ジャスティン・ビーバーの歌い方|「Love Yourself」の優しい声が、冷たく響く理由

2015年11月、ローズモントのイベントでのジャスティン・ビーバー シンガー
Lou Stejskal / CC BY 2.0

「Love Yourself」は、題名だけを見ると、自分を大切にしようと励ましてくれる歌のようです。
ギターの音も、ジャスティン・ビーバーの声も柔らかい。ところが、歌われているのは、自分勝手な相手との関係にうんざりし、もう付き合いきれないと突き放す気持ちです。

怒鳴らなくても、言葉は十分にきつく響く。
2015年の『Purpose』に収められたこの曲には、ジャスティンの歌い方の面白さがよく表れています。声の優しさを、そのまま優しい感情に結びつけないところが、聴くほどに効いてきます。

大げさに怒らないから、別れの決意が伝わる

「Love Yourself」の歌は、相手に向かって話すように始まります。
言葉を短く区切り、語尾を必要以上に引っ張らず、ギターのリズムに合わせて進む。息の混じった柔らかな響きもあって、声だけなら親密な会話のようです。

けれども、話している内容は甘くありません。
相手への不満を並べながら、もう自分はその関係から離れている、と告げていきます。優しい声であるほど、取り乱している感じが薄れ、判断はもう済んでいるように聞こえるのです。

ここで怒りを大声に変えたら、まだ言い争いが続いているようにも感じられるでしょう。
ジャスティンの穏やかな歌い方には、相手を説得するために必死になるより、淡々と話を終わらせるような冷たさがあります。

サビに来ても、曲全体を大きな叫びへ変えません。
覚えやすい短い言葉を、すっと口にする。その軽さのまま別れを言えるところに、この歌の皮肉があるのです。

もとは、もっと直接的に相手を拒む言葉だった

この曲をジャスティン、ベニー・ブランコと共に書いたエド・シーランは、初期の歌詞では、もっと露骨な罵り言葉を使っていたと話しています。
その段階で歌い手として思い浮かべていたのは、リアーナでした。のちにジャスティンと曲を仕上げ、私たちが知っている形になります。

今の題名にある「自分を愛する」という意味は、表面上は前向きです。
でも、別れを告げる話の中に置かれると、相手の自己愛を皮肉る言葉になります。乱暴な言い方を避けたぶん、かえって涼しい顔で言い放てる表現になった、と捉えることもできます。

ジャスティンの柔らかい声は、この二重の意味とよく合っています。
きれいな旋律に乗せて歌える言葉なのに、関係を修復する気持ちは感じられない。声を荒らさずに、相手との距離をはっきりさせる歌なのです。

ここでの冷たさは、歌の中の人物の表現です。
声が優しい人はいつも優しい歌を歌う、という思い込みを外すと、ジャスティンがこの曲で選んだ落ち着き方が、ずっと面白くなります。

2012年10月、Believeツアーでのジャスティン・ビーバー
2012年10月、Believeツアーでのジャスティン・ビーバー。写真:Joe Bielawa / CC BY 2.0

さりげない歌を、さりげなく済ませてはいなかった

何げなく話しているような録音でも、ジャスティンが適当に一度歌って終えたわけではありません。
「Love Yourself」の歌の録音を担当したサイモン・コーエンは、彼が前のテイクを上回ろうと、繰り返し歌っていたことを明かしています。歌い方だけでなく、旋律も、そのアイデアの最もよい形を求めていたといいます。

『Purpose』の制作では、前の作品ほど背景の歌を増やさず、主旋律を歌う声をしっかり聴かせる方針がありました。
そこで大切になるのは、音程が合っていることだけではありません。言葉のタイミングやリズムの感じ、感情の込め方といった歌の細部が、曲全体の印象を決めます。

「Love Yourself」は、とくに伴奏が少ない曲です。
一つの言葉を急いで言うのか、少し待ってから置くのか。語尾を伸ばすのか、短く終えるのか。そんな小さな違いも、大きな楽器の音に隠れません。

同じ柔らかな声でも、言葉の終え方が違えば、ためらっている人にも、もう迷っていない人にも聞こえます。
不満をにじませながらも取り乱さない、この曲の話し方にするためには、細かな言葉の歌い回しが必要なのです。

楽器を足したら、よくなるとは限らなかった

歌の表情がよく伝わるのは、伴奏の作り方とも関係しています。
エンジニアのジョシュ・グドウィンが初めて「Love Yourself」を聴いたときは、エドが弾いたエレキギターと歌だけでした。ベニーが楽器を足してみても、皆が気に入ったのは最初の簡素な形だったといいます。

そのギターの録音には、雑音もありました。
別の演奏者に弾き直してもらう案も試したものの、元の演奏が持っていた感じにならない。結局、エドの演奏を残して、音を整えることになりました。

曲を豪華にすることより、この歌がよく聞こえる伴奏を残す。
完成した曲にはトランペットや背景の歌もありますが、中心にあるのはギターと歌です。ほかの音が少ないから、歌い出しや語尾の細かな動きまで伝わります。

この少ない伴奏では、サビを目立たせるために、必ずしも声を張り上げる必要がありません。
ちょっとした言い方の違いが、そのまま聴き手に届きます。落ち着いた声で関係の終わりを歌うには、この余白がよく働いているのです。

少年時代の声から、こうした歌い回しを選ぶようになるまでの歩みは、ジャスティン・ビーバーの歌声の変遷でたどっています。

2016年3月、ジャスティン・ビーバーのオークランド公演会場
2016年3月、ジャスティン・ビーバーのオークランド公演会場。写真:Travis Wise from Bay Area, California, United States / CC BY 2.0

優しい声のまま、優しくないことも言える

「Love Yourself」のジャスティンは、柔らかな声で歌い、言葉を大げさに引き伸ばさず、相手への不満を淡々と伝えます。
そのため、別れの言葉が衝動的な怒りというより、もう変わらない決意として聞こえます。題名のきれいな言葉にも、皮肉が残ります。

何げない会話のような歌の裏には、よりよい歌を求めた録り直しと、伴奏を増やしすぎなかった選択がありました。
声を優しくすることと、気持ちを優しくすることは、同じではありません。ジャスティンはこの曲で、聴き心地のよさを保ったまま、もう相手に近づかない人の冷たさを歌っています。

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