神田沙也加の歌い方・発声|明るい高音を支えた「演じるほど伸びる声」

神田沙也加の歌い方と発声を分析する記事のアイキャッチ シンガー

神田沙也加さんの歌声を説明する時、「明るい」「よく通る」「高音が安定している」という言葉がよく似合います。
けれど、その声の核心は、もともとの声質だけではありません。

17歳で初めてミュージカルに立った時、本人はまだ声楽の訓練を受けていませんでした。
譜面を見ながら歌うと苦手に感じた音も、役の表情を作り、場面の中で動くと、魔法のように声が伸びたと振り返っています。

歌を上手に聞かせようとするより、人物がその瞬間に何をしたいのかを身体へ通す。
すると、声は後からついてくる。

この発見が、神田さんの歌手、ミュージカル俳優、声優としての仕事を一本につないでいます。
高音の派手さより先に「誰が歌っているのか」を決めることが、あの声を支えていたのです。

苦手だった音が、役を演じた瞬間に伸びた

歌手として活動を始めた頃の神田さんは、歌と芝居を別の仕事として捉えていました。
譜面と向き合えば、苦手な音や難しい音階が気になります。

転機は、宮本亞門さんが演出した『INTO THE WOODS』でした。
場面に合わせて表情筋を動かし、役として身体を使うと、それまで難しいと思っていた声が伸びたのです。

これは、気合いで音域が広がったという話ではありません。
音だけを狙って固まっていた身体が、人物の行動を始めたことで動きやすくなった、と考えると分かりやすいでしょう。

高い音を出そうとすると、喉、顎、首へ注意が集まりがちです。
一方、「遠くにいる相手を呼び止める」「うれしい知らせを早く伝える」と目的が決まると、顔つき、息の勢い、言葉の方向が同時に変わります。

神田さんが舞台で得たのは、歌に芝居を飾りとして足す方法ではありません。
芝居が発声のきっかけになり得る、という順番の逆転でした。

「明るい声」は、口角だけでは作られていない

初期の音楽活動で歌と役の接点を探した神田沙也加

神田さんの高音には、暗い場面でも言葉の輪郭が失われにくい特徴があります。
そのため、口角を上げて鼻へ響かせれば近づけると思うかもしれません。

しかし本人が語った経験では、顔だけを特定の形に固定していません。
場面に応じて表情筋を動かし、役として行動した時に声が伸びています。

笑顔の形を保つことと、人物の感情で顔が動くことは別物です。
前者は唇や顎を固めることがありますが、後者には驚き、焦り、期待、決意といった変化があります。

『アナと雪の女王』のアナも、いつも同じ明るさで歌う人物ではありません。
早口になるほど興奮し、声の熱と高さが変わる役として説明され、神田さんは自分に近いと感じました。

声色を一枚に塗るのではなく、気持ちが動くたびに声の温度も動く。
結果として、明るく通る高音が作り物に聞こえにくくなります。

アナ役で守ったのは、台詞から歌への連続性

アナを演じる時、神田さんが最もこだわったのは、台詞から歌へ移った瞬間に別人にならないことでした。
気がつけば歌になっていた、と感じられるよう、歌の第一声を特に意識しています。

ここには、ミュージカルで積み重ねた経験がそのまま生きています。
歌が始まったから急に美しい声へ切り替えるのではなく、直前まで話していた人物が、その勢いのまま旋律へ入るのです。

