田中樹の歌を特徴づけるものは、ラップの速さだけではありません。
強い声がほかのメンバーの柔らかさを際立たせることもあれば、伴奏に対して言葉を少し遅らせることもあります。
声そのものの個性と、その声を置く場所の両方で、曲に違いを作る歌い手です。
では、その違いはどのような選択から生まれるのでしょうか。
「こっから」「CREAK」、そしてソロ曲を手掛かりに、声色、リズム、言葉の意味を分けて見ていきます。
「こっから」で分かる、強い声を生かす六人の対比
田中は、声を音として捉えた時、少し引っ掛かりのある個性を好むと語っています。
SixTONESでは六人が違う表現を持つことを大切にしていて、全員を同じ印象にそろえることが目標ではありません。
自分の声の輪郭を残すという考え方が、その土台にあります。
「こっから」の録音について、京本大我は、ジェシーや田中の歌い方が力強いため、自分には柔らかいニュアンスが求められたと振り返っています。
京本自身は強く歌うパターンも録りましたが、採用されたのは六人のバランスを考えた歌でした。
田中の声の強さは、次の人の歌い方を決める条件にもなっているのです。
ここでは、一人ずつが同じように迫力を出せば曲が完成するわけではありません。
強く押し出す声のあとに柔らかな声が来るから、表情の切り替わりが生まれます。
田中のパートだけでなく、その前後の声まで含めて考えると、声色の役割が分かりやすくなります。

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「love u…」では、迫力と違う魅力を担う
田中は、勇ましい歌い方だけで語られる歌手ではありません。
「love u…」「So Addicted」では甘さや切なさが、「Bella」では艶のある表現が評価されてきました。
「EXTRA VIP」での強さも含め、曲によって声の印象を変える幅があります。
「love u…」は、田中が多数の候補の中から強く推した曲でした。
本人は、夜にくつろぐ時間に似合う音楽として、その魅力を説明しています。
一方で「NAVIGATOR」は、音楽そのものに集中して向き合ってほしい曲として捉えていました。
この違いを踏まえると、同じ歌い手がいつも同じ強さで声を押し出す必要はないことが分かります。
曲の中で存在感を示す方法は、勢いを増すことだけではありません。
柔らかさや艶を担う曲も並べることで、ラップ担当という呼び方だけでは収まらない表現が見えてきます。
「CREAK」は、拍から少し離れて戻る歌い回し
「CREAK」で田中がこだわったのは、言葉をリズムに乗せる位置でした。
弦楽器の音を聴くと拍にきっちり合わせたくなるため、あえて少し遅らせたり、ずらしたりして歌い、最後には拍に合うようにしたと説明しています。
曲のテンポを変えずに、声の入り方で流れを変える選択です。
すべての言葉を伴奏と同じ位置に置く場合と、少し遅れて入ってから合流する場合では、声と伴奏の関係が変わります。
後者では、言葉が出てくるまでの小さな間も表現の一部になります。
田中のラップを考える時は、何文字を速く言うかに加え、伴奏とどこで重なり、どこで離れるかが手掛かりになります。
また、この工夫は「遅く歌えばよい」という意味でもありません。
最後を拍に合わせる着地点があるから、その前のずれを使えるのです。
自由に聞こえる歌い回しの中に、曲との合流点を決める仕事があります。
「So Addicted」で選んだ英語と、細かなリズム
「So Addicted」では、英語で歌うことを田中自身が選びました。
日本語でもよいと提案されていましたが、デモから受けた感触を生かそうとしたのです。
この曲を話題にしたR-指定は、三連符のリズムや細かな音の分け方に触れ、英語での歌い回しを評価しています。
英語を選ぶことは、歌詞の意味を別の言語にするだけの話ではありません。
同じ拍の中で言葉をどのくらい細かく動かすかという、リズムの選択とも関わります。
「CREAK」のように拍から離れる工夫と、この曲で細かく刻む工夫は、どちらも言葉と伴奏の関係を変える方法です。
田中は普段から、使えそうな言葉や韻を思いつくと書き留めています。
歌う直前だけでなく、日常の中でも言葉を集める作業が続いています。
即座に出てきたように感じるラップにも、そうした蓄積があります。
歌とラップが、それぞれの役割で一曲を作る
京本との「With The Flow」は、歌とラップの違いを生かす例です。
京本はギターとボーカル、田中はラップを担い、別々の録音でも釣り合う形になりました。
ライブでは、田中のラップに京本が即興のギターを合わせる時間も作っています。
Creepy Nutsとの「かつて天才だった俺たちへ」でも、声を受け渡す細かさが表現になりました。
一行ずつ交代するだけでなく、韻を踏むところに声を重ねる。
相手のラップのどこに入るかを決めることで、二人の掛け合いが作られています。
一人で最後まで歌う時と、声を渡し合う時では、求められる仕事が変わります。
自分の声を保ちながら、相手の出番や言葉の区切りを受け取る必要があるからです。
田中の表現を支えるのは、声の強さに加え、ほかの声が入る場所を生かすリズムの扱いでもあります。
「Sorry」は、同じ言葉でも同じ意味にしない
ソロ曲「Sorry」では、六人で表現してきたことを、自分一人で丁寧に深めようとしました。
ラップ詞にも加わったのは、自分が歌うことに説得力を持たせるためです。
誰の言葉として届けるかが考えられています。
本人が重視したのは、同じ言葉でも、曲が進んでから出てくると別の意味になることでした。
繰り返しを、同じ内容の再確認だけで終わらせない作りです。
この曲を考える時は、声の大きさだけで感情の深さを測ると、取りこぼすものがあります。
前にどんな言葉があったかによって、次の一言の意味は変わるからです。
田中の表現には、強さやリズムで違いを作る面と、歌を通して言葉の受け止め方を変える面が共存しています。
声の個性を残しながら、動かす部分を選ぶ
「No Cap」では、冷静な声色を保ちながら、歌い回しを多彩に変える表現が前に出ます。
声色まで大きく変え続けなくても、言葉の流れを動かすことで展開を作れるのです。
「こっから」では、ほかの声と並ぶことが強さを生かします。
「CREAK」では伴奏との位置関係を変え、「Sorry」では言葉が持つ意味を一曲の中で動かす。
田中の歌い方の面白さは、すべてを一度に強くするのでなく、その曲で何を変えるかを選ぶところにあります。
声色、リズム、物語の流れは、それぞれ違う役割を担っています。
その組み合わせとして聴くと、ラップとメロディのどちらにも、田中らしさを見つけやすくなるでしょう。
こうした選択が広がってきた歩みは、田中樹の歌唱変遷でたどっています。







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