーラスを交えた形になっています。
2015年にはラップと旋律を分担した曲を、今度はコーラスを含む仲間の歌とともに作り直しました。

写真:Brunnaiz / CC BY-SA 4.0
『Voicenotes』で初めて自分でも聴きたくなった「Attention」を、2026年のチャーリーは、仲間と演奏を広げながら歌っています。
「See You Again」も、友人を思った2015年の録音とは違う編成で歌いました。
2018年の「自分の声が嫌い」という一言だけでは、その後の歌を言い表せません。
怒りを笑いとともに歌い、かつての自分を励まし、初期の曲を仲間と歌い直す。
声に何を託し、誰と歌うかを選び直しながら、その声で話せることを増やしてきたのです。

こちらの記事もおすすめ






コメント