上白石萌音さんの歌い方にも、台詞と歌を遠ざけず、言葉の意味を先に置く面白さがあります。
神田さんの場合は、そこへアナ特有の熱量と速度が加わります。

高音だけを切り出すと、音程の正確さや声量が目立ちます。
ところが一曲の入口から見ると、強さの前に会話があり、会話の前に役の目的があります。

神田さんの発声を「地声かミックスボイスか」だけで決めにくいのは、このためです。
声区の使い分けは必要でも、何を選ぶかは人物の言葉から決まっています。

TRUSTRICKでは、感情を抑えることで言葉を強くした

舞台やアナ役の神田さんには、感情をまっすぐ外へ出す印象があります。
一方、TRUSTRICKでは、感情的な歌詞をあえて落ち着いて歌うという別の方法も選びました。

歌詞の情報量が多い曲では、すべての子音を強く立てると、言葉がせわしなく聞こえます。
そこで発音の輪郭を少しやわらげ、英語のような揺れを作る工夫もしています。

感情を伝えるために、毎回声を震わせたり、語尾を張ったりする必要はありません。
内容が激しいほど声を一歩引かせると、聴き手が歌詞へ入る余白が生まれます。

これは、舞台で役を大きく見せる技術と反対に見えて、根は同じです。
自分の感情を見せる量より、作品が最も伝わる距離を選んでいます。

バンドでは「一人で歌う怖さ」を共同制作へ変えた

TRUSTRICKで共同制作する歌い方を深めた神田沙也加

神田さんは、自分の声に強いコンプレックスがあり、ソロで自分自身を語ることに難しさを感じていました。
そこで長く温めたバンド構想を企画書にし、TRUSTRICKを始めます。

相手と一緒に作品を作る形なら、一人で大勢へ自分を説明する怖さから離れられたのです。
声を強くして不安を消すのではなく、歌う関係そのものを作り直しました。

この話は、発声を喉の操作だけで考えない方がよい理由をよく示しています。
誰と、何のために歌うかが曖昧なら、良い声を出そうとする意識ばかりが大きくなります。

バンドでは、旋律の広さや言葉の密度に合わせて、演奏側も神田さんの声を支える方法を変えました。
声が伴奏へ一方的に合わせるのではなく、声と楽器が互いの居場所を作っています。

坂本真綾さんの歌い方でも、作り手との関係によって同じ声が違う色を持ちました。
神田さんはさらに、共同制作という枠そのものを、自分が歌いやすくなる場所として設計しています。

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表現の前に、まず正確な技術を置いた

神田さんは、ミュージカルでは気持ちで歌うことも大切だが、まず技術だと話しています。
音程を正確に出せるからこそ、演出家と信頼を作り、その上で自由に表現できるという考えです。

これは「演じれば声が出る」という話と矛盾しません。
役の力で一度うまくいった経験を、偶然のままにしないために、その後で声楽のレッスンを始めたからです。

舞台ごとに、怖さがなくなった音や歌い方を一つは作る。
階段を上りながら歌っても声が揺れないよう、体幹と体力の配分を考える。

こうした小さな課題の積み重ねが、感情を大きく動かしても音程と言葉が崩れにくい土台になりました。
高音で力む原因を見直す時も、一度の勢いより、同じ場面を繰り返せる技術が重要です。

参考にするなら、声色ではなく「歌う前の出来事」を作る

神田さんの声へ近づこうとして、明るい鼻声や強い高音だけを真似すると、人物のいない声になりやすいでしょう。
参考にしやすいのは、歌う直前の台詞や出来事を切らないことです。

アナなら、閉じていた城の扉が開き、初めて多くの人と出会える興奮があります。
ユナなら、観客が求めるものを返すアイドルとして歌います。
TRUSTRICKなら、感情的な言葉を叫ばず、共同制作した曲の中へ置きます。

同じ高音でも、人物と目的が変われば、必要な速度、声量、語尾は変わります。
声を出してから役を付けるのではなく、役の行動から声を始めるのが神田さんの順番です。

まとめ

神田沙也加さんの明るく通る高音は、生まれ持った声質だけで完成したものではありません。
17歳の初ミュージカルで、場面の中で表情と身体を動かすと、苦手だった声が伸びる経験をしました。

その後は声楽を学び、作品ごとに一つずつ恐怖を減らし、正確な技術の上で自由に演じられる状態を作ります。
アナ役では台詞から歌へ別人にならない第一声を守り、TRUSTRICKでは感情を抑える歌い方や共同制作へ踏み込みました。

声を一つの型に固定せず、人物、場面、共演者との関係から選び直す。
だから神田さんの歌は、舞台でもアニメでもバンドでも、明るさだけの声になりません。

SAYAKA名義のデビューから舞台、アナ、TRUSTRICK、MUSICALOIDへ、この考えがどう育ったのかは、神田沙也加さんの歌唱変遷で年代順にたどります。

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