田中樹の歌を、SixTONESの曲に切れ味を加えるラップから知った人は多いでしょう。
ただ、現在の姿からは意外なことに、最初からラップを自分の進む道と決めていたわけではありません。
任された役割を引き受け、好きな音楽として掘り下げ、その経験を歌い方へ戻してきました。
英語の録音に苦戦したデビュー期から、声と言葉を一人で担うソロ曲へ。
変わってきたのは、できることの数だけでなく、その曲で何をしたいかを自分で選ぶ余裕でもあります。
作品と本人の振り返りを重ねると、その過程が見えてきます。
ラップを任された少年が、自分の武器として学び始める
幼い頃からヒップホップに触れていた田中ですが、ラップを担当し始めた頃には、真ん中でバラードを歌いたい気持ちもありました。
転機として本人が挙げるのは、高校2年生頃です。
続けていくなら自分の武器にしようと、曲を聴き、文化を学ぶうちに、役割だったものが好きな音楽へ変わっていきました。
始めのうちは、先輩グループのラップを歌う経験を積んでいました。
2021年には、日常で思いついた言葉や韻をメモに残す習慣を語っています。
完成したラップを覚えるだけでなく、自分の生活の中から、曲に使える言葉を拾うようになっていたのです。
この二つの段階を分けて考えると、田中のラップが単なる担当パートで終わらなかった理由が分かります。
歌える部分を与えられることから、その部分を自分ならどう作るかへ、関わり方が深まっていったのでしょう。
その蓄積は、CDデビュー後の曲作りでも力になります。
2020年、英語に苦戦した録音と、経験が生きた「NAVIGATOR」
2020年のデビュー曲「Imitation Rain」では、8小節の録音に12時間を費やしたと田中は振り返っています。
そこで英語の発音を強く意識するようになり、次の「NAVIGATOR」では、英語を増やしてほしいと自ら望みました。
苦戦した経験を、次の挑戦を選ぶ理由にしていたのです。
「NAVIGATOR」のラップ制作では、それまで聴いてきたヒップホップの蓄積が生きたといいます。
一度歌い、少し手直しする流れで、短時間のうちに形になりました。
この曲の録音ではメンバー同士が歌い方を合わせすぎないよう、それぞれ別に録っていたことも語っています。
デビュー曲で長い時間をかけたことと、次の曲をすばやく形にできたことは、歌唱力を時間だけで比べる話ではありません。
発音を詰める課題と、自分の中にあるリズムや言葉を出す課題では、求められる仕事が違います。
学ぶ部分を残しながら、すでに持っている強みを曲に使えるようになっていた点が大切です。

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同じ2020年には、ラジオの放送局ごとに内容を変える34局分のラップ制作にも挑戦しました。
基本のトラックが共通でも、土地に合う言葉や、その言葉を乗せる流れは作り直す必要があります。
田中は後年、この仕事で技術が鍛えられたと振り返っています。
2020年の「So Addicted」では、デモで英語だった歌の部分に合わせ、自分のラップも英語にすると決めました。
本人は「love u…」の続きを考え、二曲を物語としてつなげています。
言葉を発音するだけでなく、何を語る声なのかまで組み立てる仕事が、デビュー年から始まっていました。
2021〜2022年、相手の声と組むことで広がった表現
2021年の『FNS歌謡祭』では、Creepy Nutsと「かつて天才だった俺たちへ」を披露します。
R-指定がリハーサルで細かな掛け合いを提案すると、田中はすぐに対応したと、共演後に語られました。
一節ずつ歌うだけでなく、韻を踏む部分に声を重ねる、ラップならではの受け渡しが実現しています。
一方、同年の「マスカラ」では、京本大我が歌う1番と、自分の2番に、同じ言葉でも異なる音の動きがあることに戸惑いました。
本人はそこに、ひとつの曲が複数の表現を持つ面白さを感じています。
ラップの技巧を磨くのと並行して、メロディを歌う時にも、新しい表現の仕方を受け取っていました。
2021年には、テレビでONE OK ROCKの「Wherever you are」にも挑戦しました。
田中には、ラップの印象を持つ人へ、歌もできると感じてもらいたい意欲がありました。
自分の得意分野を深めることと、別の面を知ってもらうことが並んでいます。
2022年の京本とのユニット曲「With The Flow」では、その二人がギターと歌、ラップを組み合わせます。
田中はラップ詞を書き、別々に録音した二人の声が、うまく釣り合ったと振り返っています。
京本にとっても、普段とは違うロックの感触に挑む曲でした。
六人の中で自分の声を目立たせることに加え、相手の声があるから成立する表現へ。
掛け合いでは入る場所を受け取り、ユニットでは別の役割を持つ声と曲を作る。
この時期の広がりは、ラップが速くなったという一本の物差しでは捉えにくいものです。
2023年、「Sorry」で一人の歌として物語を引き受ける
2023年、「CREAK」の初回盤Bに収められた「Sorry」は、CDデビュー後初のソロ楽曲でした。
田中が望んだのは、六人で培ってきた表現を、一人でもっと深く扱うことです。
以前から気に入っていたデモを選び、R&Bの曲に、自分が歌う意味を持たせるためラップ詞でも参加しました。
「Sorry」では、同じ言葉でも、曲の中の場所によって意味が変わるようにしたといいます。
一曲を担う声として、物語のつながりまで考えた表現です。
同じ年の「CREAK」では、拍にぴったり乗せたくなる伴奏に対し、あえて言葉を少し遅らせ、最後は拍に合わせる工夫をしています。
自分のパートを正確に歌うことから、どう置けば曲が面白くなるかへ。
歌い回しを自分で設計する姿勢が、具体的な録音の選択にも表れています。
「No Cap」へ進んでも、挑戦の難しさは消えない
2024年、ELLY、RYOKIと「Lose Yourself」を歌った際には、強い緊張も経験しました。
自分の音楽の原点に関わる曲を、尊敬する相手と歌う重圧があったといいます。
髙地優吾も、本番に向けて田中が楽屋で繰り返し練習していたことを語っています。
経験が増えれば、どんな場でも簡単に歌えるようになる、という歩みではありません。
大切な曲を任されるほど、求める水準も上がる。
田中の表現の広がりには、新しい場所で感じる難しさに向き合う時間も含まれています。
2025年の「BOYZ」初回盤Bには、T.Kuraを迎えたソロ曲「No Cap」が収録されました。
「Sorry」に続き、一人の名義で別の曲調に取り組む機会です。
「No Cap」では作詞作曲にも名を連ね、本人にとっても、とりわけ難しい録音になりました。
重い低音を持つトラックの上で、冷静な声色と変化に富んだ歌い回しを組み合わせる曲です。
一人で物語を運ぶ「Sorry」とは異なる、自分の存在を押し出す表現へ踏み込んでいます。
2026年、変わったのは自分らしさを出せる余裕

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デビューから6年がたった2026年、田中は、自分が大きく別人になったとは考えていません。
その一方で、仕事の経験によって心に余裕が生まれ、デビュー時には出せなかった自分なりのやり方を、歌い方にも反映できるようになったと語っています。
この振り返りは、それまでの曲をつなぐ言葉になります。
発音を学び、相手との掛け合いを経験し、ソロでは物語や自分の存在を一曲に託してきた。
経験を増やすだけでなく、必要な場面で自分の選択として使えるようになることが、田中の変化なのでしょう。
ラップを任された頃の役割は、今もSixTONESの中にあります。
そこに、違う歌い回しを考える自由と、一人でも曲を担う表現が加わりました。
声や言葉をどう使い分けるのかは、田中樹の歌い方で曲ごとに掘り下げています。







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