透き通った高音と、ざらつきを帯びた強い声。
Beast In Blackのヤニス・パパドプロスは、異なる声の表情に注目されてきた歌手だ。
その歌い方を理解するには、声色の違いに加えて、強い声をどこで出すかを見ると面白い。
柔らかな場面を任せられる声と、終盤で解放する高音。
本人のカバー、バンドのバラード、別のバンドへの参加曲から、その使い分けを見ていこう。
ヤニス本人が公開した「Ghost Love Score」のボーカルカバー(2019年)。
高音の中にある、軽やかさと強い響き
冒頭は、ヤニス本人が2019年に公開したNightwish「Ghost Love Score」のボーカルカバーだ。
この歌を取り上げた声楽家でボーカルコーチのKen Lavigneは、動画の紹介文で、ファルセット、力のあるベルト声、メタルの叫びなど、ヤニスが使う声の幅に触れている。
低い声の温かさにも注目していた。
ファルセットは、裏声と呼ばれる発声の一つだ。
ベルト声は、強い張りを感じさせる歌声を指す言葉として使われる。
この紹介を手がかりにすると、高音の中でも、軽やかさを聴かせる声と、強い存在感を出す声という違いを追いやすくなる。
さらに、声のざらつきにも注目したい。
Ken Lavigneは、高さに加えてグロウルやグリットと呼ばれる荒々しい音色も挙げている。
柔らかさ、張り、ざらつきという複数の表情が、ヤニスの歌を捉える手がかりになるのである。
2017年のRock Overdoseの取材で、ヤニス自身も新しい歌い方への挑戦を楽しみ、曲によって自分の異なる面を見せていると語っていた。
曲に応じて歌い方を変えることは、本人も意識している選択だ。
「Oceandeep」で選ばれた、柔らかな声の説得力
『From Hell With Love』収録の「Oceandeep」では、曲の穏やかな表情と声の関係に注目できる。
「Oceandeep」(2019年、『From Hell With Love』収録)の権利者提供音源。
Voirの取材では、聞き手がこの曲を女性とのデュエットかと思い、ヤニスが歌っていたと気づいたことを話題にしている。
その声色を使った理由について、作曲者のアントン・カバネンは、柔らかな部分によく合い、ヤニスが説得力を持って歌えるからだと説明した。
この説明に沿って聴くと、声色の変化を、穏やかな部分をどう伝えるかという視点で追える。
ヤニスの声の幅を、曲に合った柔らかさから考えられる一曲だ。
ヤニス自身の説明では、この曲は録音の終盤に加わり、特に多くのテイクを重ねた曲だったという。
本人が自然に選ぶ歌い方と、アントンが求める歌い方が違っていたためだ。
別の歌い方を試そうとしても、歌い始めると最初の考えが出てしまい、二人で着地点を探ったと振り返っている。
つまり、この柔らかな声は、声の種類を一つ選んだら完成した、という単純なものではない。
その音色でどんな歌い回しをするかまで、作り手と歌い手の考えを合わせている。
聴き手には自然に届く穏やかな歌も、録音では繰り返し試し、曲にふさわしい表現を決めていたのである。

画像出典:画像掲載元
「Legion of the Fallen」、高音を解放する場所までが歌い方になる
強い声をいつ出すかという点では、Sacred Outcryの「Legion of the Fallen」が興味深い。
ヤニスがリードボーカルで参加した、2020年発売の『Damned For All Time』の曲だ。
Sacred Outcry「Legion of the Fallen」(2020年発売)の公式リリックビデオ。
Last RitesのレビューでZach Duvallは、この曲の大部分では表現を抑え、最後のヴァースでファルセットを解放すると評している。
ここでいうヴァースは、サビとは別に歌が展開する節のことだ。
この指摘から見えてくるのは、出せる高音をどこに置くかという工夫である。
抑えた状態を続けてから強い表現を出すと、その一声が曲の展開を大きく感じさせる。
声の種類を選ぶことに加え、使う時機も歌唱の印象を作っていると読める。
同じ評者は、このアルバムのファルセットについて、必要な瞬間に置かれていることを評価していた。
高音の力を、曲の進み方と結びつけて考えるための具体例になる。
サビを太くするため、声の重ね方も提案する
アントンは『Dark Connection』発売前の取材で、ヤニスが録音中に加えるアイデアについても説明している。
曲はできるだけ完成に近い形で渡す一方、ヤニスからは、サビの響きを太くするためにハーモニーやユニゾンを足す提案があるという。
こうした関わり方は、一作目から続いていた。
ハーモニーは別の高さの音を組み合わせ、ユニゾンは同じ旋律を重ねる。
どちらも声を重ねる方法だが、響きの作り方は違う。
ヤニスは主旋律を歌うだけでなく、その旋律を周りの声でどう強めるかにも関わっているのだ。
一人の声の張りと、重ねた声が生む厚みを分けて聴くと、バンドのサビを捉えやすくなる。
強く感じられる響きには、個々の声の出し方に加えて、声を配置する工夫も含まれている。
高音の一発だけに注目していると見えにくい、録音での仕事である。
「Cry Out For A Hero」は、本番の負荷も想定して歌う
2019年の取材でヤニスは、『From Hell With Love』の「Cry Out For A Hero」を、自分を奮い立たせる曲として挙げている。
自宅でのリハーサルでは、固定式の自転車を使い、ステージで疲れが出た状態を想定していたという。
そのような状況でも、この曲から元気をもらえると話していた。
ライブの一曲目にもぴったりだという評価には、歌う本人が感じる高揚感も表れている。
これは、歌の仕上がりを本番の動きや体力と切り離して考えていないことが分かる話だ。
録音で納得できるテイクを探すことと、ステージを通して声を届けることでは、向き合う条件が違う。
ヤニスの力強い歌には、本番を想定した準備という面もある。
声の幅を、一曲の表情へつなげる
バンドの録音で聞こえる声には、共演者の役割もある。
『Dark Connection』の公式資料では、アントン自身も荒い叫びやバックボーカル、デュエットを担当していることが説明されている。
同作の歌声の厚みは、ヤニスの声の選択と、ほかの歌声を重ねる制作の両方から生まれている。
そのうえで、ヤニスの歌を考える鍵は、声の表情と使う場所を一緒に見ることにある。
「Oceandeep」では柔らかさを曲に合わせ、「Legion of the Fallen」では高音を解放する瞬間が注目された。
軽やかな高音、張りのある声、荒々しい音色を、曲のどこで生かすか。
そこまで含めると、彼の発声の幅が、歌を動かす選択として見えてくる。
録音を重ねる中で、その声への理解がどう曲作りを変えたかは、ヤニス・パパドプロスの歌唱変遷でたどっている。

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