ノエル・ギャラガーの歌い方|柔らかな声と裏声で、曲の表情を変える理由

2023年『Council Skies』期のノエル・ギャラガー シンガー
2023年『Council Skies』期のノエル・ギャラガー

ノエル・ギャラガーの歌を、リアムより穏やかな声とだけ捉えると、大切な部分を見落とします。
柔らかな声をビートに乗せる曲もあれば、裏声で軽妙な表情を作る曲もあります。
さらに録音では、声を重ねて厚みを出す場合と、少ない演奏で歌を残す場合があります。

どの声を、どんな伴奏の中に置くのか。
ノエルの歌い方を理解するには、強いか弱いかだけでなく、その組み合わせを見ると分かりやすくなります。

リアムと同じ音を歌っても、同じ歌にはならない

ノエルは「Supersonic」を例に、同じ旋律や言葉を歌っても、リアムにはより迫るような響きがあると説明しています。
声の音色だけでなく、届け方や態度も違う。
自分の持ち味は、もう少し肩の力が抜けたものだと捉えています。

これは、どちらの声が優れているかを決める話ではありません。
曲を書いた人にも、その曲を最も強く響かせる声が自分とは別にあると分かる。
その判断が、ノエル自身の歌い方を考える出発点になります。

声に合わせるため、キーを変える場合もあります。
ノエルは2018年、「Go Let It Out」を歌うにはキーを上げる必要があると説明しました。
リアムと自分では声域が違い、原曲と同じ高さがそのまま最適になるとは限らないのです。

穏やかな歌手だから低いキーを選ぶ、とも限りません。
勢いのある声かどうかと、どの高さで歌いやすいかは、別に考える必要があります。
ノエルの声をリアムの代用品として聴くより、その人に合う高さと表現を選んだ歌として聴くほうが、違いが見えてきます。

裏声は、曲に軽さやとぼけた表情を与える

「The Importance of Being Idle」では、裏声と、言葉をゆっくり引く歌い回しが、曲のユーモアを支えています。
高い音を到達点として示すだけでなく、歌の人物の気ままな感じを伝える声になっています。

「The Death of You and Me」も、アコースティックギターに続いて裏声が現れる曲です。
後半のブラスを含め、少し芝居がかった音楽の中で、ノエルの高い声が役割を持っています。

裏声を使うと聞くと、繊細なバラードや高音の見せ場を思い浮かべるかもしれません。
ノエルの場合は、曲の軽やかさや、真面目一辺倒にならない表情にもつながります。
同じ歌手の声なのに曲の人物が違って感じられる、その一因です。

「Falling Down」は、声の柔らかさとビートの対照

「Waiting for the Rapture」では裏声が目立つ一方、「Falling Down」では柔らかな歌の線が、跳ねるようなビートの上に置かれています。
同じ『Dig Out Your Soul』の中でも、声とリズムの関係が違います。

伴奏に勢いがあるからといって、歌も同じ強さで押し続ける必要はありません。
ビートが動き、声が柔らかく流れることで、曲の中に二つの動きが生まれます。
ノエルの穏やかさを、迫力の不足と取り違えないための具体例です。

歌だけを取り出して声量を比べるより、楽器が何を担い、その上で歌が何をしているかを考える。
すると柔らかな声にも、曲をまとめる働きがあると分かります。

2017年の取材に掲載されたノエル・ギャラガー
2017年の取材に掲載されたノエル・ギャラガー。
画像出典:画像掲載元

録音で聴こえる厚みには、声を重ねる工夫もある

ソロ初作で組んだデイヴ・サーディは、歌い方そのものを指示するより、曲に合うマイクを選び、声を二重、三重に重ねていました。
ノエル自身も、露骨に重なって聞こえない仕上げに驚いています。
録音の声の厚みには、こうした制作の工夫も含まれています。

『Council Skies』のエンジニア、カラム・マリーニョも、歌い方に応じてマイクを選んだと説明しています。
表題曲では、録った声を複製して少し荒れた質感を加え、歌の存在感を調整しました。
主旋律とバックコーラスには共通の残響を使い、同じ空間にいるようにまとめています。

残響は、完成後に足すだけのものでもありません。
ノエルが録音する際、ヘッドホンへ返す声にも、プレートと呼ばれる装置の残響が加えられています。
自分の声をどんな響きの中で受け取るかという、歌っている最中の環境も整えられているのです。

だから、作品で声が太く感じられる部分を、すべて喉の使い方だけで説明することはできません。
本人が出した声と、その声をどう録り、どう組み合わせたかを分けて考える必要があります。
歌唱の良さを消す加工ではなく、曲の中で歌をどう見せるかという共同作業です。

「Dead in the Water」に残った、作り込みの少ない歌

対照的なのが「Dead in the Water」です。
2015年のラジオ出演時、スタジオでのピアノとアコースティックギターによる演奏を、本人が気づかないうちにエンジニアが録っていました。
その演奏が、後にアルバムへ残ることになります。

ノエルは同年の『Chasing Yesterday』でも、デモを作る気分で、少しずつ違う歌を数回録る方法を選んでいます。
細部を同じ形へそろえるより、その時の自然な歌を生かす考え方でした。

何度も歌い直す前に出てきた歌に、作品として残す価値を認める。
この姿勢を知ると、声の重なりが豊かな曲と、少ない伴奏で歌う曲を、矛盾なく捉えられます。
大切なのは加工の多さや少なさそのものではなく、その歌に合う残し方です。

観客が歌う曲では、伴奏の厚さだけが力にならない

「Don’t Look Back in Anger」について、ノエルは2018年、当時はエレクトリックな形で演奏するのがしっくり来なくなったと話しています。
マンチェスターで人々が共に歌った経験を経て、曲を賛歌のように受け止めるようになっていました。

たくさんの声が加わる歌では、歌手一人で音を埋め尽くす必要もなくなります。
作り手の声を通じて、観客も歌に参加できる。
ノエルの歌の力には、録音で作る響きに加え、曲が人々に共有されていることも関わっています。

歌いやすさだけで、曲の可能性を決めない

「I’m Not Giving Up Tonight」では、歌唱に少なくとも20テイクを要しました。
ノエルは発売時、ライブで歌うことにも消極的でした。

ソロ制作についてノエルは、歌詞を別の歌い手に納得させる必要がなくなったとも話しています。
自分が歌うからこそ、言葉や曲をより自由に動かせる。
歌唱と曲作りが、別々の作業ではなくなっています。

自分に合うキーを選ぶことも、難しい曲へ挑むことも、曲を届けるための判断です。
ノエルの歌を一つの発声の型にまとめるより、裏声の軽さ、ビートに対する柔らかさ、録音の厚みを、曲ごとに見ていく。
そうすると、リアムとは違う声で数多くの歌を成立させてきた理由が、具体的に見えてきます。

歌うことへの自信や、制作での判断が育った歩みは、ノエル・ギャラガーの歌唱変遷でたどっています。

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