りょたち(ねぐせ。)の歌唱変遷|失恋の独白から、客席と完成させる歌へ

りょたち(ねぐせ。) りょたち(ねぐせ。)

失恋を歌った「日常革命」と、客席の声を録音した「僕 love you」。
りょたちの歌がこの二つを結ぶまでには、歌う相手だけでなく、自分の声への考え方にも変化があった。
自分の体験をそのまま歌にすることを大切にしていた彼が、架空の人物を歌い、共演者と声を交わし、観客にまで曲作りへの参加を求めるようになったのだ。

ただし、失恋バラードを卒業したわけではない。
2025年には、久しぶりの失恋の曲「愛の味」も発表している。
一人で歌う曲と、誰かと完成させる曲を行き来しながら、りょたちは何を手に入れたのだろう。

バラードが得意だと教えたのは、周りの人だった

りょたちは、小さい頃から祖父とカラオケへ出かけるほど歌が好きだった。
一方、ギターを本格的に始めたのは大学に入ってからだという。
身近な先輩のバンドが、自分たちで作った曲を演奏する姿に惹かれ、軽音楽部へ入った。
2020年に結成されたバンドでは、歌とギター、作詞作曲を担うようになる。

2021年の「彩り」は、その初期をたどれる作品の一つだ。
結成当初のことを振り返り、ドラマーのなおとは、りょたちが歌うバラードを大事にしたかったと話している。
ゆっくりした曲調なら、彼の武器である歌詞が伝わりやすい。
そんな考えから、バンドとしてバラードを磨こうとしていた。

りょたち本人は、初めからバラードが得意だと思っていたわけではなかった。
周囲からよいと言われるうちに、自分に合うのだと分かってきたという。
その実感を伴って、2022年の「日常革命」が代表曲になっていく。
自身の失恋をもとに、相手がいた生活と、いなくなった後の日常を歌った曲だった。

当時の彼は、実体験ではない物語を作ることに抵抗があった。
2024年の取材で、なおとが、以前はフィクションを書きたがらなかったと振り返ると、本人もそれを認めている。
自分が経験したから歌えるという確かさは、歌を支える一方で、歌える世界を狭くする面もあった。
その枠を動かしたのが、ライブで出会う人たちだった。

声を出せない客席に、踊って参加してもらう

「日常革命」と同じ2022年に出た「グッドな音楽を」は、客席がどう楽しむかまで考えた曲だった。
コロナ禍で観客が一緒に歌えない時期、りょたちは踊りや振り付けを取り入れることを考えた。
声が出せないなら、体を動かす形で参加してもらう。
なおとは後年、あの制限がなければ、この曲のダンスも生まれなかっただろうと話している。

ライブを重ねるうちに、りょたちは、悲しい実体験ばかり歌い続けるのは違うと思うようになった。
観客がもっと楽しく歌い、踊れる曲を作りたい。
その思いとともに、自分が実際には経験していない青春を、物語として書くことも楽しめるようになったという。
自分の過去を伝えるだけでなく、目の前の人とどんな時間を過ごすかが、歌を作る理由に加わった。

その変化を、今度は客席が返してくれた。
2024年6月の日本武道館公演では、アンコールを待つ観客が、自発的に「ずっと好きだから」のコーラスを歌い始めた。
りょたちにとって、あのように歌ってもらうのは初めてだったという。
バンドから始める演奏がない時間にも、自分たちの歌が会場に残っていた。

りょたち(ねぐせ。)
取材に応じたバンドの4人。
写真出典:2024年のソニーミュージックグループ取材写真

高校野球の応援ソングとして書いたこの曲には、結果が出なくても好きなことを続ける気持ちを込めている。
りょたち自身、サッカーでレギュラーになれない悔しさを知っていた。
人を励まそうとして作った歌を、今度は観客が歌い、バンドを支える。
ドラマーのなおとも、武道館での声援を受けて、これから胸を張ってこの曲を演奏できそうだと語っていた。

「ずっと好きだから」公式MV(2024年公開)。

2025年――自分の歌を、次に歌う人へ渡す

2025年には、自分のバンド以外の場所で声をつなぐ経験もした。
FM802のキャンペーンソング「赤春花」への参加である。
片岡健太の仮歌をもとに、りょたちは参加者の中で最初に歌を録音した。
まだ他の歌い手の声がそろっていない段階で、自分のパートを渡したことになる。

一番のBメロで掛け合う中島颯太は、逆に、りょたちの歌が入った音源を聴きながら録音できたと対談で話している。
先に録った声が、次の歌い手にとって応答する相手になっていた。
顔を合わせて歌わなくても、録音を受け渡すことで会話ができる。
りょたちの声が、別の人の歌を引き出す側に回った具体例だ。

