「See You Again」のやわらかい高音で知られるようになったチャーリー・プースは、最初から自分の声に満足していたわけではありません。
大きなヒットを経験した後の2018年にも、自分の声が好きではないと話していました。
それでも「Attention」は、自分が歌っていることを忘れそうになるほど、何度も聴きたい曲になったといいます。
良い声だと言われることと、その声で自分らしい歌を歌えていると思えることには、距離があったのです。
初期のバラードから『Voicenotes』、2022年の『CHARLIE』、2026年の『Whatever’s Clever!』へ。
その歩みには、歌をうまく仕上げることに加え、自分の経験をどこまで声にするかという変化があります。
2015年の「See You Again」と、2026年に同じ曲を歌ったTiny Deskを比べながら、途中にどんな試行錯誤があったのかを見ていきましょう。
2015年――やわらかい高音で、友人に呼びかける
ウィズ・カリファの「See You Again」に参加したころ、チャーリーはまだデビュー・アルバムを出す前でした。
ウィズのラップと、チャーリーの伸びる歌声。
語るように進む言葉と、旋律に乗せて長く残す言葉の組み合わせが、この曲の形になっています。
映画『ワイルド・スピード SKY MISSION』でポール・ウォーカーをしのぶ曲として知られていますが、チャーリー自身にも、事故で友人を失った経験がありました。
本人は2015年、その記憶を曲に込めたと語っています。
初期の歌にも、本人の経験と結びついた切実さがあったのです。
一方で、当時から、チャーリーはすべてのシングルを同じ雰囲気にはしたくないと話していました。
メーガン・トレイナーと歌う「Marvin Gaye」と、恋する気持ちを歌う「One Call Away」では、目指した曲調も違います。
甘いバラードの声が広く知られても、それだけが自分の音楽だとは考えていませんでした。
2017〜2018年――「Attention」で、自分の声の居場所が見えた
2017年の「Attention」、そして2018年のアルバム『Voicenotes』では、ベースやリズムの存在感が増します。
高音を長く伸ばすだけでなく、言葉をリズムの中に置いて歌う楽しさが、より前に出てきました。
この変化は、本人にとっても大きなものでした。
チャーリーは「Attention」を、自分で繰り返し聴きたい曲になったという理由で、転機として挙げています。
自分の声が苦手だと思っていた人が、その声を含めて曲を楽しめるようになったのです。
『Voicenotes』の背景にあるのは、本人が幼いころから親しんできた音楽でした。
ジャズのピアノを学びながら、家族の聴くR&Bやポップスにも触れていた。
チャーリーは、ジャズとポップスには、思った以上に共通するコードの動きがあると気づいていきました。
その経験が、歌いやすい旋律の下に、少し複雑な響きを忍ばせる音楽につながっています。
難しい音楽を分かる人だけに聴いてほしかったわけではありません。
本人は『Voicenotes』を、ポップスに姿を変えたジャズのように説明し、子どもたちも一緒に歌ってくれることを喜んでいました。
親しみやすい声と、細かく工夫した伴奏が、ようやく自分らしい一枚としてまとまったのでしょう。
2022年――笑う声の下に、怒りを残す
2022年の『CHARLIE』では、チャーリーは自分の経験を、以前より具体的に歌うようになります。
本人は、2019年から2022年にかけての出来事を歌った作品だと説明しています。
「That’s Hilarious」は、その変化が分かりやすい曲です。
題名だけなら、何か面白い出来事を笑っている歌にも見えます。
ところが、歌っているのは、相手に振り回され、大切な時間を失ったという苦い気持ちです。
曲の中には、笑い声のように歌う部分もあります。
本人は、重い話の中にも軽さを置きたくて、その声を加えたと説明していました。
ここでは、なめらかで明るく聞こえる声が、素直な喜びを表しているとは限りません。
笑うような声と、簡単には笑い飛ばせない怒りが、一曲の中にある。
「See You Again」で友人へ向けていた優しさとは、歌が伝えようとする感情も変わっています。
同じ時期、チャーリーは、歌の音程がわずかに揺れることを、以前ほど気にしなくなったとも語っています。
自分の話を具体的に歌いながら、その声を完璧にそろえることからも、少し離れ始めていました。
仮歌を残す判断や、どこまで歌を手直しするかという考え方は、チャーリー・プースの歌い方で詳しく扱っています。

2026年――相手への言葉が、自分にも向く
2026年3月に発表した『Whatever’s Clever!』では、歌の相手がさらに広がります。
「Beat Yourself Up」は、自分を責めすぎなくていいと伝える曲です。
誰かを励ましているように聞こえますが、本人がまず思い浮かべていたのは、自分自身でした。
音楽の世界に入ってから、失敗も、余計な発言もあった。
自分の音楽だけでは十分ではないと思い、無理をしていた時期もあった。
チャーリーは、その過去を責め続けるのではなく、失敗をしてきたから今の自分がいると考えるようになったと話しています。
「That’s Hilarious」では、相手に奪われた時間を歌っていました。
「Beat Yourself Up」では、過去の自分に、もう責め続けなくていいと声をかける。
明るさを含んだポップスでも、言葉を向ける相手と、その相手への態度が変わっています。
同じアルバムの「Cry」も、感情を隠さずに出してよいと伝える歌です。
本人はこの作品について、何を歌うかを先に考え、その後に音楽が続いたと説明しています。
どんな音を作れるかという発想に加えて、自分が何を言いたいのかが、歌を動かす力になっていました。
2026年の「See You Again」――同じ曲を、仲間と広げる
その年の8月、NPRのオフィス内で演奏する音楽企画Tiny Deskで、チャーリーの公演が公開されました。
初期のヒット曲も、今の本人が考える形で歌い直しています。
ピアノやベース、ドラム、ギターに、3人のバックコーラス。
目の前の演奏者たちと、声や楽器の音を重ねていく、小さなコンサートです。
演目は「We Don’t Talk Anymore」「Attention」「See You Again」「Changes」の順です。
最初の曲を歌ったチャーリーは、こういう形で世に出したかったのだと話しています。
そして3曲目の「See You Again」では、自分の音楽に教会の影響があることにも触れました。
2015年の録音では、ラップと旋律の役割が分かれ、チャーリーの声が友人へ呼びかける部分を担っていました。
Tiny Deskでは、バンドとコーラスが加わり、礼拝の歌のような温かさへと広がります。
一人の声の伸びに注目するだけでなく、その声に周りの歌や演奏がどう加わるかまで楽しめる形です。
若いころの歌を、そのまま保存して見せるためのステージではありませんでした。
本人が親しんできたジャズや教会の音楽を、もっとはっきり出して、よく知られた曲を歌い直している。
『Voicenotes』でポップスの中に忍ばせていた音楽の好みが、演奏のやり取りとしても伝わる公演になっています。

同じ声で、歌える気持ちが増えていった
チャーリーの初期と今を比べると、若いころは技術だけで、後になって感情を覚えた、とは言えません。
「See You Again」の時点で、歌には本人の別れの記憶がありました。
変わってきたのは、どんな経験まで歌に出せるかと、その声をどう受け止めるかです。
「Attention」では、自分の声を含めて聴きたくなる曲ができた。
「That’s Hilarious」では、怒りと笑いが同じ歌に入った。
そして2026年には、うまく振る舞えなかった自分を励ます歌も生まれました。
高音のきれいさは、早くから彼の魅力でした。
その声で、親しい人への思いも、相手への腹立ちも、自分へのいたわりも歌えるようになる。
今のチャーリーを聴く面白さは、声の高さや正確さに加えて、以前なら歌わなかったことまで、その声で話してくれるところにあります。
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