岡本知高の歌い方・発声|高い地声、母音の基礎、重厚なソプラノの使い方

2019年のSPICEインタビュー掲載の岡本知高 シンガー
2019年のSPICEインタビュー掲載の岡本知高

岡本知高の歌を考えるうえでは、高い声をどのように出し、歌の中で使っているかが手がかりになります。
本人は、普段話す地声がもともと高いと説明しています。
その声を生かすための声楽の基礎に加え、別のソプラノと共演したときの言葉と声の扱い、緊張への備えについても語っています。
発声と表現の関係を、本人の説明から整理します。

高い地声に、母音の基礎が加わっている

岡本は2021年のラジオで、普段話している地の声が、もともと高いと話しています。
生来のソプラノの声が、歌うときにも生かされています。

翌年の番組でも、特別な高音の作り方をしているのではなく、その声でベルカント唱法を用いて歌っていると説明しました。
一般の人への助言では、自分の声と伴奏をよく聴くことを重視しています。
声を出す動作だけに気を取られず、今どのように聞こえているかを捉える姿勢です。

また、口の奥を開く感覚を、口を閉じて人に気付かれないようにあくびをするときに例えていました。
これは声を響かせる感覚を伝えるための比喩です。
生まれ持った高い声に、響きの作り方や聴き方を結び付けていることが、本人の説明から分かります。

その声を音楽にするために、大学では瀬川武のもとでコンコーネや母音唱法を基礎から学びました。
男性のソプラノにどんな教材が合うのか、師も模索してくれたと振り返っています。
高い声を持っていたから学ぶことがなかったのではなく、その声に合う学び方を一緒に探したのです。

2019年のSPICEインタビュー掲載の岡本知高
2019年のSPICEインタビュー掲載の岡本知高。
画像出典:写真掲載元

母音唱法は、歌詞を付けず、母音で旋律を歌う学習です。
言葉の意味を演じる前に、旋律を声で運ぶ基礎に取り組む。
岡本は大学の合唱の授業で一人で歌う経験も重ね、それまで知らなかった人の声の力に驚いたと話しています。
個人の声を磨くことと、ほかの声を聴くことの両方が、学生時代の学びにありました。

歌詞を付けて歌う段階では、言語そのものへの耳も必要になりました。
パリ留学中、フランス語の発音を指摘されても違いをつかめず、現地の人の前では余計に力が入ったといいます。
そこで日常会話の中で、聞こえた発音を自分でも繰り返しました。
音を高く響かせる基礎に、話される言葉の感覚を加えていったのです。

バロックで学んだ即興を、ポップスにも生かす

岡本は、同じ曲を何度歌っても、その場で変化を付けられることをステージの楽しみとして挙げています。
自分の歌に共演者がどう応えるかも、毎回の喜びになるそうです。
その土台として、大学とパリで学んだバロック音楽のアプローチが役立っていると説明しました。

この即興の感覚は、ポップスを歌うときにも使えるといいます。
学んだ発声を毎回同じ形で再現するだけでなく、目の前の演奏に応じて表情を変える。
声楽の基礎は、その場の音楽に参加するための選択肢にもなっています。
岡本の幅広い選曲を考える際には、ジャンルをまたいで使っているこうした感覚も手がかりになります。

重厚なソプラノを、相手の声と重ねる

「祈り~a prayer 2023」では、海上自衛隊東京音楽隊の三宅由佳莉とデュエットしています。
岡本にとって、この曲は器楽的な旋律で、歌うのが難しい作品でした。
その旋律を、自分の重厚なソプラノと、三宅のストレートなソプラノで歌うと、全く違う二つの声が重なる面白さが生まれたといいます。

この共演で、二人がともに深く追求したのは言葉だったそうです。
岡本は、同じ言葉を同じ色で表して声をそろえる合唱とは違い、それぞれの人生を持つソリスト同士として歌ったと説明しています。
一つの作品の中で、二人の意思を重ねる歌い方です。

ここで目指したのは、片方の声色へもう片方を近づけることではありません。
同じ歌詞に対して、それぞれの経験から生まれる気持ちを声にし、一つの作品へ集めていく。
岡本が自分のコンサートについて、役になり切るオペラとは違って、自分自身の言葉で歌える作品が必要だと話すことも、この共演につながります。
声の厚みをそろえるより、二人が何を伝えるのかを深く考えた歌唱なのです。

「やさしさに包まれたなら」で、音の隙間に言葉を置く

2023年に録音した「やさしさに包まれたなら」では、岡本は歌詞の中に大人の生活を思い描きました。
朝の動作や雨の風景を、ゆっくり時間が流れる場面として捉えたそうです。
若々しさを前に出すこともできる曲ですが、今回は、人生のさまざまな経験を受け止める歌として向き合っています。

その解釈に合わせて、伴奏の音を削り、シンプルなアレンジを選びました。
ハープとストリングスを用いた録音で、岡本が表したかったのは、音の隙間に感じられる多くのメッセージだったといいます。
声を豊かに響かせる歌手が、周囲の音を増やすのではなく、言葉を受け止める余白を作った例です。

同じアルバムの「World in union」は、日本語で新たに歌っています。
コンサートなら、歌う前の話で曲に込めた気持ちを説明できますが、CDではその時間がありません。
そこで、多くの人に意味が届くよう、日本語で歌うことを選びました。
発音を整えるだけでなく、聴き手がどのような状況で歌を受け取るかも、声にする言葉の選択に関わっています。

緊張したときにも、いつもの声で歌うために

2025年5月15日、楽天スーパーナイターの取材に応じる岡本知高
2025年5月15日、楽天スーパーナイターの取材に応じる岡本知高。
画像出典:写真掲載元

声を出す場面には、そのときの緊張も関わります。
岡本は2025年、東京ドームで「君が代」を独唱する前の取材で、普段の練習から不安を想定していると話しています。

息が詰まったらどうしよう、という不安も、その一つです。
本人は、練習の段階であえて緊張感を抱え、その不安を歌う楽しさへ変えていくそうです。
本番でいつもどおりに歌うための準備として、気持ちにも向き合っています。

同時に、ステージで自分を見せたい気持ちが強すぎると、観客がついてこないことも学んだと話しています。
岡本が選曲で大切にするのは、その歌詞に自分の心を込められるかどうかです。
「誰も寝てはならぬ」のようなオペラの曲も、「心の瞳」「糸」のような日本語の歌も、その視点で選んでいました。

家で練習していて、歌詞に心を動かされて泣いてしまうこともあるそうです。
その深い思いを持ちながら、本番では聴き手が自由に受け取れるように歌う。
声の迫力と、感情を押し付けない姿勢の両方が、岡本のステージを支えています。

岡本知高の歌い方には、生来の高い地声、母音を含む声楽の基礎、重厚な声と言葉を共演相手へ重ねる表現があります。
その声を本番で生かすために、緊張を想定した準備も続けています。
発声と言葉を学び、表現を広げてきた歩みは、岡本知高の歌唱変遷でたどっています。

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