「織姫とBABY」は、二年前の構想に追いついた曲

同じ2025年の「織姫とBABY feat. 汐れいら」では、自分のバンドに初めてゲストボーカルを迎えた。
曲の大部分は約二年前にできており、りょたちはデモの時点からデュエットを想像していたという。
気に入っていたのに、なかなか完成させられなかった曲だ。
その間に、バンドは「恋と怪獣」でシンセや新しいリズムを取り入れ、編曲の選択肢を増やしていた。

「恋と怪獣」公式音源(2024年のアルバム『ファンタジーな祝日を!!!』収録)。

メンバーが、二年前の自分たちには完成させられなかったと振り返るのも、そのためだ。
りょたちが思い描く歌を、周囲の音まで含めて形にできるようになった。
二人それぞれの歌を見せるため、いつも以上に歌を中心に編曲し、掛け合いを引き立てたと本人は説明している。

物語に合わせて、声の関係も変えた。
汐の説明によれば、最初は二人が同じ高さで歌う案だったが、会えずにいる織姫と彦星なら、初めは離れていたほうがよいという考えになった。
そこから歌が一緒になることで、二人の関係が動くのが分かる。
単に声を足すだけでなく、いつ近づくかまで歌の物語にしている。

Dメロでは、汐が考えた言葉も取り入れた。
自分で書いた体験を一人で歌うところから、相手の言葉を歌い、もう一人の視点と組み合わせるところまで進んだのだ。
本人も、アイデアをその場で積み上げていく雰囲気が、この曲を作ったと振り返っている。

「愛の味」で、初期の失恋へ別の角度から戻る

共演や編曲の幅が広がった後、2025年11月に発表したのが「愛の味」だった。
およそ三年ぶりの失恋バラードである。
ただ、本人は五周年に合わせて原点回帰しようと計画したわけではなく、後からその巡り合わせに気づいたと話している。

「日常革命」の頃は、四人の音でシンプルに伝えることを大切にしていた。
その後はシンセや弦の音、デュエットも取り入れ、もっと聴き手が入りやすいポップスへ近づこうとしてきた。
「愛の味」は、同じ失恋を歌うにしても、それまでに試してきたゆるやかなリズムや編曲の経験を持って作った曲だった。

歌う感情の選び方も変わっている。
りょたちは、別れたからといって、幸せだった時間まで否定したくないと考えている。
一方、この曲では、愛情の強さが生む痛みを、よりはっきりした感覚として描こうとした。
聴く人を増やしたいからこそ、言葉を無難にするのではなく、人の生々しいところまで踏み込む。
明るい曲や共演を経験しても、個人的な感情へ深く入っていく歌は残っていた。

「僕 love you」で、自分の声を信じて客席を迎える

2026年の「僕 love you」は、完成品だけを聴き手へ渡す方法も変えた。
りょたちはAメロの弾き語りをSNSで公開し、6月17日にはデモを配信した。
どうやって一曲になるか、その途中も一緒に楽しんでほしかったという。

「僕 love you(demo)」公式音源(2026年6月17日配信の90秒のデモ版)。

編曲も、以前とは大きく変わった。
生のベースやドラムを録る従来の形から離れ、弦の音や大太鼓、シンセベースを使う。
ベースのしょうとは、自分でなくても成立するのではないかという戸惑いがあったと話している。
バンドの音を変えることは、各メンバーが自分の役割を問い直すことでもあった。

りょたちが踏み出せた理由には、歌声への自信がある。
どんな曲でも自分が歌えばバンドの曲になると言われ、実際に違う曲調を試していくうちに、自分でもそう思えるようになった。
弦や大太鼓が鳴るイメージを思いついても、バンドらしくないからと抑えなくてよい。
自分の声が曲の中心にあるという実感が、周囲の音を大胆に変える支えになった。

「僕 love you」通常版の公式MV(2026年公開)。

6月28日の横浜アリーナ公演では、観客の歌声を録音した。
7月29日には、その声を収めた「愛問愛答 ver.」が配信された。
デモを聴いていた人たちが、最後には歌い手の一人として、作品の中へ入ってきたのである。

りょたち(ねぐせ。)
ギターを手に話し合うりょたち。
写真出典:2026年の公式インタビュー写真

武道館で思いがけず受け取った客席の合唱を、今度はあらかじめ作品の一部として迎え入れる。
りょたちは、自分たちを好きでいてくれた人に、この先もよい曲や景色を届けられるという自信がついたとも語っている。
歌を返すだけでなく、聴き手の声も残したいという発想には、その関係をこれからも続けたい気持ちがある。

「僕 love you(愛問愛答 ver.)」公式MV(2026年公開、6月28日の横浜アリーナ公演で観客の声を収録)。

自分の失恋を歌っていた声は、共演者の言葉や、客席からの返事まで含められるようになった。
それでも、りょたちが歌えば自分たちの曲になる。
歌を分け合う範囲が広がるほど、一人の歌声がバンドをつなぐ役割も、はっきりしてきたのだ。
一曲の中での言葉や息、掛け合いの選び方は、りょたちの歌い方の記事で詳しく紹介している。

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