紬衣(Conton Candy)の歌唱変遷|「ファジーネーブル」で力を抜いた後、何を歌えるようになった?

紬衣(Conton Candy) シンガー

「ファジーネーブル」でConton Candyを知った人にとって、ライブの熱さは意外かもしれない。
紬衣自身も、配信で伝わるポップな印象と、ステージで届けたいものの距離に悩んでいた。
ただ、そのポップな歌も、初めから迷いなく出せたわけではない。
以前の彼女にとっては、声を張り、強く歌うことが自分たちらしさだった。

そこから肩の力を抜き、やがて自分とは違う人物の気持ちまで歌うようになる。
その途中には、歌が広まった喜びだけでなく、知られたからこそ生まれた難しさもあった。
紬衣は何を変え、どんな声なら自分のものだと思えるようになったのだろう。

自信がなかった「ファジーネーブル」が入口になった

高校の軽音楽部で結成されたConton Candyは、紬衣、ベースの楓華、ドラムの彩楓という三人で活動を重ねてきた。
「ロングスカートは靡いて」は、高校二年生の頃に作った曲だ。
2021年にMVを公開し、2024年のアルバム『melt pop』にも収録している。
新作を出すようになっても、高校時代の曲がバンドの歴史を支えていた。

曲作りは、紬衣が弾き語りで持ってきたものを三人で形にするのが基本だった。
歌いたいことやメロディーをまず示し、楓華と彩楓がそれぞれの演奏やコーラスを加える。
その中で、紬衣はロックバンドらしく強く歌おうとし、声を張ることをよしとしていたと振り返っている。

その基準を変えたのが、2023年4月の「ファジーネーブル」だった。
本人によれば、一度原点に戻り、肩の力を抜いて歌うことを意識した曲だという。
ポップな方向へ踏み出すのは、当時の自分たちには新しい試みだった。
出来上がった時点では、むしろ自信がなかったそうだ。

ところが、この曲はSNSを通じて広まり、バンドを知ってもらう大きな入口になった。
2023年の『Skream!』の取材で、紬衣は、その反応によって新しい一面を自分たちの強みとして認められたと話している。
力を抜くことに踏み切った後で、聴き手がその声のよさを教えてくれた。
この順番が、その後の選択を考えるうえで大切だ。

紬衣(Conton Candy)
2023年の紬衣と楓華。
写真出典:FenderNewsの2023年取材写真

身近な気持ちを、三人で歌の中心に置く

同年の「baby blue eyes」には、紬衣がネモフィラの花畑へ出かけた体験が入っている。
青い花の中に赤い花が一輪ある景色を見て、自分と相手の関係を重ねた。
相手より子供っぽく、大人になりきれない自分を、まだ青いものとして捉えたのだという。
見た景色が、自分の恋愛を歌うための言葉になっている。

ここで楓華は、歌とメロディーの存在感が強いから、ベースをできるだけシンプルにして支えたと説明している。
彩楓も、曲のかっこよさの中にある恋心を、分かりやすく伝えようとした。
全員がそれぞれ強く主張するだけでなく、紬衣が何を歌っているかに合わせて演奏を選ぶ。
声の新しい可能性は、こうした三人のやり取りの中で育っていた。

2024年――ポップな曲を聴いて来た人に、何を渡すか

「ファジーネーブル」が広まったことは、別の課題も生んだ。
ポップな曲を好きになってライブへ来た人が、熱いステージを前に戸惑うかもしれない。
紬衣は、自分たちだけが熱量を渡し、客席とのやり取りが一方通行になっていないかと考えていた。
音源とライブの距離を近づけたいという思いが、2024年の『melt pop』につながる。

本人が求めていたのは、客席から返ってきた熱を、また演奏へ返せる場所だった。
以前は曲を作ることに精いっぱいだったが、この頃には、ライブで誰に何を届けるかを考えて書けるようになったとも話している。
歌の出発点に、目の前にいる聴き手が加わったのである。

紬衣(Conton Candy)
ライブで歌う紬衣。
写真出典:Billboard JAPANの2024年ライブ写真

アルバムの一曲目に置いた「相槌」は、その意思が見える曲だ。
紬衣は、言葉にしなくても表情から気持ちが伝わるライブの経験を、この曲の発想に結びつけている。
さらに、歌から始めれば、アルバムを再生した瞬間に聴き手をはっとさせられると考えた。
歌詞だけでなく、声をどこで登場させるかも、相手へ働きかける方法になっていた。

