Beast In Blackのヤニス・パパドプロスに、高音の印象から興味を持った人もいるだろう。
その声が作品の中でどう使われるようになったかを追うと、作曲とプロデュースを担うギタリスト、アントン・カバネンとの関係が見えてくる。
最初の録音で歌える範囲を確かめ、その経験を次の曲作りへ持ち帰る。
柔らかな声も、曲を組み立てるための大切な材料になっていった。
2017年の『Berserker』から、2019年の『From Hell With Love』、2021年の『Dark Connection』へ、その変化をたどりたい。
「Moonlight Rendezvous」(2021年、『Dark Connection』収録)の公式ミュージックビデオ。
2017年、準備した歌に新しい声の可能性を持ち込む
Beast In Blackのデビュー作『Berserker』は、2017年11月に発売された。
「Blind And Frozen」は、その最初のアルバムを代表する一曲だ。
「Blind And Frozen」(2017年、『Berserker』収録)の公式ミュージックビデオ。
発売当時、ヤニスはMetalpathsの取材で、バンドと旋律を話し合い、リハーサルをしてきたことを説明している。
アントンは彼の得意なところと苦手なところを把握し、スタジオに入る前から歌の方向を共有していた。
この時点で、ヤニスが歌の旋律に加えた変更は小さなニュアンスが中心だったという。
本人も覚えやすい旋律を好み、アントンの考えと近かったため、大きく変える必要を感じなかったそうだ。
歌い手が曲に自分の色を加える余地と、作曲者が考えた旋律を大切にする姿勢が、最初から共存していた。
そのうえで、録音には声をさらに知る役割があった。
後にアントンは、デビュー作の制作中、特定の高い音を出せるかヤニスに尋ねることがあったと振り返る。
歌えるところと難しいところを確かめる経験が、声全体への理解につながったのだ。
ヤニス自身も、2017年のRock Overdoseの取材で、新しい歌い方への挑戦を楽しんでいると語っていた。
彼にとって、曲ごとに異なる面を見せることは、このバンドの始まりからある姿勢だった。

画像出典:画像掲載元
次作では、分かった声に合わせて曲を書けるようになった
2018年のMetal Cryptの取材で、アントンは、声をよく知ったことでヤニスのための作曲が容易になったと話している。
ここに、一作目の録音がもたらした具体的な転機がある。
曲を渡して歌ってもらうだけでなく、その声でどんな歌を作れるかという発想が、次作の準備に入ってきた。
同じ取材で彼は、高い叫びを何曲も続けて同じ型にしたくないとも説明した。
低めの声でバラードを歌えることも、すでにこの時点で評価していたのである。
さらにアントンは、ヤニスが自然に歌える範囲を知りたい一方、曲に必要な荒々しさを出すためには、慣れた歌い方から踏み出してほしいとも話している。
歌いやすいところを知ることと、新しい表現を求めること。
この二つを行き来しながら、次にどんな歌を任せるかを考えていた。
Metal Covenantの取材でも、一枚目で声について学んだことが作曲に影響したと語っている。
曲のテンポや調だけでなく、どんな種類の歌を置くかまで、作品に幅を持たせる材料になっていた。
2019年「Oceandeep」、柔らかい歌を任せる理由が明確になる
二作目『From Hell With Love』は、2019年2月に発売された。
収録曲「Oceandeep」についてのやり取りは、声への理解が深まった後の曲作りをよく伝えている。
ただし、この曲は最初から収録が決まっていたバラードではなかった。
アントンによると、予定していた別の曲の歌詞が仕上がらないなか、大切な人の夢を見た朝に「Oceandeep」の言葉が浮かび、こちらを収録することになったという。
曲と歌詞が生まれる事情に応じて、声を託す作品も変わっていた。
「Oceandeep」(2019年、『From Hell With Love』収録)の権利者提供音源。
Voirの取材でアントンは、このアルバムではヤニスの声の可能性を、より意識するようになったと説明した。
「Oceandeep」の声色についても、穏やかな部分に合うから選んだと説明している。
初期からあった声の幅を、次作の表情へとつなげた一例だ。
二作目の録音全体について、アントンは、多くの部分で二人の考えが一致していたと振り返っている。
どんな声にするかに長く迷うより、十分なテイクを録り、その中から良い歌を選ぶことに時間を使えたという。
作り手が満足しても、ヤニスがさらに良い歌唱を目指すこともあったそうだ。
互いに目指す方向が分かったぶん、その方向で歌を仕上げることへ、録音の力点が移っていたのである。
低いサビと高いサビを、曲の展開に合わせて置く
同じアルバムの「True Believer」では、最初の二つのサビで低めの歌い方を使っていると、アントンは説明している。
高い声を出せる歌手でも、サビをすべて高い歌でそろえる必要はない。
歌の高さに違いをつけることも、曲の表情を増やす方法になっていた。
Beast In Black「True Believer」(2019年『From Hell With Love』収録)の権利者提供音源。
この発想には、一作目からのつながりもある。
『Berserker』の「Crazy, Mad, Insane」では、それまで低めに歌っていたサビを、最後に1オクターブ上げたとアントンは話している。
二作目の多彩さは、初めて低い声を使えるようになった結果ではなく、以前からあった声の使い分けを、よりよく理解して曲へ生かしたものだった。
Beast In Black「Crazy, Mad, Insane」(2017年『Berserker』収録)の権利者提供音源。
2021年、声色の選択そのものが曲の見どころになる
三作目『Dark Connection』は、2021年10月に発売された。
先行曲「Moonlight Rendezvous」について、アントンはDead Rhetoricの取材で、ヤニスが異なる声色を選んで歌っていることを、この曲の魅力の一つに挙げている。
デビュー作で歌える音を確かめた関係は、声の表情まで見込んで曲を届ける関係へ進んだ。

画像出典:Northern Life
一方、アントンは2021年にも、曲をできるだけ完成に近づけてから渡し、録音でヤニスの案を加える進め方は、一作目から変わっていないと説明している。
声を理解することが深まっても、作曲者と歌い手の基本的な関わり方は続いていた。
その中心にあるのは、歌の旋律だ。
アントンは、ギターの和音に主旋律を乗せるだけでも心に響くかを確かめ、そこから楽器や音を重ねていくと話している。
派手な音作りの中でも、声が担う旋律が曲の軸になる。
ヤニスの声色や歌い回しを選ぶ仕事は、その軸を鮮やかに伝えるためにあるのだ。
アルバムの公式資料では、アントンはこの作品をヤニスの最も多彩な歌唱と評価している。
同時に、納得できるまで何度もテイクを重ねる録音の様子にも触れていた。
多様な声を持つことと、一曲に合う歌を録り切ることが、一緒に積み上げられてきたのである。
この流れを踏まえると、「Oceandeep」の柔らかさにも別の重みが出てくる。
録音で知った声が次の作曲を変え、その曲がまた声の違う面を引き出す。
ヤニスとBeast In Blackの初期三作には、歌い手と作り手が互いの可能性を具体的な歌へ変えていく過程がある。
曲の中で高音や柔らかな声をどう使い分けるかは、ヤニス・パパドプロスの歌い方で詳しく取り上げている。

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