「相槌」公式ライブ映像(2024年6月22日、SHIBUYA CLUB QUATTRO)。

強く歌うことを見直した後も、ライブで出したい熱は残っている。
その二つを同じバンドの表現として届けることが、この時期の宿題だった。
「ファジーネーブル」で得た入口の広さを、ステージでの深い関わりへつなげようとしていたのだ。

「普通」で、自分の気持ちだけでは歌えなくなった

2025年の「普通」は、アニメ『SAKAMOTO DAYS』のエンディングテーマとして作られた。
それまで自分の実体験を歌ってきた紬衣にとって、登場人物の人生を描くことは、声の使い方まで変える経験になった。
自分のことなら、少し伝えようとしただけでも感情があふれる。
しかし、今回は別の人の姿を、意識して聴き手に見せる必要があった。

公開前の2024年末の取材で、彼女は、従来は自分の声が先にあり、そこへ歌詞がついてくる感覚だったと説明している。
「普通」では順序を逆にし、言葉にどんな声や表情を乗せるかを考えて録音した。
Bメロではメッセージが強まるにつれて熱量を足し、二番では不安を表すために裏声を選んだという。
一曲を通して同じ勢いで押すのではなく、人物の気持ちに合わせて歌い方を動かしている。

演奏も、最初の疾走感のあるロック調から、三人で相談して温かさを出す方向へ変えた。
アコースティックギターを加え、ドラムの導入も柔らかな音やフレーズにする。
歌だけに役柄の説明を背負わせず、周囲の音からその暮らしを感じられるように整えていった。
本人が新しい扉を開いたように感じたのは、歌う対象が増えたからでもある。

「スノウドロップ」――短い時間で、物語と自分を届ける

同じ2025年の「スノウドロップ」では、アニメ『青春ブタ野郎はサンタクロースの夢を見ない』の世界へ向き合った。
紬衣は、長く愛されてきた作品に、自分たちも仲間として迎えてもらえる曲にしたかったという。
原作を読み込み、登場人物の悩みと、自分たちの学生時代の経験を重ねて書いている。

歌から始まる構成にも理由があった。
放送で使われる時間が限られているからこそ、最初の一音で耳を引きつけたい。
一方で、展開を詰め込みすぎれば聴き手が疲れてしまうため、引き算も意識したと話している。
短い尺で成立させた曲をフルサイズへ広げる際には、どこまで自分の感情を入れ、どこまで作品に寄り添うかにも悩んだ。
歌いたいものを出すだけでは済まない制作が、表現の選択肢を増やしていく。

2026年――自分の声を、前より信じて使う

2026年の「Rookies」では、野村陽一郎との編曲を通じて、三人の楽器の関係にも新しい選択肢が増えた。
どの場面でギターを出し、ベースとドラムはどう動くか。
楓華は、音の長さや切り方、あえて音を出さない場所によって印象が変わることを学んだという。
紬衣も、バンドとして得たものが大きい一曲に挙げている。

そうした経験の後で作ったアルバム『すっぴん』では、再び三人でスタジオに入り、ボイスメモを録って聴き直すところから曲を育てた。
他の作品を彩るために重ねてきた工夫を持ちながら、今度は自分たちの感情へ戻っている。
「レイニーデイ」は彩楓が歌詞の土台を書き、紬衣が手を入れた曲だ。
冒頭から三人の声を重ねるこの曲では、仲間の言葉も、自分の声で聴き手へ届けている。

変わったのは、声への自己評価でもある。
紬衣には、もっとハスキーで、かっこいい声だったらと思うことがあった。
しかし2026年の取材では、前年に自分の声を褒められる機会が増え、それを強みとして受け止められたと話している。
『すっぴん』では、それまで主に楓華と彩楓へ任せていたコーラスも多く録り、主旋律を歌う自分と、重なる声を歌う自分を使い分けた。

同じアルバムの「傷」は、別の方向からその素顔を伝える。
一定のテンポを示すクリックを使わず、合図で始めて自由なテンポで録音し、本人は収録曲の中で最もライブに近いと説明した。
2025年末のツアーでは、客席との一体感を得て、以前の隔たりを乗り越えたとも語っている。
声を細かく使い分ける録音と、その場の熱を残す録音を、今は同じアルバムに置けるのだ。

肩の力を抜いた歌を聴き手に受け入れられ、他人の物語を歌うことで、自分の声の使い道を増やしてきた。
その先で紬衣は、憧れの声に近づくことよりも、すでにある自分の声をどう生かすかへ目を向けている。
曲ごとの声の選択を詳しく知りたい方は、紬衣の歌い方の記事もあわせてどうぞ。

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